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弱者の戦い方

 一年A組の週明けの最初の授業は、先週と同じく実戦訓練だった。


 全員が着替えて模擬訓練場に集まったのを確認したキースは、さっそく本日の授業内容を説明する。


「先週の俺との模擬戦を思い出してもらえば分かると思うが、仲間との連携は人数が増えるほど難しくなる。ということで今日の実戦訓練は三人組での模擬戦だ。三人組は騎士団での編成における最小単位となるので、まずはその人数での戦い方を学んでもらう。組分けはこちらですでに決めてあるから、今から言ったメンバーで集まるように」


 そうしてキースは三十人の生徒を三人ずつ十組に分ける。


 しかしその組み合わせを見た生徒から、すぐに抗議の声が上がった。


「先生! いくらなんでもこれはバランスが悪すぎますよ!」


 最初にそう言ったのはまっすぐな茶髪が特徴的な男子生徒のラウル・オリオール。彼はこのクラスでエリステラに次ぐ成績を誇っており、その実力の高さはクラス全員が認めるところである。得意属性は火で、その大火力の魔法は新入生離れしていると評判だった。


 そんなラウルがキースに抗議したのにはもちろん理由がある。それはこのクラスの成績トップ3であるエリステラ、ラウル、ユミールが集まっていたからだ。


「ほう、何だラウル。エリステラとユミールでは不満か?」

「逆ですよ、これでは強すぎると言っているのです」

「そうか、随分と自信があるようで何よりだ。それなら俺はお前たちのチームには口出ししないから、その自信通りの結果を見せてくれ」


 キースはそう言って不敵に笑うとその場を離れ、準備運動を始めている生徒たちを一組ずつ個別に呼び出して話をしていく。


「先生ー、いくらなんでもこのチームは酷くない? クラスのワースト3が勢ぞろいなんですけど」


 キースに呼ばれてさっそく砕けた口調で文句を言ったのはセリカだった。普段の制服とは違い、さすがに訓練着は着崩さずにちゃんと着ているが、それでも抜群のスタイルを誇るためかどこか周囲と違った雰囲気を身に纏っている。


 ちなみに彼女の得意属性は火で、最大火力は低いが連発出来るのが特徴だった。


「そうですよー。特に私なんて、四大属性はどれも上手く使えないんですから」


 フェリは相変わらずののんびりとした雰囲気で言う。


 実際フェリの言う通り、彼女は四大属性の中に得意属性を持っていない。強いて言えば水という形ではあるが、それも他の生徒と比べると効果は大きく劣っていた。


 ただしフェリは身体強化魔法や治癒魔法といった方面でいくつかの種類の魔法を扱えて、それによって王立騎士学校の入学試験に通ったことをキースは知っている。


「……やれるだけは、やるけど」


 リンナも淡々とそう言ったが、どこか自信なさげな様子を見せていた。リンナの得意属性は風で、その他代々斥候の家系ということもあって探知や五感強化などの魔法をいくつか扱うことが出来る。


 ただしどの魔法も出力に劣ると評価されており、そのため入試の成績も下位となっていた。


 そんな彼女らに対して、キースはどことなく得意げな笑みを浮かべて言う。


「お前たちは今日の模擬戦で最初に戦ってもらう。ちなみに相手はエリステラたちのチームだ」

「ほら、やっぱり対戦相手まで酷いし! ……何先生、私たちに恨みでもあるの?」

「まさか。ただ俺はお前たちが勝てば、このクラスのお利口さんな連中の凝り固まった考え方を、手っ取り早くひっくり返せると思っているだけだ」

「先生、そういうのを机上の空論っていうんですよ?」

「まあそう言うなよ。大体連中がいくら優秀だと言っても、せいぜい新入生の中での話だろう。それにお前たちだってこの王立騎士学校に入学出来たくらいなんだから、最低限の基礎能力はあるんだよ。だったら戦い方次第で、充分に勝機は作れるはずだ」

「……でも私たち三人は、戦いがあまり得意じゃない」


 キースの言葉に対して、リンナは平坦な口調で言った。実際この三人は一年A組の生徒たちの中でも、特に戦いを苦手としているメンバーである。


 まずフェリは平民出身ということもあり、幼少の頃は剣に触れる機会が少なく、現在も武器を使った近接戦闘ではどこか不慣れな様子を見せていた。その上魔法に関しても攻撃力はほぼ無いに等しい。


 リンナは貴族の出身であり剣術などは申し分ないが、本人の特性として魔法の出力が弱く、戦闘において重要となる攻撃力が足りていない。


 セリカも貴族の出身で剣術はある程度こなせるが、威力の高さが特徴とされる火属性を得意としていながら、魔法の威力で周囲に明確に劣っており、そのことが彼女の自信を失わせていた。


「確かにお前たちがそう思い込むのも無理はない。実際エリステラたちは魔力量も変換効率も優秀で、扱う魔法の威力も申し分ない上に、剣術まで全員が得意としている。まともにぶつかったら勝ち目はないだろう……だが、何も相手の得意とする領域で戦ってやる必要はない」


 そう言ってキースは、三人に簡単な戦い方を教える。それは相手の強みを発揮させないようにしつつ、逆に自分たちは局所的な優位を最大限に生かして戦う、弱者の戦い方だった。


「お前たちの基本方針は耐えの一手だ。敵の攻撃の察知と回避に長けるリンナを前に置き、生存を最優先してフェリがそれを治癒魔法と身体強化魔法でフォローする。セリカは連発可能な魔法を中距離からひたすらばら撒き、相手が魔法を発動出来ないように妨害に徹しろ」

「えっと、それだけですか?」

「ああ。とにかく無茶をせずに、相手の狙いを潰しながら戦いを長引かせろ。そうやって焦れさせていけば、相手も戦い方を変えてくるだろう。後衛であるフェリか、あるいはセリカか、どちらかに狙いを絞って全力で突っ込んでくるはずだ」

「あの三人に全力で向かって来られたら、私たちさすがに耐えられないんですけど」

「だがその瞬間は、確実にお前たちにとっての好機となる。そして来ると分かっている好機なら、ものにするのはそう難しいことじゃない。焦ってリンナへの警戒が不充分なまま突出した相手を、全員で包囲する形で一斉に攻撃して確実に仕留めろ」

「……そんなに上手く、いく?」

「それはお前たち次第だ。……だが出来ないと思う人間だったら、俺は最初からやれとは言わない」


 キースが教えた戦い方は非常にシンプルなものであり、やはり三人はそんなに上手くいくものだろうかと半信半疑の様子だった。


 とはいえ他に何か有力な策があるわけでもなく、それに元々負けて当然の相手ということもあってか、結局三人はキースの作戦通りに戦うことにするのだった。


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