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輪廻の扉  作者: ゑ兎
第1章
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第3話 舞い降りた翼




 男が刀を振り下ろした。

 僕は反射的に目を閉じた。



 しかし、その刃はいつまで経っても僕に届いてこなかった。僕に刺さる手前、二人の間で刀が何かに弾かれた音がした。


 恐る恐る目を開けると目の前に腰があった。

 上に目をやると、髪が肩下くらいまである女の人が立っていた。斬りかかってきた男は僕を斬る寸前で邪魔されて、歯を噛み締めていた。

 僕の前の女の人が身体の前に出していた腕を横に払うと、男は弾かれて後ろに飛ばされていった。

 女の人はこちらを振り返った。


「えっと、あの、、、」

 ありがとうございますと言おうとしたが、女の人が僕の横腹に手を回してきたため、出来なかった。

 その代わり、間の抜けた声が零れた。

「へ?」


「蹴って」

 透き通るような声で変なことを言われた。

「え、、?」


「地面を蹴って!」

 強い口調でそう言われ、よく分からないまま言われるままに地面を蹴った。


 刹那、身体が上から押さえつけられるような感覚と共に地面が消えた。


 気がついたときには地上は眼下にあった。自分が空宙、8階建ての電気屋の屋上とほぼ同じ高さに浮遊していることにやっと気付く。


「ほわあぁぁ?!」

 普段なら決して出さないような素っ頓狂な声が自分の口から出たことにも驚く。

 顔の横を一つの水色の羽が舞った。

 飛んできた方向を見ると、女の人の背中から大きな翼が一対生えていた。


「あ、あの、、、?」

「あ、ごめん、死にそう?」

 今度は襲われてる状況にそぐわない軽い声で聞いてきた。

「いえ、大丈夫ですけど、、、何で、、?」

「一回降りようか。君のお友達も連れてこないといけないし」

 僕は近くのビルの屋上に降ろされた。冷たい風が頬を冷ます。

 下を見ると、男の前で座り込んでいる光祐の姿があった。

「光祐っ、、!」

 僕が心配そうに叫び、手を伸ばすと、隣に立っていた女の人が僕の方に手を置いた。

 僕の方は向かずに、だが「大丈夫」と言ってくれたそれは、妙に安心できる言葉だった。

 下をもう一度見ると、光祐の周りに黒い影が渦巻いていた。

 その影が男の周りにまとわりつく。すると、男は上から押し付けられたかのように地にへばりついた。

 そのまま影は光祐の前まで移動すると、光祐を包み込んだ。


 そして、その場から消えた。


 消えたあたりを見渡すがどこにも光祐は居ない。

 そのとき、僕らの横でズズズ、という音と共に黒い霧状の影が渦巻いた。

 その影が消えると、中から光祐と知らない青年が出てきた。

 僕は光祐のとこへ駆け寄る。

「光祐!光祐!大丈夫?!」

 目を閉じたままの光祐に声を掛ける。


「安心しろ。意識を失っているだけだ」

 頭上から声がした。見上げると、光祐を連れてきた青年がはめていた黒い手袋を外しているところだった。

 黒い着物のようなものを着た青年は一体誰なのだろうか。青年は髪を後ろに掻き上げると、女の人に話しかけた。

「連れも回収したぞ、ソラ」

「ん、ありがとうミナト」

 どうやら2人は知り合いのようだった。


 この2人は敵というわけではなかったし、今の状況を少しでも知りたかった。

 しかし、

「今はその前にアレを壊さないと」

と止められてしまった。

「あの、それあなたたちが倒せばいいのではないのでしょうか?僕らにあれを倒す力なんてありませんよ」

 すると、さっきソラと呼ばれていた女の人が頭を掻きながら申し訳なさそうに話した。

「出来るなら私たちとしてもそうしてあげたいのだけれど、襲われてるのは君達だからね。私達はこの駆け引きに関してどうしようも出来ないのよ。もちろん、アレを壊すこともね」

「でも、さっき僕達を助けてくれたじゃないですか?」

 すると、今度はミナトと呼ばれた青年が答えた。

「あれは君達を助けたのではなくて、自分の身を守っただけだ」

「たまたまあそこを通りがかったら両側から襲われた。身を守るために攻撃を防いだだけよ。そしたら君たちがそばに居たからアレから遠いとこに連れて逃げた」

 つまり、自己防衛。と青年は付け加えた。


「結局、あの男達を倒すのは僕達でないといけないということですか」

「そういうことになるね。ここに迷い込んだ一般人が何人か殺されてるのを見たけど、ただの人間にはアレを壊すのは少し、、、」

難しいかな、と言いかけたソラさんの目が僕の左腕辺りを見たまま止まった。

「どうかしました?」

 僕は聞いたが、ソラさんは答えてくれなかった。

 その代わりポツリと独り言のように一言呟いた。

「君たちも持ってしまったのね、、、」

「?」

 ソラさんは何でもないよ、と首を振った。「とりあえずまずはアレを壊してしまおうか」

と眼下の2体を指さした。


 下の男達は起き上がった後、周りを見回して僕達のことを探していた。

「でも、さっき言ったように僕には戦う力なんて、、、へ?!」

 僕が続けようとすると、ソラさんが僕に抱きついた。

 女性の柔らかな感触が衣越しに伝わってくる。ソラさんの体が白い光に変わった。

 僕に回されていた両腕の感覚が無くなる。

 白い光に包まれたソラさんの身体は、小さい球体になると僕の体の中に入り込んだ。

 なんとも言えない不思議な感覚が身体中の神経を撫でる。

 気が付くと、僕の背中には一対の羽が生えていた。


「なっ、、、?!」

 驚いて声も出ない僕の脳内に声が響いた。

『どう?少し強引だったけどこれで戦える?』

 脳内に直接聞こえてくる声は、想像以上に気分の悪いものだった。

 耳には何も入ってこないのに音が聞こえる。吐き気がしてくる。

「え、えぇ、まぁこれなら、、、」

『ちょっと羽ばたいてみ。背中の筋肉を動かす感じで』

 言われるままにやってみた。

 すると、羽はスムーズにバサバサと音を立てて前後に動いた。まるで元から自分に羽が生えているかのように違和感を感じないそれは、逆に僕に不気味の種を植えた。


『ん、大丈夫そうだね。じゃあ行こうか。友達はまだ起きてないから二人相手にしないといけないから少し大変かな』

 その言葉とともに足を踏み出そうとすると、後ろから呼び止められた。

「これを持ってけ。首を切ればアレは壊れる。えっと、」

「あ、春輝です。ありがとうございます」

 ミナトさんから短刀を貰った。

 それ自体は決して重くはなかったが、刃物を手にしたことで命の重さを意識して、危うく取り落としそうになった。


「じゃあ、行きます」


 もう一度、今度はしっかりと足を踏み出してその身を宙へ投げた。





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