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左遷された最強賢者、教師になって無敵のクラスを作り上げる  作者: 鈴森一


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番狂わせ

 キースの号令によって、最初の模擬戦が開始される。


 フェリたちがキースからアドバイスを貰っていたことを見ているエリステラたちは慎重に戦う方針に決めたようで、前衛にユミールを置いて中衛に万能のエリステラ、後衛に高威力の魔法を扱うラウルというバランスの良い陣形を組んだ。


 これはバラックが授業で教えた三人組での基本陣形であり、後衛の高威力の魔法が発動するまでの時間を前衛が稼ぎ、中衛は後衛を守ったり前衛に加勢したりといった形で戦っていく。


 同様にフェリたちも前衛にリンナを置き、中衛にセリカ、後衛にフェリといったほぼ同じ陣形を組む。ただしこちらは高威力の魔法を扱える者がいないため、前衛が時間を稼いだところで戦況を大きく動かすようなことは期待できない。


 そのためフェリたちがこの形での戦いを続ければやがてじり貧となり、ラウルの魔法に押しつぶされる形でエリステラたちのチームが勝利する――そうクラス中の生徒全員が思っていた。


 しかし今この瞬間、フェリたちが最初で最後の賭けに勝利したことを、キースだけが認識していた。


「――ファイアショット!」


 前衛同士がぶつかり合った直後、セリカが誰よりも早く魔法を完成させ、人差し指で狙いを定めるとその先から手のひら大の火の玉を連続で射出した。


 それは一撃で試合を決定づけるほどの威力はないが、決して無視出来るような魔法でもない。狙われたラウルは詠唱中の魔法を破棄して、回避行動を取る。


 それを見たエリステラが魔法発動後の隙を突こうと、セリカ目掛けて前に出た。


「えっ――」


 しかし死角から振られた剣を防御させられ、足止めされる。その攻撃はフェリの身体強化魔法の補助を受けたリンナによるものだった。


「悪いエリステラ! リンナの動きが思った以上に速くて」

「いえ、大丈夫です……それでは先にリンナを二人で倒しましょう」


 そうしてエリステラとユミールは二人がかりでリンナを抑えようとする。しかし――。


「何故リンナに俺たちの剣が、こうも完璧に捌かれるんだ!?」


 二人がかりでの攻撃を数回、完璧なタイミングでの回避と防御を織り交ぜて対処するリンナにユミールが驚きの声を上げる。


 実際リンナとユミールであれば、剣術の成績はユミールの方が上だった。一対一の戦いであれば、ユミールが大きく勝ち越すことは間違いない。


 しかも今はそこにクラスで最強のエリステラまでもが加勢していた。リンナがこの二人と同時に戦えば、一瞬で倒されるくらいの明らかな戦力差がそこにはある。


 しかし何故かリンナは無傷のまま、その後も二人からの攻撃に対処し続けていた。


 普段のリンナを知る人間からすればそれは明らかな異常事態であり、観戦していた生徒たちはざわざわと騒がしくなり始める。


「先生、何かしたんですか?」

「馬鹿を言うなグラハム。生徒同士の模擬戦で教師がそんな依怙贔屓をするわけないだろう」


 そんな風に普通であれば聞きづらいようなことも、やはりグラハムは物怖じすることなくキースに尋ねる。


「でもこんなの、絶対変ですよ」

「確かに今のリンナは普段以上に鋭い動きを見せている。だがそれはフェリの身体強化魔法によって身体能力が向上しているだけの話で、何も不思議なことはない」

「いやいや、それにしたってあそこまでの技術はリンナにないですって」

「あれはリンナが元々得意としている探知魔法と五感強化魔法によって相手の行動を先読みしているだけで、普段からリンナがやっていることだ。ただリンナには先読み出来ても、それに対処できるだけの身体能力が無かった……だからその欠点を身体強化魔法で補えさえすれば、あれくらいのことは元々出来る奴なんだよ」


 目で見えていても体が反応出来ないのでは意味がない。それこそが普段のリンナが抱えていた最大の弱点である。


 いずれは自分で身体強化魔法を使えるようになってもらわなければ困るところではあるが、しかしまだ入学したての現時点では仕方ない話でもあった。


「だから俺はリンナには身体強化魔法の習得と魔法の出力向上を最優先するように学習指針で言ってある。それだけであいつは簡単に化けるからな」


 元々斥候としての適性が高いリンナは、そうした生存能力を重視した教育を家でも受けてきている。


 騎士団における斥候の役割は魔物の戦力や進軍方向などの情報の収集ではあるが、そうして得た情報は必ず生きて持ち帰らなければならない。だからもし魔物の領域での単独活動中に魔物に見つかったとしても、死ぬことは許されないのである。


 リンナは現時点でこそ成績は低いが、代々優秀な斥候を輩出している家系の娘であり、本来は才能に溢れた少女である。ただまだその才能が眠ったままであるだけなのだ。


「とはいえリンナは生存能力に特化した人間だから、現状二人を倒す能力はないわけだが」

「え、それじゃあ結局この試合はエリステラたちが勝つってことですか?」

「別にそうは言っていない。実際、セリカの弾幕によってラウルは何も出来ないまま消耗させられているだろう」


 ラウルは高威力の魔法を扱える一方で、小回りの利く魔法を苦手としていた。仲間のフォローがあてに出来る騎士団においては大型の魔物に効果を発揮する、威力のある魔法が高く評価される傾向にあり、王立騎士学校の評価基準もそれに準じていたが、そうした魔法は実戦において妨害に弱いという明確な弱点があった。


「ばんっ、ばんっ、ばーん! ってね」

「くっ……」


 実際魔物にも今のセリカのように絶え間なく攻撃を仕掛けてくるタイプは存在しており、また戦場では無数の小型の魔物が後衛のラインまで浸透してくることも頻発する。


 そうした場合に、発動に時間のかかる魔法しか扱えない騎士は一気にお荷物になってしまう危険性があった。


 逆にセリカのような威力が低い代わりに回転の良い魔法を扱える騎士は、小型の魔物に対応する能力が高く、実際の戦場では弾幕を張り魔物の浸透を防ぐ役割で活躍することも多い。


 そんな風に戦況や戦い方によって、求められる能力は変化するものだった。高い能力を持っていても、正しい戦い方が出来なければそれを発揮することは出来ない。だからこそキースは今日の模擬戦を通して、戦術の重要性を生徒たちに教えるつもりなのだった。


 リンナに二人が引き付けられていることでラウルの消耗が激しくなっていることに気付いたエリステラは、この状況を打開するために再度戦い方を変更する。


「リンナは一旦無視しましょう。あの速さは厄介ですが、攻撃に関しては気を配っていれば対処できるレベルです。今はとにかくセリカを最優先で倒します。ラウルも前に!」

「ああ」

「わかった」


 エリステラの作戦を聞いたユミールとラウルがそう返事をする。


 そうしてリンナを無視する形でエリステラとユミールは中衛のセリカに押し寄せ、二人のカバーに入る形でラウルがリンナに向かって行く。


 そのように一気に戦況が動いた、その瞬間――リンナ、フェリ、セリカの三人は小さく笑みを浮かべた。


 それはまさしく、この瞬間を待っていたのだと言わんばかりに。


 まず二人に狙われたセリカがより深く誘い込むように後退する。同時にフェリが前進し、リンナは二人を追いかける。リンナに向かっているラウルは元々の位置が遠かったこともあるが、そもそも身体強化魔法を受けているリンナには追い付ける状況ではなかった。


 そうしてわずかなタイミングだけ局所的に人数差が生まれる。突出したエリステラとユミールを三人が包囲する形になった瞬間、一斉に剣が振られた。


「くっ!」


 背後からのリンナの急襲をさすがの反応で返すエリステラ。正面からのセリカの斬撃はユミールが対処する。しかし――。


「はぁぁ!」


 横合いから自身に身体強化魔法をかけたフェリが突入してくる。その振るわれた剣は狙いもバレバレで、明らかに筋が悪いといえるものだった。


 しかしどんなに不慣れで筋が悪いフェリの剣であっても、すでに斬撃を受け止めた状態で足を止めている相手に、当たらないはずはないのであった。


「……決まったな」


 観戦する生徒たちがその光景に絶句する中、キースだけが冷静にそう呟く。


 模擬訓練場では肉体的ダメージは大部分が魔力へのダメージに変換されるため、フェリに一刀両断された二人に外傷はないものの、魔力を一気に失った二人は一瞬で意識を刈り取られる。


 そうして一人残されたラウルは、信じられないものを見たような表情で、しかし次の瞬間にはその事実を認めて潔く降参した。


「よし、それじゃあ勝ったチームはそのまま気絶してる奴らを医務室まで運んでやってくれ。このまますぐ次の試合を始めるから順番のチームは準備しろよ――」


 クラスのトップ3が集まったチームを、ワースト3が集まったチームが破るという衝撃的な出来事を目の当たりにしてざわつく生徒たちに、しかしキースはどこまでも淡々とした様子で冷静に指示を出すのだった。


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