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輪廻の扉  作者: ゑ兎
第1章
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第4話 世界というのは




 僕はビルから落ちていく。

顔に強く風が吹きつけられる。

 加速する落下への恐怖で筋肉が固まるが、何とか気を押さえつけ、地面ギリギリで羽を精いっぱい広げる。そのまま体を反らすようにすると、急降下する力が前方に進む推進力に変わった。

 そのままフードの男の背中まで飛ぶと、飛び過ぎ去る寸前に男の首に短刀を押し付けた。

 ピッという音と共に男の首の皮が切れ、内側から赤い液体が吹き出てきた。

 それを横目に飛び過ぎると、もう1人の男の前で着地しようとした。

 しかし、まだ飛ぶことに慣れていないせいでうまく着地できずに転んでしまう。

 そのまま二、三回転してやっと止まった。

慌てて立ち上がるが、もう1人の仮面の男の姿が見当たらない。


 先ほどの様に奇襲かのように思えたが、いつまで待っても現れない。


『どうやら逃げられたようだね』

 そういってソラさんはため息をついた。身体の内側に息のような生暖かい風が当たったような感覚がした。

 僕の横で黒い影が渦巻くと、コウスケとミナトさんが現れた。

 今度は光祐もしっかりと立っている。


「光祐!大丈夫だった!?もしあのまま動かなかったらどうしようかと、、、!」

「あんなんでくたばるほど俺は柔じゃねぇよ」

 そう言って光祐は僕に親指を突き立てた。僕も親指を立てて光祐の拳に当てる。


 身体のみぞおち辺りが熱くなる。その辺りから光の球が出てきた。

 その球は薄く広がって羽の形へと姿を変えた。

 前の空間を包み込むようにその羽は動くと、明るい光が弾け飛んだ。

 光の粒子が消えると、そこにソラさんが立っていた。


「初めまして光祐くん。私はソラ。生の年齢で言うと君達よりも私とそこのミナトの方が上かな」

 確かに、背は僕達より若干高く、体つきも2人とも大人びていた。


 さて、とソラさんが言うとその場の周りがしんと静んだ。

「何から話したものかな。話すべきこと沢山ありすぎて私の語彙力で説明できるかどうか、、、あ。そうだまずあれを見せようか」

 そう言うと僕達を10歩程前方に案内した。


 そこには先ほど僕が切り殺した男の死体が転がっている。

「あの、、、?」

「これ、そっちで話題になってる連続殺人事件の犯人の一つ」

 恐る恐ると僕が聞こうとすると、ソラさんは死体をびしっと指さしてきっぱりと言い放った。

「へ?」

「それでこれは人じゃなくて人形」

 そう言うと、転がっていた死体は風化したかのようにボロボロと崩れていきそのまま砂の塊へと変化した。

 さっきからこの男のことをアレと言ったり、殺すとかではなく壊すと言っていたのはこれが人ではなかったからだとようやく気付く。


「あの」

「ん?」

「教えて下さい。今の出来事について」

 全てを知りたいということを伝えると、ソラさんは悲しそうに「そうだね、君達も無関係ではいられないしね」と言った。

 僕らは歩きながら話を聞くことにした。


「この場所、正確にはここの世界は君たちが暮らす世界とは別の次元にある別の世界。二つの世界は平行に隣合っている。この世界は白の女王という時空を司る女神が創り出したもので、この世界にいることが出来る人は皆来世を持っている。この世界に入ると、自分の来世に由来する力を得ることが出来る。私は隼、飛ぶことが出来る。ミナトはアサシン、暗殺者。この世界では来世と現在が交わりあっているから私達はこの世界を"輪廻の世界"と呼んでいるんだけど、ネーミングセンスどうかな?」

 ソラさんは場の雰囲気を明るくするために僕に聞いてきた。

 特に悪くは無いと思う。

「ありがとう。この世界は平穏な時の上を進んでいたのだけれど、あるとき異物が混ざり込んだ。その異物は自らを黒の女王と名乗る一人の女をリーダーにこの世界を襲いだした。その軍団は私たちとは違って前世を持つもの達だったの。その軍団はこの世界と来世を手に入れるのが目的で、その集団は自らを"ネクスト"と名乗っている。この世界について箇条的に話すとは大体こんなものかな。なにか質問は?」

 僕達は駅の反対側にある神社に着いた。

 周りを林に囲まれた神社の敷地内は薄暗く、涼しかった。


「えっと、そのネクストっていう集団、敵?が来世とこの世界を手に入れるのって、どうすると、、、?」

 ソラさんとミナトさんは神社の建物の障子を開けると、中に入った。

 僕達も後に続く。


 ミナトさんはこちらを振り返って僕の質問に答えた。

「輪廻の世界は今白の女王が創造神になっているけれど、創造神が殺されると別の者に権限が移行する。普通ならその世界で創造神の次に大きな存在のものだ。今の現状では黒の女王がそれに該当する。来世を手に入れるのは簡単だ。来世を持つ者を殺せば殺したやつに力が移る。本来ならば死ぬと来世の姿として生まれ変わり生き返るが、来世を奪われて殺されるとそれもなくただ無へと帰す」

 すると今度は光祐が手を挙げて質問した。

「最初に言ってた、あの男、人形が今起こっている殺人事件の犯人って、どういうことすか?」

 光祐が言い終わると、ソラさんが「あっ」と声を上げた。

「それについて言い忘れてた!ネクストが現れた時点でこの世界の均衡が崩れ始めたの。元々はここは独立した世界のはずだったのがあいつらの出現によって現世と交わるようになってしまったの。本来であれば路上に置かれた死体はそのままここにあり続けるんだけど、今のこの世界だとあちらの世界に飛ばされてしまうらしいの」

 あの殺人事件の犯人はこちらの世界にいて捕まえることが出来ない。

 このままでは今後も死者が出てしまう。

「殺されてる人も来世を持つ人なんですか?」

「そうだね。たまに偶然この世界に迷い込む普通の人もいてその人達もさっきの君達みたいに襲われて殺されてる」

「あの人形を作ってる人を倒せば殺人事件は終わるんですよね?倒しに行く人達って居ないんですか?」

 そう聞くと、ソラさんの目が輝いた。

 まるで、その質問が来るのを待っていたかのように元気になっている。

 いや、これは絶対に待っていたのだろう。


「倒しに行く人たちならいるよ!」


 そう言うと、ソラさんは障子をピシャッと閉めた。

 すると、どこからかシャランという鈴の音がしたかと思うと、障子の向こうが明るくなった。

 それまでは外は相変わらずの静寂だったが今は明るい喋り声が聞こえてくる。

 ソラさんとミナトさんは障子を開けると外に出た。

 外の喋り声が消える。


「ただいま帰ったよ、皆!」

「ただいま」

 二人がただいまと言った二秒後、耳の中に明るい声が再び届く。

 僕は光祐と顔を見合わせた。

 そして開いている障子から外に出た。


 そこにいたのは頭に耳の生えた者や身体から植物の生えた者など色々な特徴を持った人達だった。

 彼らも全員来世を持つ人たちなのだろう。

 ソラさんとミナトさんの周りに五、六人の人達の輪っかができていた。

 皆二人に「おかえり」と言っている。

 見ていると、『家族』という単語が頭に浮かんだ。

 ソラさんは振り返ると僕達に笑顔で、自信満々に言い放った。


「これが私達、ネクストを討ち輪廻の世界の均衡を保つ者達、"アストレア"!」









-同刻・送電所-




『ガ、、グ、ギ、、、、』

「、、、逃がしたか」

 青年が男の首を絞める。

 男は苦悶に口を歪める。

 そのまま力無く両の腕を垂らすと、男の姿が消えた。

「、、まぁいい。この程度なら所詮、、、」

 青年の笑い声が部屋に響いた。




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