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嫌われ役

 校庭に残されたアデルは、隣にいるキースに話しかける。


「キース君、本当にこれで良かったの?」

「ああ、上出来だ。怖い先輩に睨まれていれば、あいつらも変なことは出来ないだろう」

「怖い先輩って……私これでも先輩には可愛がられ、後輩にも慕われ、いつも同級生の会話の中心にいる人気者なんだけど?」

「知ってるよ、クラスメイトだったんだから」

「はぁ……かわいい後輩ちゃん達が憧れるアデルお姉さまになりたかったのになぁ、君が嫌われ役を押し付けたせいで台無しだよ」

「すまない、アデルの他に頼めそうな相手がいなかったんだ」

「まああの子たちを守るためっていうなら、協力するしかないからね」


 アデルはそう言って優し気に微笑んだ。


 アデルは王立騎士学校時代のキースのクラスメイトの一人だった。明るい性格で面倒見も良く、周囲からは頼りにされる人気者であり、それは騎士となった今も変わっていない。


 第十一騎士団ではエース級の騎士として最前線で戦っていたが、先の敗戦時に大怪我を負い、今は療養しながら後方任務を担当している。


「それにしても君、少し見ない間に変わったね」

「変わった? 俺がか?」

「うん。何かこう、視野が広くなったみたいな?」

「なんとも感覚的な話だな……それより、その恰好は怪我の治療のためか?」

「ええ、騎士の制服だと魔力の消費を抑えちゃうから、魔力をいっぱい使って治療を促すためにね。あとは女子生徒の嫉妬心を煽れるかなって」

「嫉妬心?」

「私のパーフェクトボディを見せつけたら嫉妬するでしょ? あと男子の目線をくぎ付けにすれば、その子を好きな女子は私に対抗心を持つだろうし」

「そういうものか?」

「お子様のキース君には分からないかもね」

「子ども扱いするな、俺はもう大人だ」

「あはは」


 アデルが楽し気に笑うと、キースも笑みを浮かべる。


 そうこうしているうちに、騎士の正式装備に着替えた生徒たちが続々と戻ってくる。学内大会の決勝以来二回目の制服だが、やはりまだ慣れないのか生徒たちの表情は少し硬い。


 アデルは生徒たちの前では厳しい先輩を演じるために、真剣な表情に戻って口を開く。


「思ったより早かったね。更衣室は混んでなかった?」

「はい、私たちが一番乗りだったので」


 アデルの質問にエリステラがはきはきと答えると、アデルは話を続けた。


「そう。行動が早いのはいいことだね。それじゃあ他のクラスより一足先に、と行きたいところだけど、今回は全校生徒を三グループに分けて動くから、同じグループのクラスが揃うまで待ってもらうことになるね」

「アデルさん、俺たちと同じグループのクラスってどこですか?」


 手を上げてそう質問したのはクラウスだった。今までは一歩引いた位置でクラス全体を見ている印象が強い生徒だったが、キースとの面談を経て今までよりも積極的になっている。


「第一グループは各学年のA組からC組までの九クラスね」

「C組ってことは、ルカ先輩たちも一緒か」

「あとはオレーナたちもだな」


 アデルの言葉にユミールが反応し、それにラウルが返事をする。他にも知り合いがいる生徒たちはそれぞれ嬉しそうな反応を見せていた。これだけの大人数のグループで一緒に活動する行事は初めてなので、その反応も当然だと言える。


 待機時間なのでアデルも私語を咎めることはしない。


 しばらくすると他のクラスの生徒たちも着替えて校庭に集まってくる。そうして各クラスの担当騎士たちが点呼を終えると、第一グループの総勢252人が一か所に集められ、代表の騎士であるアデルが前に立つ。


「長話をするつもりはないから要点だけ。まず各クラスの担当騎士の指示には必ず従うこと。分からないことや気になることがあれば、遠慮せず尋ねなさい。あと、私の左脚の包帯を見れば分かると思うけど、今の第十一騎士団で後方任務に就いている騎士のほとんどは十全に戦える状態ではありません。万が一魔物との戦闘になった場合には、貴方たちも自分の身を守れるように準備と覚悟をしておいてください。それでは今日の行程の説明をします――」


 そう言ってアデルは広げた大きな地図を空中に固定して説明を始める。


「まず学園から西にあるクリングゾール砦に向かい、施設を見学します」


 ここまでは安全が確保されていると補足される。


「その後クリングゾール砦を越えて西に向かい、第十一騎士団の最後方陣地、そこから北西に進み北方陣地、そのまま南に進んで南方陣地を巡り、再度最後方陣地とクリングゾール砦を経由して学校に戻ってきます」


 アデルにより、淡々と行程が説明される。


「西に行けば行くほど前線の防衛網を迂回した魔物と遭遇する確率は上昇します。後方とはいえ戦場だということを常に意識してください」


 そんな説明がされると生徒たち、特に三年生は緊張した表情で唾を飲み込んでいた。


 しかしアデルの説明が全て終わって冷静になった生徒たちは、全行程の150kmを超える距離を自らの足で走って移動しなければならないと知り、一部の生徒は青ざめた表情をしていた。


 体力と身体強化魔法に自信がある生徒にとってはそこまで大変なものではない。しかし今回の行程では全員が遅れることなく到達するようにとアデルからは言われている。


 つまり苦手がある生徒のことを全体でフォローしながら、どれだけ効率的に移動できるかという工夫と団結が重要になる。


「最後に、我々は貴方たちがどのようなルールや陣形で走るのかということに口出しはしません。それでは早速移動を開始しましょう。今日中に帰ってこられることを願っています」


 アデルがそう言うと、騎士たちは生徒たちを囲むように配置につくだけで先導したりはしない。


 ここからは生徒たち自身で動き出さなければならないということに違いないが、幸い第一グループには全員から一目置かれている三年生の主席ルカ・リベットの存在があった。


 周囲から目を向けられるまでもなく、ルカは先導するように前に出ると全員に声をかけた。


「前列にC組、中列にB組、後列にA組となるように、左は一年生、右は二年生、中央は三年生という並びで一旦移動を開始する。模擬戦同様、身体強化魔法が苦手な生徒には、補助が得意な生徒がフォローに当たるように。幸いクリングゾール砦までは10kmもない、改善点に関してはそこで話し合おう」


 それぐらいの距離なら一旦は問題なく走り切れるだろうという考えもあり、最初からあれこれと時間をかけるよりは少しでも早く移動を開始した方が良いとルカは判断したようだ。


 そうしてルカに促されるまま、第一グループの生徒たちはいち早く移動を開始するのだった。


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