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左遷された最強賢者、教師になって無敵のクラスを作り上げる  作者: 鈴森一


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強者の戦い方

 全ての模擬戦が終わった段階で、かなり早めに一時間目の授業を切り上げて生徒を解散させたキースは、運び込まれた生徒たちの様子を見るために医務室へと顔を出していた。


「――キース先生、いくら何でも多すぎます! 一体何をどうしたらこの時期の一年生の実戦訓練で一気に十人も医務室送りになるのですか! 模擬訓練場だからって体にダメージが残らないわけではないんですよ!」

「アクリス先生、寝ている生徒たちがいるのだからお静かに」

「誰のせいですか誰の!」


 一時間目の授業中から次々に運び込まれてくる一年A組の生徒たちで、この比較的広い医務室のベッドもほぼ全て埋まっていた。


 医務室の担当教師としては、さすがにアクリスも職務上見過ごせないとばかりにキースに注意する。とはいえもちろんアクリスも本気で怒っているわけではなく、学生時代から二人の間でこういったやり取りは頻繁に行われており、言ってしまえばいつものじゃれ合いのようなものだった。


「う、ん……?」


 そんな騒がしさもあってか、ベッドで眠っていたエリステラが目を覚ます。


 彼女は最初に運び込まれたこともあるが、やはり魔力量などの面では他の生徒よりも頭一つ抜けて優秀であり、その回復も早いようだった。


「目が覚めたか、エリステラ。……どうだ、クラスのワースト3の連中に医務室送りにされた気分は?」

「くっ……先生には、デリカシーというものがないのですか?」

「くすっ」


 あまりにも酷いキースの物言いに、思わず言い返すエリステラ。そんなエリステラの言葉を聞いて、アクリスは小さく笑う。


 それはかつて学生時代に、アクリスも全く同じ言葉をキースに投げかけたことを思い出したからだった。


「しかし、お前たちはあまりにも酷い戦い方をしていたからな。作戦を立てて戦闘中に指示を出していたのはエリステラだろう? であれば、今回の敗戦の責任の大部分はお前にある、ということは賢いお前なら当然理解しているはずだ」

「それは……」

「キース先生、もう少し優しい言葉で」

「アクリス先生、余計なお世話です。そもそも俺は別に怒っているわけではない。責任の所在がはっきりしている以上、エリステラには敗因を分析して改善してもらわなければならない、という話だ」


 キースはいつも通り淡々とした雰囲気でそんな風に言う。


 普通に聞くとそれは怒っているようにも聞こえる口調だが、キースの場合そうではないということは、エリステラにもようやく理解出来るようになってきた。


 キースは成果を評価する。であれば当然、敗北したエリステラを評価することはない。その上でもし評価することがあるとするなら、それはエリステラが敗北から学び、次に繋がるものを得られた場合である。


「……敗因ははっきりしています」

「ほう、言ってみろ」

「私はバラック先生の授業で習ったセオリーを元に陣形を組みました。しかしそもそも、その時点で間違っていたのです。何故ならこの学校で教わるのは、あくまでも魔物との戦いにおけるセオリーであって、人間と戦うためのセオリーではないのですから」


 セオリーとは理論を意味する言葉であり、この場合は目的を達成するために最適化された手段のことだった。つまり目的が違えばそれは当然変化するものである。


 しかしエリステラは模擬戦において、フェリたちのチームに勝利するという目的に最適化された手段を用いたとは言い難かった。


 誤った手段を用いれば、当然ながら目的の達成からは遠ざかる。エリステラは自分のチームの敗因はそこにあるのだと言った。


 そもそも小型の魔物よりも打たれ弱い人間を倒すのに、ラウルの扱うような高威力の魔法は必要ないのである。ラウルを前に置き、二属性の様々な魔法の扱いに長けたエリステラが後衛を務める形であれば、おそらくエリステラたちが勝利していたはずだった。


 そうしたエリステラの敗因分析を聞き、キースは及第点と言わんばかりに小さく笑みを浮かべる。


「その通りだ。教えられたとおりにやったのだから失敗してもいい、なんて理屈は無いように、お前はあのとき自分でその場における最適解を探す必要があったというわけだ。それに、もしかしたら教え自体が間違っている可能性だってあるのだからな」


 キースは以前から、キースを無能だと思うのであれば授業を受けなくてもいいと生徒たちに言っていた。それはそうした教え自体が間違っている場合は、自分で正解を探せという意味も含んでいる。


 キースはそのまま模擬戦についての詳細な解説をする。


「エリステラはあのとき、俺がフェリたちに何か策を授けたと思って警戒していただろう?」

「はい、そうです」

「まあ実際その通りではあったのだが、しいて言えばお前がそう警戒するように仕向けたことが一番の策だったかも知れないな」

「……? それは一体――」

「お前は策を警戒して不安になり、だからこそ安心を求めてセオリーにすがった……そんなお前の心の弱さが、今回は一番の敗因になったというわけだ」

「…………」


 実際エリステラは相手が何をしてくるか分からない状況で、考えを一旦保留する形で授業で習ったセオリー通りの陣形を組んでいた。それであれば少なくとも大失敗をすることはないだろう、と。


 そしてその陣形が相手も同じであったことを確認して、安堵したのだ。


 ――同じ陣形であれば、実力で上回る自分たちが勝つはずだ。


 しかし実際は、明確な意図を持って組まれたフェリたちの陣形とその作戦によってラウルが完全に無力化され、残るエリステラとユミールもリンナに振り回されて本来の力を発揮することなく敗れたのである。


「一つだけ教えてください。仮に先生が私の立場であれば、どんな作戦を立てましたか?」

「俺がエリステラだったとしたら、か。面白い質問だが、つまらん答えになってしまうな……俺だったら開幕から三人で突撃して電撃戦を仕掛ける。個の強さを押し付けて、フェリたちには何もさせずに蹂躙するような強者の戦い方を展開する……それこそ、魔物が俺たち人類にそうするようにな」


 そう言って笑ったキースの目を見たエリステラは戦慄を覚え、一瞬背筋をぞくりとさせる。


 キースの瞳に宿るのは、魔物に対する抑えきれない憎悪。


 それはいつも大胆不敵な態度で笑うキースからは感じられない、どこまでも暗い感情だった。


 しかしすぐにキースは普段通りの表情に戻り、そのまま口を開く。


「とはいえ対人戦のスキルは魔物との戦いで必要なわけではないし、騎士学校の成績でも大して重視されるものでもない。今後のお前にとって必要ないのであれば、別に捨ててしまっても構わないものだ」

「いえ、そういうわけには行きません。だって私たちは、来月の学内大会で優勝を目指しているのですから」


 それは先週の段階でキースが一年A組の生徒たちに定めた、共通の目標である。


 当然ながら生徒たちからは無理だとする声が多く上がったが、そんな中でその目標を最初に支持したのがエリステラだった。


 エリステラは過去に一度だけ一年生による優勝があるという例を挙げ、自分たちもそこを目指すべきだとクラスメイトの前で力説した。そうしてエリステラの言葉に引っ張られる形で、他の生徒たちも最終的にはその目標を見据えて努力することを誓ったのである。


 そんなエリステラと生徒たちの姿を見たキースは、やはりエリステラには指揮官として特別な才能があることを再認識した。


 しかし、だからこそ気になるのだ――時折覗かせる、エリステラの心の弱さが。


「それに私は……強くなりたいのです」


 それは自分の弱さを自覚しているからこそ紡がれる言葉であり、そこにはエリステラの悲壮な思いが込められているのだった。


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