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魔物の狙い

 エリステラとアデルが地上に出ると、周囲は焦土と化していた。


 巻き上がった土煙がまだ残留しており、視界が悪い。


 パチパチと、草木がまだ小さく燃える音を立てて、風が粉塵と共に焦げた臭いを運んでくる。


 きっと少なくない魔物も巻き込まれたのだろうが、魔物は力尽きると霧散するため、どの程度の数がヴァースキのブレスに巻き込まれたのかは不明だった。


 地上に出てみたものの、アデルが想像していた以上に得られる情報が少ない。あの空を泳ぐ大蛇、ヴァースキの姿すら確認できなかった。


(トールの魔法が放たれたのかどうかも分からない。もしヴァースキが無傷なら、すぐに第二射が来る可能性もある――)


 アデルはすぐに考えをまとめて、エリステラに指示を出す。


「……急いでトールたちのいた場所に行くわよ」

「はい」


 地下に飛び込む前の記憶から、正確な方向に走って進む二人。


 この先に待つのは仲間か、それとも残酷な現実か。


 アデルに不安な気持ちはあれど、今は一刻も早く状況を確認して次の行動を起こさなければならない。ヴァースキ暗殺が失敗したことはおそらく斥候によってアルドロスに伝えられるだろうが、それでも次の作戦に向けて一早く帰還する必要があった。


 そろそろだ――アデルがそう思った瞬間、ふと視界が開けた。


 そこにあったのは、無事な三人の姿。


「トール!」

「アデル、無事だったか!」


 お互いの無事を確認し合う二人。続いてそのまま五人で無事を喜び合う。


「スウェイル先輩とサローナさんも、よく無事で」

「僕たちからすれば、アデルさんたちの方がよく無事だったと思うけど……咄嗟に地下に飛び込んだのか、相変わらず恐ろしい判断力だね」

「一か八か、迷っている時間がなかっただけです。それより状況は?」

「ヴァースキは俺の魔法で撃破完了だ。ブレスはサローナが完璧に防いでくれたよ、凄いな彼女。というかアデルの人選も完璧だったな、エリステラといい、この二人をよく見つけてきてくれたよ本当に」

「あはは、まあねー」


 トールに褒められて、アデルはそう言って誤魔化した。本当はサローナがヴァースキのブレスを防げるとは微塵も思っていなかったのだけども。


「というか何だったんだあれ、見たことない構造の魔法障壁だったけど」

「あれは術式自体を立体構造で記述することで情報量を増やして、魔法障壁自体を多層的かつ立体的にすることで強度を高めてみたんです」


 真面目に解説するサローナはどこか得意げな表情を見せる。そんなサローナにトールは聞きなれない言葉について再度尋ねた。


「術式を立体構造……?」

「セレーネ様が得意としている手法で、古くにインファンタリア家が開発したものだと聞いています。一応広く公表されているのですが、難解すぎて活用できる人があまりいない……というか、私もつい最近までは全く扱えていなかったのですけど。いや、それよりこの後はどうしますか?」


 魔法の術式の話はいくらでも出来てしまうサローナだったが、今はまだ戦場の真っただ中だったと気付いて、まだ話を聞きたそうにしているトールには悪いと思いながらも、途中で話を打ち切ってリーダーのアデルに話を振る。


「そろそろ日も落ちますし全員消耗もあるのでどこかで野営をした後に、予定通り北から迂回するような形で安全第一で撤退します。ヴァースキを倒したことで、混乱した魔物たちの進行が遅れてくれるといいのだけど――」


 そう言ったアデルに対して、それまで沈黙を守っていたエリステラが、収まってきた土煙の向こう側を見ながら口を開く。


「……アデルさん、撤退は急いだ方が良いかも知れません。魔物たちの進行速度が上がっています」

「え、どうして……スウェイル先輩、エリステラさんの言ってることは本当ですか?」

「……ああ、間違いないね。僕の測量でも魔物の速度は上がっている」


 エリステラの感覚だけでなく、斥候であるスウェイルの測量でも同じ結論が出るのであれば間違いなかった。


「といっても厄介なヴァースキは倒したんだ、防衛戦はアルドロス騎士団長代理が上手くやってくれるんじゃないか?」

「トールさんの言う通りだと良いのですが……」

「エリステラさん、何か気になることがあるの?」


 アデルに尋ねられ、エリステラは少し考えながら話す。


「これは以前父が言っていたことですが、魔物はただ闇雲に攻めてくるのではなく、統率が取れた状態で明確に狙いを持って攻めてくる。そして主力を倒して狙いが達成困難になれば、魔物を撤退に追い込むことが出来るのだ、と。でも今はそうなっていない……つまり魔物にとって現状はまだ、狙いが達成可能ということです」

「つまり、何……魔物がヴァースキを囮に使ったということ?」

「そこは分かりませんが、確実なのは私たちの事前の見立てが間違っていたということです」

「俺たちの事前の見立て?」

「作戦説明で聞いたのは『本隊が大規模な戦闘に突入するのは明後日の昼ごろ』という話でした。ですがおそらく、あの魔物たちは大規模な戦闘に突入することはないと思います」

「何故そう思うんだい?」

「大規模な戦闘を行うなら、ヴァースキを失うことを許容するはずがないからです」


 大規模な戦闘を行うならヴァースキは戦力として重要であるはずで、それを失えばアデルが思っていたように、魔物は混乱して進行が遅くなるのが本来あるべき姿だった。


 逆にヴァースキを失っても問題ないと魔物が考えているのだとすれば、それは大規模な戦闘を行う気がないからだと考えられた。


「魔物の狙いが何かはまだ分かりませんが、だからこそすぐに対応できるようにいち早く本隊に合流すべきだと思います。私たちはともかく、アデルさんとトールさんは第十一騎士団の数少ないエースなんですから」


 エリステラのはっきりとした意見を聞いたアデルたちは、エリステラの戦術眼に驚きながらも、すぐさま撤退を開始するのだった。


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