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プロローグ

挿絵(By みてみん)


2020/01/17より、漫画アプリ「マンガUP!」様で本作のコミカライズが連載開始しております。もしよろしければそちらもチェックしていただければ幸いです。

 「それ」は人類全ての敵だった。禍々しい魔力と共にどこからともなく出現し、時に軍勢となって人類の生存圏を脅かす異形の化け物。


 それは人類をただひたすらに蹂躙し、排斥し、殺戮する。


 無明の荒野の果てより来るというそれを、人々は畏怖の念を抱いて「魔物」と呼んだ。






「キース・ブランドン! 貴様、またもや儂の作戦を無視しおったな!」


 肥え太った腹を揺らしながら、顔を真っ赤にして激昂する中年貴族。彼はマグノリア領を担当している第十一騎士団を率いるブノワ・バリエ伯爵である。


「……無視なんてしていませんよ。戦況が変化したので、現場判断で臨機応変に対応したまでです」


 キースと呼ばれた弱冠二十歳の青年は、面倒くさそうな雰囲気を隠そうともせずそう言った。


 彼は現在国内に数名しかいない「賢者」の称号を、史上最年少で国王から与えられた文字通りの天才である。


「貴様のその言い訳はもう聞き飽きたというのだ! 度重なる独断専行と越権行為はもはや看過できん!」


 キースの弁明を受けても、ブノワの怒りは収まらない。それどころかさらに激しく怒りを燃やす始末だった。


 実際のところキースが命令無視を行っているのは、誰の目にも明らかな事実である。ただしそれはブノワが立案する作戦が、ことごとく杜撰なものであるからという理由があった。


「別にいいじゃないですか。こちら側の被害はゼロで、魔物は全て殲滅できたんですから」

「結果だけの問題ではないと言っておる! 貴様の行いは我が騎士団の規律を乱す、重大な違反行為だ!」

「…………」


 ブノワの言い分は、確かに一理あるものであるとキースも認識していた。集団において誰も彼もが自由な振る舞いをしていては、組織として成り立たないのは明白だ。


 しかし――。


「そもそも何だその口の利き方は。私は先の人魔大戦で多大な戦功を挙げた、あのバリエ家の現当主なのだぞ」


 この騎士団における規律は、権力を笠に着たブノワが部下を縛るために存在すると言っても過言ではなかった。


 それで結果が出ているのであればまだしも、一年前までこの第十一騎士団は全騎士団の中でもワーストの戦績であり、魔物との戦いにおける犠牲者の数も頭一つ抜けている状態であった。


 そんな第十一騎士団に、キースが配属されたのは一年前のことだった。キースは賢者の名に恥じない実力で次々に戦果を挙げ、どん底であった第十一騎士団の戦績を一人で改善していったのである。


 当初はブノワもキースのことを高く評価しており、彼の挙げた戦果によって自身の失いつつあった王国内での信頼も回復すると考えていた。


 しかし一年経った今、王国内ではキースの活躍を評価する声ばかりが聞かれており、ブノワの評価自体は一切回復していないことを彼は知ってしまったのである。


 そうしてプライドの高いブノワは、自身が評価されない現状に不満を持ち、目立ちすぎるキースを目の敵にするようになったのだった。


「口の利き方って言われてもな……そもそもその戦功を挙げたのは先代のエリック・バリエ伯爵であって、あんたじゃないだろ」


 キースは形ばかりの丁寧語さえも捨てて、素の言葉遣いでブノワにそう言い放った。


 確かに先代のエリック・バリエ伯爵は英雄と呼ばれるに相応しい人物であり、その武功は今なお語り継がれているものだった。


 しかしその名声はエリックのものであって、ブノワのものではない。


 誰もが心では思っていても、直接指摘することはなかったその事実を、キースははっきりと言ってのける。


「なっ、き、貴様ぁぁ!」


 キースのその言葉は、昔から英雄である父親と比較されてきたブノワの逆鱗に触れた。


 実戦では抜かれることのないお飾りとなった名剣を抜いたブノワは、怒りに任せてキースに襲い掛かる。


 それを見たキースは呆れたように嘆息すると、するりと体を滑らせるように動かして剣を回避し、瞬時にブノワの死角に回り込んだ。


「あんたが俺に勝てるくらい強いんだったら、みんな苦労してねぇんだよ」


 思わぬ方向から聞こえたキースの声に驚きながらブノワが振り向くと同時に、軽く魔力を込めたキースの拳が、ブノワの顔面にめり込んだ。


 そうして爆ぜるような衝撃と共に吹っ飛ばされたブノワは、仰向けに倒れたまま動かなくなる。どうやら気絶しているようだった。


 周囲にいた第十一騎士団の騎士たちは、その様子を全員が呆気にとられたまま見ていたが、何人かが慌ててブノワの状況を確認に走っていく。


 これだけ目撃者がいれば、さすがに言い逃れは無理だろうとキースは考える。先に剣を抜いたのはブノワだが、それでもキースが何のお咎めも受けないとは考えにくい。


 むしろ上官を侮辱して挑発したキースが一方的に悪いと言われる可能性すらあった。貴族の権力が大きく働いている騎士団は、つまりそういう場所なのだ。


「……まあいいか、別に」


 しかしキースは自分が置かれている状況を正しく理解していながらも、そんな風に楽観的なことを小さく呟いた。


 少しすると、治癒魔法が使える騎士のおかげもあってブノワが意識を取り戻す。


「キ、キース・ブランドン! 貴様は今この時点を持ってクビだ! 今すぐ私の第十一騎士団から出ていけ!」


 怒りに震えるブノワが発した第一声は、キースへのクビの宣告だった。



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