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作者: 羽田 恭

 バイト帰り、黄昏時から禍時へと移り変わる空の下を歩く。


 ついこの間まで十七時を回れば真っ暗だったのに、最近は少々薄暗いだけになってきた。今年もすでに五月に入り、そろそろ夏が訪れようとしているが、日が暮れるとまだ肌寒い。


 最近の気候はとても不順で、朝晩は寒いと思えば、日中は暑かったり。一日中暑かったら次の日は寒かったり。

 こうも不安定だと着る服にも困る、なんてバイトの後輩は言っていたが、年中もっぱらパーカーでファッションセンス0の自分にはあんまり関係無かったり。


 そんなどうでもいいことを考えながら、ここ一年ほぼ毎日歩いている道を進んでいると、ほどなくして海岸沿いに出る。そこにポツンと佇む、木製の古びたバス停。


 潮風で錆びた標識。その隣のいつ補充されてるのか分からない自販機でサイダーを買って、ボロボロの停留所に似つかわしくない、真新しいベンチに腰を下ろす。


 まだ海辺から吹く風は冷たくて、捲っていた袖を直す。


 ふと誰も居ない砂浜に目を向けると、白いワンピースの少女が見えた、気がした。


 幻視だった。


 思い出という、記憶の塵に憑り付かれた、この曇った眼が映した幻だ。


 自嘲するように、鼻で笑いながら一枚の紙切れを取り出す。


 数年前のこの時期に、この場所で撮った一枚の写真。映っているのは白いワンピースを着てサイダーを飲む君。


 安物のカメラで、拙い技術で撮ったボロボロそれは、紙切れ以外の何にでもないが、自分にとっては、唯一記憶以外で君を留めておける、大事な大事な紙切れだった。


 今、君はどうしているだろうか。自分の事なんてすっかり忘れてしまっただろうか。


 幾度となく反芻した思い。ふとした瞬間に頭をよぎる。


 綺麗になったベンチが、君と会わなくなった時間を表しているかのようだ。


 ほんの少し前までは隣に座っていたのに、自分が躓いた間に、追いつけない程先に行ってしまった。


 俯いて座り込んでいる自分と違って、真っ直ぐ前を見て歩いていた君は、どんどん進んで行っているのだろう。



 空を見上げると、丸い月が浮かんでいた。


 バスの音が聞こえてきて腰を上げる。


 微妙に温くなったサイダーを飲み干す。


 バスが停車する。


 一人で乗り込む。その直前、ペットボトルをくずかごに投げる。

 


 サイダーは、昔と変わらない味がした。

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