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進むべき道

「――アクアレイ」


 エリステラは剣先をまっすぐと前に向け、進路上にいる魔物に気付かれない距離から一撃で撃破する。


 ここまですでに何度も行っているが、エリステラは集中を維持しており、疲れた様子は見せない。


 エリステラのアクアレイは術式の効率化によって魔力消費量が少なく、威力、精度、射程の全てが今回の任務に適していた。


「頼もしい後輩だなぁ」

「ほら、トールもそろそろ準備しておいて。じきに予定地点に到着するから」

「ああ、任せとけ」


 トールが明るくそう言うと、アデルが場を引き締めるようにそう言った。


 そうしてヴァースキに戦術級魔法を打ち込むためのポジションまで着実に進行していく五人。


 順調に進んでいた行程だったが、最後の最後にイレギュラーが発生した。誰よりも早くそれに気付いたスウェイルが素早く報告する。


「地中から接近してくる敵、数は三……おそらく中型のサーペント種です」

「ここまで来て……」


 サーペント種は地中に潜んでおり、獲物を探す方法も他の魔物とは異なっていて振動や熱源で人間を探知していると考えられていた。


 報告を受けたアデルは一瞬だけ考えてすぐに判断する。


「四人はこのまま進んで。私はサーペントを倒したらそのまま陽動で周囲の魔物を引き付けるので、予定通りトールの魔法発動まで護衛を」

「一人でサーペント三体を? 危険すぎます」

「いや、アデルなら大丈夫だ。行こう」


 エリステラは臆せず意見を言うが、アデルの実力を良く知るトールが支持したことで話が終わる。どちらにせよ長々と議論している時間はなかった。


 すぐさまサーペントが五人を囲むように三体地中から姿を現すが、進路上の一体にアデルが飛び掛かると同時に叫ぶ。


「行って!」


 四人はアデルの作ったチャンスに一斉に駆け出す。騎士剣を振りかぶったアデルにサーペントは反応しようとするが――。


「遅い!」


 アデルの剣は一体目のサーペントの頭を真っ二つに切り裂く。


 サーペントの身体は硬い鱗が層をなしていて、剣も高い技術がなければ鱗に沿って威力を受け流されやすい特性がある。しかしサーペントの頭部、特に口と目の周辺は例外だった。


「報告だとルカ・リベットは胴体の途中まで真っ二つにしたらしいけど、どうやったら出来るのよ」


 例えば剣で斬ると同時に風魔法を発動して体内から切り刻めば可能だろうが、ルカはそのような攻撃魔法を扱えない。純粋に身体強化と剣の技術のみでそれを可能にしたことは間違いなかった。


 といっても頭を潰せば倒せるのだから、そこまでの技術は必要ないと言えばそうではあるのだが。


 トールたちがサーペントの包囲を抜け出したことを確認したアデルは、すぐに残り二体のサーペントに向き直る。


「さて、地中に逃げられる前に、やっちゃいますか――」




「――アデルは、こと近接戦闘においては第十一騎士団最強なんだよ。そしてその才能を見つけて、磨きあげたのがキースというわけだ」

「キース先生が?」

「まあ先生といっても、当時は十二歳くらいの生意気なガキだったけどな」


 目的地を目指しながら、トールはエリステラとサローナに向けてそんな話をする。


「アデルの火属性魔法は威力抜群だが、身体から離れると威力が一気に減衰するから術士としては難あり、というのが入学時点での評価だった。それでも魔力のコントロールを磨いていけば騎士になって術士として輝けると信じていた」


 王立騎士学校に入学した当時、同じクラスで隣同士の席になったトールとアデルは、同じ火属性魔法を扱う術士志望ということで意気投合し、一緒に強くなろうといってライバル関係になった。


 しかし順調に成長していくトールと違い、まるで頭打ちしているかのように変化がないアデル。すぐにアデルの成績は転がり落ちていった。


 そして学内大会で何も出来ないまま、焦ったアデルは魔法で周囲のクラスメイトを巻き込んで自滅――する寸前のところをキースに止められた。


 トールはそんなことがあったことすら知らなかった。自分の成長が楽しくて、ライバルだと宣言したはずの相手のこともろくに見ていなかった。


 ――おかしいな、そんなのはキースだって同じだったはずなのに。

 ――自分のことしか興味のなさそうな天才少年が、どうしてそんなことに気付いた?


 その理由が、王子というプライドを捨ててキースに教えを乞うアランという存在にあったと気付くのに、それほど時間はかからなかった。


「騎士団における術士というのは戦場の華だ。それも殲滅力に優れる火属性のとなればなおさらな。だから火属性の魔法が扱える人間は、誰だって一度は夢見て憧れる。そして俺は自分の出来ることと、やりたいことがたまたま一致していた。まっすぐ進んでいれば夢が叶った」


 実際には多くの苦労があったが、それでも進むべき道が閉ざされていた人間に比べれば、大したことではなかったとトールは思っている。


 トールは続けた。


「でもアデルはそうじゃなかった。その夢が叶わないと知って、それでも這い上がってきたのがアデルだ……あいつは強いよ、ここにいる誰よりも――」

「……そうですね、分かる気がします」


 トールの言葉にそう反応したのはサローナだった。彼女もまた、届くはずのない夢を追う者である。


 ただサローナの場合は、それでも追い続けるという選択をしたという意味で、アデルとはまた異なる茨の道を歩んでいる最中だった。


 一方のエリステラはどちらかといえばトール側の人間だった。周囲から期待されれば、期待以上の成果で応え続けた。


 この道をまっすぐ進むことに、迷いも不安もなかった――キースに出会うまでは。


 だからこそ、気になってしまう。キースとの出会いは自分たちのような人間に何をもたらすのか。


「トールさんは、キース先生のことをどう思っているんですか?」

「どうって、そりゃ大切な仲間だよ。あと本人には言わないが、恩人でもあるな」

「恩人?」

「ああ。あいつがいなかったら、俺は狭い視野で物事を見ることしか出来なくて、驕ってどこかで潰れていた。それにアデルや他のクラスメイトのこともある。キースがいなければ、今騎士団のエースになっている俺たちは存在していないからな」

「そうなんですね」


 少なくともトールがキースに悪い感情を持っていないことを知って、少し安心するエリステラ。


 そんなエリステラの様子を見て、少しいたずら心が芽生えたトールは笑いながら口を開く。


「でも気を付けたほうがいいぜ。キースは女たらしで年上キラー、その上そういう感情はガキのままどこかに置いてきたのかってくらい鈍感だ」

「いえ、別に私はそんな、キース先生に特別な感情とかは、それに年上キラーって、それは飛び級で周りに年上しかいなかっただけなのでは――」

「そんな早口で――分かった、からかって悪かったって!」

「……任務中に何をしているんですか、全く」


 危険な魔物の領域で口論をしている余裕があるトールとエリステラの二人を、呆れた様子で窘めながらも、そんな二人がどこか頼もしく思えてしまったスウェイル。


「さて、そろそろ目的地です。トール君は魔法の発動準備を。トール君が詠唱を始めると大きな魔力の解放に伴って魔物に察知されます。サローナさんはトール君を魔法障壁で守り、エリステラさんは可能な範囲で魔物の排除をお願いします。トール君が魔法を発動したら、成功失敗を問わず即座に予定のポイントまで撤退してアデルさんと合流します。良いですね?」

「はい!」


 スウェイルは再三行っている作戦内容の確認をもう一度行い、三人はそれに真剣な表情で返事をするのだった。


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