神様の娯楽
下手でもいいから何かお話を一本書ききるという目標で書きました。拙い文章ですがどうぞお手柔らかにお願いします。
「はぁ、はぁっ……くそが! 俺は、っは、俺はぁ! 選ばれたんじゃ、ないのかよ!」
ある王国のはずれに、人々から魔の森と呼ばれ恐れられている広大な森がある。そこは生息しているモンスターがとてつもなく強く、弱いものが入ると生きては帰れないと言われている場所であった。
「神にだって会った! チートも貰った! なのに!」
魔の森に生息するモンスターでヒエラルキーの頂点に立つもの。
それは、『ドラゴン』
ドラゴンとは、厚い鱗に覆われた爬虫類を思わせる体に、鋭い爪や牙を持つ巨大な有翼モンスターである。
そして種類によって体の色が異なり、その色で強さを区別することができる。
比較的弱い部類に入るのは赤・青・緑の三色。レッドドラゴン・ブルードラゴン・グリーンドラゴンと呼ばれる種類だ。
このドラゴンたちは数が多く、気性が荒い事で知られている。しかし腕に覚えのある冒険者や冒険者チームならば倒せない強さではない。
次に挙げられるのが、黒と金の二色。ブラックドラゴンとゴールデンドラゴンと呼ばれる種類。
この二種は先に挙げた三種とは違い、数が少なく自分の縄張りから出ようとはしない、比較的おとなしい性格をしている。自ら人を襲う事はなく、自身の縄張りに入って来たものだけを相手にするという性質を持つ。ただし一度縄張りに踏み入られると同族であれ殺してしまうという縄張り意識の強い種類でもある。
倒すとしたら腕の立つ冒険者達を何チームも集めてようやく勝てると言った程度。
最後に挙げられるのが、輝く銀の鱗を持つドラゴン。プラチナムドラゴン。
この個体は世界に一匹しかおらず、その時に一番強い個体の鱗が変化してプラチナムドラゴンになると言われている。
元になったドラゴンによって個体差があるため性格などはバラバラだが、戦闘力は他のドラゴンなどとは比べ物にならない程高い。竜の王と呼ばれる種類だ。
もしこのドラゴンを倒そうと思ったら国家単位で挑まなければならないだろう。それほどまでに強いのだ、プラチナムドラゴン……竜の王とは。
そして、現在の竜の王が住処にしている場所こそが
「なんでこいつを倒せない! 俺は神様にチートを貰ったんだぞ! 世界最強だぞ! そんな俺より強いなんておかしいだろうが!?」
「グオォオオオオオ!」
「ひぃいいいいい!」
ここ魔の森である。
「いやだ、死にたくない! まだ異世界を堪能してない! ハーレムも作ってない! 来たばかりでこんなの……いやだっ」
鬱蒼と生い茂る木々を避けながらも、懸命に足を動かし前へと進み続ける少年。
目からは涙が溢れ、鼻からは鼻水が垂れ、酷い表情になりながらも走るのをやめない。腕で乱暴に顔を拭ってはみたが、とめどなく溢れてくる涙と鼻水ではまるで意味をなさなかった。
「あっ!」
涙で視界が悪くなっていたのだろう、地面から突き出している木の根に気付かず引っかかってしまう。
受け身もろくに取れず顔から地面に倒れ込んだ少年はあまりの痛みに一瞬動きが止まるが、すぐに身を起こし逃げ出そうと足を踏み出す。
しかし、それは叶わなかった。
――ドォオオオン
「ぐげぇ!」
倒れ込んだ少年を逃がすまいと繰り出されたドラゴンの前足は、的確に少年へと叩きつけられる。
普通の人間ならばそれで死んでいてもおかしくはない衝撃だったが、この少年は神にチートを授けられた人間。無駄に体も丈夫に変化しており、大怪我はしたがまだ息がある状態だった。
しかしそれは少年にとって不幸でしかない。
ようやく仕留めた獲物を食べようと、少年を口元へ運んだドラゴンだったが、少年にまだ息があり死んでいないとみるやいなや、何かを思案するように動きを止めその表情をゆがめる。
少年にはドラゴンの表情の違いなどわからないが、それは笑っているように見えた。
全身に鳥肌が立ち顔を青ざめる少年はこのままでは確実に自分は恐ろしい目にあうと直感し、必死に抵抗する。
しかしそんな抵抗などドラゴンは意に介していないように、そのまま少年を握り潰さないよう器用に握直し大空へと飛び立った。
恐らくは巣に持ち帰りおもちゃとして遊ぶつもりなのだろう。
こうして意気揚々と異世界へとやって来た少年は、あっけなくその人生の幕を閉じたのでした。
めでたしめでたし。
・・・・・
白を基調とし広々とした部屋に、五人の男女の声が響く。
彼女らは部屋の中央に設置された大きな円卓を囲むように座っており、今回の見世物について各々が思ったことを好き勝手に言い合う。
「全然めでたくないぞぉ~。適当なナレーション入れんな地」
一人は絶世の美女と言ってもいいほど容姿の整っている金髪の女性。
清楚で笑顔が素敵な彼女だが、その口から飛び出す発言はとても清楚とはいいがたいものがある。
「あはは、ごめんごめん天姉ちゃん。あいつがあまりにもしょぼくてさ。でもまぁ予想通りと言えば予想通りなんだけど……」
一人は茶色の短髪男性。
ヘラヘラ笑っていて軽薄な印象を受けるが、その言動とは裏腹に彼の瞳はとても鈍く冷たい光を放っている。
「でもでも。初期位置が悪かっただけで、違う場所からだったらあのお兄さんももっと頑張ってたかもしれないよ?」
一人はまだ年若い女の子。
いや、正確には男の子なのだが、彼は何故か女の子の格好をしている。幼さ故男女の区別も曖昧な年頃に加え、彼の顔がとても可愛らしいので女の子の格好をしていてもなんら違和感はない。
「そうとも言えんぞ人の。あの坊主ならたとえ初期位置が違ったとしても、遅かれ早かれ同じ結末を辿ったじゃろう。それにあの場所はあの坊主が望んだ事じゃ」
一人は和服を着た白髪の男性。
とても落ち着いた雰囲気をしており、五人の中では一番年嵩にあたる。
「海殿の言う通り。ドラゴンにやられるか、はたまた違う強いモンスターにやられるか。それくらいの違いしかなかったんじゃないかしら? それにあの無謀なボクちゃんなら相手との力量差なんて考えずに、だれかれ構わず突進していったでしょうしねぇ」
一人は艶やかな漆黒の髪から二本の角を生やした色黒の女性。
大胆過ぎるほどの露出がある衣装を身にまとっているが、決して下品にはなっておらず、むしろどこか上品にもみえてしまう着こなしをしている。
「海のじーちゃんとまーちゃんの言う通り! 今回は『ハズレ』物件だったって事だね~」
「そ、そっかぁ……『ハズレ』なら仕方ない、のかな? あ、でもでも、あのお兄さんにはチートを付けたんですよね? なのになんで負けちゃったんですか?」
人の疑問はもっともである。
皆からハズレと称された今回の少年は神からチートを貰ったと、世界最強だと叫んでいた。なのに簡単に殺されてしまった。一体何故か。
可愛らしく小首をかしげている人に表情を崩しながらも、転移転生窓口である天が疑問に答える。
「あぁ、それは簡単。だってあいつ「俺を世界で一番強い人間にしてくれ」って頼んできたんだよ。だから人類最強にしてあげたの。人類では最強かもしれないけど、世界最強ではないわけ。あそこへ送る前に一応この世界はモンスターが強いから気を付けろって教えてあげたんだけど聞いてなかったっぽいし」
「あぁ、なるほど……納得しました」
もう分かった方もいるだろう。そう、彼女らはこの世界の神。
天の神、地の神、人の神。そして海の神に魔の神。全部で五柱。
異世界転移、あるいは転生を果たすものが現れるとこうして集まり、彼――もしくは彼女らの異世界生活を全員で見物する。
最近――と言っても彼女らにとっての、だが――他の世界の神達から異世界転移・転生なるものがあると聞いた時に、試しに自分たちもやってみたら思いの外楽しかったので定期的にこうして集まっているのである。
長い時間を過ごしてきた彼女らの数少ない娯楽なのだ。
「こうしてみると一番初めのやつが『アタリ』過ぎたって実感するなぁ」
「うむ。あの若者は見ていて飽きんかったのう」
「あ、あのおじさんはボクも好きです!」
「あたしも彼はお気に入りね、特に彼と想い人との両片思い! 甘酸っぱかったわぁ……」
「あ、俺もまーちゃんと一緒。気付いてないの本人たちだけだったし、すごいやきもきさせられたよね~!」
その後は今回の少年には一切触れずに違う人物の話で盛り上がる。
彼らが話しているのは初めてこの世界へと転移を果たした三十代のサラリーマン。
働き過ぎによる過労死で命を落とした彼の魂を天がここへ連れてきて異世界転移させたのだ。
彼は『余計な人付き合いをしなくてもよくて、思いっきり好きな事ができる生活をしてみたい』と言い、そのために望んだ力は『様々な物を作り出す』能力。
なので天は生物以外で自分が知っているものならば何でも作り出せる能力を授け、人里離れた過ごしやすい穏やかな場所へと送った。
彼は転移後すぐに周りを探索し、最低限生きていける環境を整えたあと、気が済むまで周りを大改造しまくる生活を始める。
手始めに大好きな果物や野菜などを育て、食生活を改善。
その後平屋だが一人で住むには十分な広さをもった家を建て、改造を加えながら念願だったお風呂を作る。
そんな風に異世界ライフを楽しんでいた所に、怪我をした女性が現れ、なんやかんやあり一緒に住むことになったり、モンスターに畑をあらされたり、町へ採れた野菜や果物を売りに行き驚かれたり、いつのまにか住人が増えていったりなどなどなど。
様々な事を経験したり、巻き込まれたりしている彼の人生はとにかく見ていて飽きなかった。
故にこのあとも他の人間を定期的に転移・転生させていたのだが、どうにもハズレが多く楽しめない。もちろんアタリな人物もいたがごく稀である。
そうして盛り上がりをみせていた話題もしだいに落ち着き、いつの間にか話のタネは最近の転移・転生を果たした人間達の話題へと移っていく。
「私思ったんだけど、ハーレム願望強い奴は結構失敗する確率高くね?」
「わかるわぁ。しかもそういう人間に限って、本人に魅力ゼロなのよね……。挙句の果てに粗雑だったり、思い込みが激しかったり」
ハーレム。
男も女もそれに憧れを持つものが意外と多く、元の世界でモテなかったから異世界ではと願うものが一定数はいた。
しかし現実はそう甘くない。元の世界でモテなかった者が、異世界へ転移しただけで急にモテるなんてことはなかった。
「そういえば「良い女を全て俺に惚れさせる為に魅了の力をくれ~!」ってのが前いなかったっけ?」
「いましたよ。えっとぉ、最期は確か町の女の人達が急にその人に夢中になったのをおかしく思った男の人達に『女を惑わせる魔物』って勘違いされて殺されちゃったはずです」
「あ、そうそうそれそれ~! じんちゃんはかわいいだけじゃなくて記憶力も良いなんて、お兄さん関心しちゃう!」
地に褒められた人は照れくさくなり頬を染めうつむいてしまう。
その仕草が可愛くてさらに褒めれば、耳まで真っ赤にしながらも小さな声で礼を言う。そんな彼の可愛らしい一面を、この場にいる神達は相好を崩しながら眺めつつ、各々も人を褒めようと言葉を口に出す。
突然自分の褒められ大会が始まってしまった状況に堪えられなくなった人は、勢いよく席を立ち話題を変えようと声を張り上げた。
「あ、あのぉ! ボク考えたんですけど、次からは希望を聞く形じゃなくて、こっちで勝手に決めるっていうのはどうでしょうか!」
多少強引感はあるが、そんな事は気にせず人は続ける。
「特に最近は同じパターンになりがちですし、思い切ってシステムを変更してみるのもいいんじゃないかなってボク思うんです!」
最近の転移は最強・チート・ハーレムなどを求める人間ばかりでマンネリ化し、全員冷めた目で見ている事が多くなってきていた。
現に海や魔などはもう完全にお茶を飲みに来ているだけとなっている。
しかしこうして皆で集まってわいわいするのが好きな人はこの状況に危機感を覚え、どうしようかずっと考えていた。
考えて、考えて、考えて。そうして出した結論が先程の提案である。
誰でも思いつきそうな簡単な改善案。しかし固定概念にとらわれていた彼女らには思いつきもしなかった改善案。
自らの提案にドキドキしながら周りの反応をうかがえば、四人は互いに顔を見合わせなんの反応も示さない。これは駄目かなと諦めかけ静かに座ろうとした瞬間、隣に座っていたはずの天が間近にきており、人の頭を乱暴に撫でくりまわしながら皆に呼びかける。
「それはいいアイデアだ人! 皆はどう、誰か反対意見ある人は?」
「俺は意義なーっし。むしろ早速試したくなってきた!」
「ふむ。悪くない考えじゃぞ人の。わしも賛成じゃ」
「あたしも賛成。言われてみれば別に要望を聞かなきゃいけないなんて決まってないんだから、自分たち好みに面白おかしく好きにしちゃえばいいのよね。なんでこんな簡単な事思いつかなかったのかしら……」
「固定概念とは、かくも恐ろしいものよな……」
「だってさ人! よかったな」
「は、はい!」
自らの好きな時間が失われずにすむ安心感に人は人知れず安堵の息を漏らす。
どうやら自分では気が付いていなかったようだが、かなり身体が強張っていたようで、安心するのと同時に身体から余計な力が抜けていった。
静かに席に着きながら他の四人にそっと視線を走らせると、すでに他の面々は次回はどういう方向性で行くか相談しあっていた。
その表情が、初めて異世界転移なるものを知った時のように、楽しそうにキラキラしている事を確認した人は、心の底から嬉しさが込み上げ涙を流しそうになったが、今は泣いている場合ではないとぐっと我慢し破顔する。
そして自らも同じような顔をしながらその輪に入り、どうすればもっと楽しくなるのか意見を交え始める。
やはり初期位置は比較的モンスターの弱い地域がいいだろう。
冒険活劇もいいけど内政なども見てみたい。
成り上がりも面白い。
弱小領地の貴族の息子もしくは娘なんかどうだろう。
ギフトはこんなのはどうだろう。
こんなのもあった方が面白い。
いや、こっちの方が良い。
などなどなど。
しばらく侃侃諤諤と意見を交わしあっていた五人だったが、窓の外がすっかり暗くなっている事に気付きいったん解散することとなる。
後日天は恒例の見世物とは別に、前回まとまりきらなかった議論をまとめるためにとお茶会を開く。招待を受け集まった面々の表情がいつもと違う事にお互い笑いあいながらも、先日の続きとばかりに激しい議論を展開しあった。
そうして意見を出し尽くした五人は満足げに頷きあい、次回の見世物予定を決める。
話し合いが終わっても誰も帰ろうとはせず、くだらない話に花を咲かせる五人はまるで神様には見えない。しかしながらみな力を持った神様である。
そんな人間をおもちゃのように扱う性根の悪い神様達の暇つぶしのお話。
「あ! 私たちの誰かが転生して学園ものってのもいいんじゃないかな!?」
・裏設定
ここの世界は二つある。
ファンタジーの世界と現代に近い世界の二つ。
基本世界はファンタジーの方で、現代世界は初めて転移させた経験をした後に、知り合いの神の世界を模して五人が急ごしらえで作ったもの。(よって一番初めの人間だけは違う世界の神から譲ってもらったもの)
異世界へと連れていく人間は無作為に選ばれているわけではなく、ネットにある地が作ったサイトを見つけ出せた人間。かつ本心から違う場所に行きたいと思った人間ならば、サイトにアイコンが現れクリックすると名前を入力するページへと飛ばされる。
そこで名前を入力し、送信すればエントリー完了。あとは死ぬのを待つだけ。死んだら天がお迎えに行き、もう一つの世界へ送り出すという手順。
何故窓口が天だけなのかというと、見た目と外面だけはいいからと他のみんなに押し付けられたから。
ガイドラインにある異世界転移・転生についての説明文を読んだら、主人公が「現実世界」から「異世界」へ転生もしくは転移する要素 って書いてあったので必須キーワードに転移・転生タグ入れてません。主人公(神様たち)は転移してるわけじゃないので、違うのかなと判断しました。
宜しければ感想いただけると嬉しいです。お粗末様でした。