最善の手段
それからの一週間は、エリステラにとってまさしく地獄のような日々となった。
しかしそんな状況にあってもエリステラは決して弱音を吐くことなく、むしろ今の自分には何が出来て何が出来ないのかをひとつひとつ検証していくなど、現状を受け入れて必死に順応しようとしていた。
「こうしてみると実は、全く出来ないということはほとんど無いのですね……さすがに魔法は厳しいですが」
そしてそれはエリステラなりの発見であった。常に先を予測し、あらかじめ頭と体の準備を整えておけば、普段通りとは言わないまでもそれなりにスムーズにことを運ぶことが出来る。
体に染み付いた感覚自体が無くなっているわけではなく、あくまでもその感覚と体をスムーズに繋げられないだけというのが現状の正しい理解だった。
しかしそれを理解してもなお不安は残る。それが週明けの実戦訓練である。
「……きっと今の私は、クラスの誰よりも弱い」
それは決して過剰にネガティブになっているわけではなく、正しい現状認識だと言えた。
そもそも王立騎士学校に入学している時点でどの生徒も充分なエリートである。
たとえばそれは入試成績では最下層に位置するフェリでさえ例外ではなく、実際彼女も幼少から地元では神童と謳われていたのだ。
そんな各地から集まったエリートたちが日々研鑽を積んで成長していく中で、エリステラには気付いたことがある。
それが実戦における実力という意味では、生徒同士の間でそれほど大きな差は存在しないということだった。
もちろんエリステラは剣術であれば同学年の生徒に負けることはなく、それは四大属性魔法の扱いでも同様である。
しかし思い切りの良い判断や、相手の意表を突く戦い方、あるいは身体強化魔法などを用いた補助など、エリステラには出来ないことを得意とする生徒も数多く存在していた。
そしてそんな相手が得意とする戦い方が生きる状況になると、さすがのエリステラと言えど苦戦を強いられる。
実際キースの教えを真面目に聞いている生徒の中には目覚ましい速度で成長している者もいた。
万全の状態であってさえ苦戦させられるそれらの生徒を相手に、今のエリステラが勝てるかといえば、答えは否である。
「状況が変われば、最善の手段も変わる。であれば、今の私にとっての最善は……」
それはセオリーに固執するのではなく、自分で最善を絶えず探し続けろというキースの教えによる考え方だった。
そうして週明け最初の授業はいつも通り模擬訓練場での実戦訓練が行われる。
キースは集めた生徒を5人ずつのチームに分けていく。
その結果エリステラはフェリ、セリカ、リンナ、そして男子生徒のエッジとチームを組むことになった。
「相変わらず偏ったチーム分けするよね、キース先生は」
「でもワースト3って言われてた私たちは毎回同じチームだけど、それでもこれまでの戦績は悪くないし」
フェリの言葉にセリカがそう返す。フェリ、セリカ、リンナの三人は毎回セットでチームを組んでいたが、模擬戦の結果は悪くないどころか、クラスでも上位の成績を残していた。
偏ったチーム編成であることは間違いないが、同時にキースには明確な意図があってそうしているのは確実である。
それだけに、今回エリステラが初めてこの三人とチームを組むことになったことにも、同様に何かしらの意図があるはずだった。
ちなみにエッジという男子生徒は全ての教科においてど真ん中の成績を収めており、得意も不得意も一切ないという、これはこれである意味強烈な個性を持っているとも言える生徒だ。
しかしながらこのメンバーでは、突破力に優れた生徒を擁するチームが相手の場合、それを押し止めることに不安が残るとエリステラは考えていた。
普段であればエリステラがその剣術で圧倒することも可能だったが、今は万全の状態ではないのでそれも叶わない。
キースは一体どういった戦い方を想定してこのメンバーでチームを組ませたのだろうか。
エリステラはそんなことを考えながら、今出来ることの中から、最善の手段を模索し始めた。