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腹黒王子アラン

「くくくっ。予想はしていたが、やはりこうなったか……いや、むしろよく一年持ったと褒めるべきか?」


 王都に帰ったキースを最初に出迎えたのは学生時代の同級生であり、このスコールランド王国の第一王子でもあるアランだった。


 キースは飛び級をしているのでアランは五歳年上だったが、二人は気安く話が出来る親友の間柄である。


 アランは金髪碧眼の長身で顔立ちも整っており、実務に関しても有能とあって国民からの人気は非常に高い。一方で貴族の中には、そんなアランを疎ましく思う人間も少なからずいる。


「しかし、あのブノワの無能には困ったものだな。キースが戦果を挙げるのを後方で大人しく見ていればいいものを……」


 そう言う割りには、全く困った様子を見せないのがアランだった。普段から彼は何事にも動じず、常に自信を覗かせた態度を取っている。


「更迭する、というのはやはり無理なのか? 正直あれが指揮官である限り、無駄な損害が出るだけだと思うけど」

「ああ、現状だと難しいな。騎士団の人事に関しては貴族院の影響力が強いのもあって、こちらの一存で決められるものではないのだ。俺に出来ることといえば、せいぜいお前を士官として騎士団に送りこむ程度ということだ」

「まあそうだよな」


 それはキースも把握していたことなので、特に驚きも怒りもない。ただ何となく言ってみただけの言葉だった。


「何にせよこの一年、お前はよく働いてくれた。むしろ俺の予想ではもっと短期間で問題が起きると思っていたから、この結果は重畳だ。第十一騎士団の問題に関しても対処するのに充分な準備は整ったので、そっちは任せてくれていい」

「そうか。それなら俺は、次はどこの戦場にいけばいい?」

「……その件だが、貴族院からの通達があってな。俺の独断でキースを騎士団に配属するな、と名指しで抗議されている」

「それは……迷惑をかけてしまったか?」

「何、構わん。そもそもお前のような非常識な人間を上手くコントロールしようなどとは最初から考えていない。これぐらいのことは想定の内だ」

「……お前のその不躾な物言いは相変わらずだな」

「二十歳にもなって貴族をぶん殴るお前も大概だろう」


 二人はそんな風に、学生時代と変わらない調子で軽口を叩きあった。


「そもそもの話として、現在の第十一騎士団は騎士団の中でも序列はかなり低いからな。そこで上官を殴ってクビになった人間が、他の序列の高い騎士団に栄転したとなっては示しがつかないというわけだ」

「なるほど……しかしだとすると、俺は次に何をすればいい? さすがに研究生活に戻っていいとは言わないんだろ?」

「ああ。お前の才能をただ眠らせておくほど、俺は無能ではない。だが現在の騎士団の構造的に、お前を前線に送り込んだところで得られる戦果はあの程度にしかならんということも分かっている」

「あの程度、ねぇ」


 実際のところキースが個人として挙げた戦果は、ここ数年のどの騎士のものよりも大きいと言えるものだった。


 しかし賢者であるキースの才能を誰よりも良く知り、高く評価しているアランにとっては、それでさえも不足しているという認識なのである。


「今の騎士団には、魔物の勢力圏となってしまったお前の生まれ故郷を奪還する力はない。それは最強の賢者という圧倒的な力を持つ一兵卒がいても変わらない。であれば、根本的なところから変えていくしかないだろう?」

「根本的なところ?」

「そうだ。実は前々からお前のことをセレーネが欲しがっていてな」

「セレ姉が? ……いや待てよアラン、セレ姉って確か今は」

「ああ、現在セレーネは王立騎士学校の理事長をしている。ということでお前には教師として、未来の騎士たちを育ててもらおうという話になった」

「いやいやいや、俺が教師って正気か? 俺の魔法はほとんどの部分が我流だってのは、アランだって知ってるだろ?」

「無論だ。というよりも学生時代のお前に屈辱を味わわされた俺からすれば、これ以上の適任もないと思うのだがな」


 アランの言う屈辱というのは、学生時代の試験での話である。


 成績で常に一位だったキースを万年二位のアランはライバル視していたが、そうしたアランの対抗心を疎ましく思ったキースは、ある時クラスの暇そうな人間を集めて勉強会を開いた。


 その結果、勉強会に参加したクラスメイトたちが次の試験で軒並みアラン以上の成績を修め、アランは二位どころか十位以内に入ることすら出来なかったのである。


 それ以降アランはキースと張り合うことを止め、自らキースに頭を下げて教えを乞うようになったが、それはアランからすれば人生において唯一敗北を認めた瞬間だった。


 しかしそれはキースからしても、アランの心を折って自分と関わらないようにさせようとしたにも関わらず、決して歩みを止めることのないアランに押し切られたという、苦い記憶でもあった。


 アランは誰よりもキースの才能を認めており、キースは誰よりもアランの執念を認めている。


 そんな風にして、今の二人の関係性は成り立っているのだった。


「いやまあ、あの話を持ち出されると俺も弱いんだけど」

「何にせよこれはすでに決定事項だ。お前は来月からさっそく教師として働いてもらう。ああ、表向きは左遷ということにしておくので、言うまでもないが俺の関与は他言するなよ」

「分かった……って、来月って明後日じゃねぇか!」

「そうだな。だが別に問題あるまい?」

「俺が断らないことを前提に話を進めやがったな? ……この腹黒王子が」

「何とでも言え。それで俺という人間の本質が変わるわけでもないがな」


 キースの恨み節を聞いたアランは、決して揺るがない自信に満ちた笑みを浮かべながら、くくくと楽しそうな笑い声をあげるのだった。


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