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特別指導

「では、そうだな……今から俺が魔法でセリカとリンナの身動きを封じるから、三人で協力してその捕縛状態から抜け出してみろ」

「え、三人で協力って言われても、それフェリ以外動けないんじゃ――」

「始めるぞ」


 キースは模擬訓練場に集まったフェリ、セリカ、リンナの三人に指導内容を伝えると、セリカの質問を無視して、さっそく両手で虚空を掴むような動作で魔法を発動した。


「んっ……」

「あっ……」


 セリカとリンナが一瞬びくりと体を震わせ、その体に生じた違和感に小さく声を上げる。


「これで二人の動きは完全に封じられた。さあどうする?」

「フェリ、とりあえずキース先生を攻撃……んんっ! …………? …………!」

「ちなみにこうして声を封じることも出来るし、引き寄せたりも出来るからそれも考慮に入れておくことだな」


 フェリに指示を出そうとしたセリカの声を実際に封じることで、魔法の効果を三人に教えるキース。


 それでもセリカの言葉の重要な部分は伝わっていたので、フェリは自身に身体強化魔法をかけると、セリカの指示通りに剣を構えてキースに向かって行く。


「ほう、俺に一人で向かって来るか……先週までのお前からは考えられないな」

「私だって、出来るんだから」

「確かにそうだな。クラスの連中とお前たちの間に、現状そこまで大きな差はない……だが、それにしたって無謀だろう」


 三十人がかりで勝てなかったキースに、フェリが一人で向かっていくことで何が起きるのか――当然、何も起きるはずがなかった。


 剣を振り上げたフェリに対し、キースは体勢を低くして一歩踏み込むと、そのまま軽く肩をフェリの体にぶつける。


 フェリの体重移動に完璧なタイミングで合わせられたキースの体当たりは、たったそれだけのことで簡単にフェリを仰向けに倒してしまう。


「わっ」

「いくらなんでも隙だらけだぞ」


 そう言ってキースは倒れたフェリの手を踏みつける。肉体的ダメージは魔力へのダメージに置換されるので指が折れるようなことはないが、痛みはそのままダイレクトにフェリに伝わり、それによって剣を手放してしまう。


「唯一自由に動けるお前がこんなに呆気なく倒されては、あいつらが自力で脱出する時間稼ぎにすらならんだろうが」

「うっ、でもセリカも言ってたし、それに先生は両手が塞がっているから……」

「両手が塞がっていれば勝てる、とでも? まずその見通しが甘すぎるし、そもそも俺の両手は別に塞がっていないぞ」


 そう言ってキースはそれまで握っていた両手を開いて倒れているフェリに左右の手のひらを見せる。


「握る動作は発動時のルーティンであって、維持には別に必要ないというわけだ」

「え、じゃあどうしてずっと握って――」

「そうしておけば勝手に勘違いしてくれるかも知れないだろ? フェリみたいに早とちりした奴がな」

「そんな、ずるい……」

「はっ、そんな言葉が戦場で魔物相手に通じるかよ。もっと観察眼を働かせて工夫しながら戦うんだな」

「じゃあ……えっち! 変態! 女の子を拘束して好き放題するケダモノ!」

「誰が罵倒の言葉を工夫しろって言ったんだよ!」


 そう言って怒鳴りながら、キースは落ちているフェリの剣を模擬訓練場の端まで飛ばす。


「ほら、失敗した罰だ。全力で走って拾ってこい」

「ううっ、走るの苦手なのに……」

「そんなこと言ってると身体強化魔法が泣くぞ」


 泣き言を言いながらも、素直に全力疾走で剣を拾いにいくフェリ。


「お前たちも、もっと色々工夫してみたらどうだ。最初の模擬戦のときのエリステラは単独でこの捕縛状態から抜け出していたぞ」

「…………!」

「…………」

「あ? 何も聞こえんな……まあ俺が声を封じているんだけどな」


 セリカとリンナは睨みつけるようにしながらキースに何かを言ったようだが、当然ながらその言葉が音になることは無かった。


「大体これは自分たちで望んだ指導だろう。自信を持つのは構わないし、未来に希望を持つのも自由だが……まずはこの現実から目を逸らすなよ」


 そんな風にキースは厳しい言葉を投げかけながらも、どこか嬉しそうににやりと笑っていた。




「いくら何でも酷くない!? というか先生、私たちを痛めつけながらずっとにやにやしてたし、あれ絶対危ない人だって! 変態教師だよ!」

「まあフェリがそう言いたい気持ちも分かるけどね、実際ずっと走らされてたし」

「……でも先生の言葉は、全部事実」


 学校に備え付けのシャワールームで汗と汚れを洗い流しながら、三人はキースの特別指導についての感想を言い合っている。特別指導の結果は散々で、結局セリカとリンナの捕縛状態を解除することは最後まで出来なかった。


 フェリは様々なパターンでキースに挑んでは剣を飛ばされてを繰り返していたが、セリカとリンナも身動きを封じられながらも様々な術式を構築して、捕縛状態を抜け出そうと必死にもがいていた。


 そのせいもあってか、決して長い時間の指導ではなかったが、シャワーを浴びている三人は疲労困憊といった様相を呈している。


「というか、ああやって見えない力で身動きを封じてくる魔物がいるって話も驚きだったよね、何だっけ、中型の魔物の――」

「ミラージュハンド」

「そうそれ」


 セリカの言葉に、リンナがすぐさま答えを返す。


 ミラージュハンドとは、両腕がもがれたカカシのような中型の魔物であり、比較的近年存在が確認された魔物だった。


 魔物の種類やそれぞれの特徴を学ぶ教科は一年生のカリキュラムにはないため、古くから知られている有名な魔物くらいしか知らないという一年生も多い。


 ただリンナは斥候を目指していることもあり、魔物の判別は最重要項目のひとつなので、当然ながらそれらの知識は充分に有している。ただし現時点ではカリキュラム外なので成績に反映されることはなかった。


 そんなミラージュハンドの話題の中で、突然フェリが何かに気付いたような表情で口を開く。


「……でもさ、変じゃない?」

「変って、何が?」

「魔物の固有能力って厳密には魔法とは違うから、人間には扱えないって言われてるでしょ? だったら、キース先生がミラージュハンドの能力を再現出来るのって、おかしいよね?」

「確かに言われてみればそうだね……というか先生って、そもそも得意属性って何だっけ?」

「……たぶんまだ聞いたことない」

「というかあれだけ強いのに騎士をクビになったって所からしておかしいよね」

「そう考えるとおかしい所だらけだね……それにしても、何でクビになったんだろう?」

「……騎士団長を殴ったり?」

「あはは、まさか! 確かに先生頑固そうだけど、いくら何でもそんなことしないでしょ」

「というか普通に投獄、最悪処刑コースだよね、それ――」


 そんな風に謎だらけのキースについて、三人はああだこうだと憶測で話を広げていくのだった。


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