第56話 衝突
それは、作戦決行日の前日のことだった。
僕は翌日の戦いに備えて必要なものを買いに午前中から出掛けていた。今日は休日だったし、まだ朝で店も開店して時間も経ってないから値段は安くなってない。だけど、今日の午後は明日に備えて色々としなくてはいけないから今のうちに買い物を済ませておかないといけない。
「まぁ、こんなところかな」
ある程度の買うものをカゴに放り込んでレジに並んだ。並んだ、と言ってもまだこんな時間だ。空いているレジに入るだけで会計を済ますことが出来た。
店を出て時間を確認すると、10時を少し過ぎたくらいだった。
今日は両親とも親戚の葬式に行くとかで、朝起きたら置き手紙が机の上にあった。今日も僕と陽菜乃の2人だけでの昼ご飯を食べることになる。
まだ少し時間があるから軽く散歩でもしていこうと思った。
しかしその時、頭の中に謎の声が響いた。
『どうやらすぐに帰った方がいいみたいだぜ』
「その声は、、、、僕?」
どこかで聞いたことのある声。普段からよく耳にするこの声は正しく僕の声だった。いや、正確には来世の僕だから僕自身ではないのだけれど。
「すぐに帰った方がいいって、どういうこと、、、、?」
『僕も詳しい事は分からない。けど、僕の感が正しければ、、、、』
『陽菜乃が危ない』
僕は全力で走った。出来る限りの最速で街を駆け抜けた。息が切れても足は止めなかった。
僕は湊音のように数キロを1歩で移動することは出来ないし、拓翔みたいに空を飛ぶことが出来る翼もない。生まれ持ったこの脚で地面を蹴り続けるしかないのだ。
何が起こったのかはおおよそ予想がついた。
こちらの現実世界で陽菜乃が襲われているのだ。勿論、ネクストの仕業に違いない。
敵の規模がどれくらいかは分からないが、嘘を見破れるだけの能力では到底対処は出来ない。僕でも正直厳しい。
だから、今のうちに光祐にメッセージを送っておいた。
『出来るだけ早くみんなを呼んで僕の家に来て!!』
僕は既読が付くのも待たずにスマホをポケットに突っ込んだ。買った物が入ったレジ袋は店に置いてきた。
家に着いた僕は、目の前の光景に愕然としていた。それと共に「あぁ、やっぱり」と1人で納得していた。
僕の家は敷地ごと濃い霧に包まれていた。
僕は迷わず霧の中に突っ込んだ。玄関を見つけたが、鍵が掛かっていた。開けるのには時間がかかるから、近くの窓へ向かった。
窓ガラスを割って僕は家の中に入った。
「ひな!!」
大声で妹を呼んだ。すると、近くの部屋から小さい声で「お兄ちゃん、、」と僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
声の聞こえてきた部屋に入ると、押入れの戸から顔だけこちらに覗かせた陽菜乃がいた。
「何があったんだ?」
「さっきインターホンが鳴って、画面見たら雨瀬君がいたの」
「うん」
「何か用事があるのかと思って出ようとしたら、雨瀬君の隣に知らない女の子がいて、、怖くて隠れてたの、、、、」
「そう、、、、とりあえず無事でよかった」
陽菜乃の行動は正しかった。隠れてさえいれば、たとえ家全体が霧に包まれていても害は無い。
なぜならシェイクスピアの能力は、
"視認出来る範囲のモノしか移動出来ない"
からだ。
だから、見えないところに移動すれば問題無いのだ。
『その子を渡してもらえないかしら』
霧の中から少女・シェイクスピアが現れた。シェイクスピアは部屋の入口に立っていた。僕は陽菜乃とシェイクスピアの間に立ちふさがるようにして陽菜乃をカバーした。
「断る」
シェイクスピアが陽菜乃を「視ている」のに能力で移動させないのも、能力のもう1つの欠点が理由だった。
視認できる範囲にしか移動することが出来ないのだ。
今、僕ら3人は部屋の中にいる。陽菜乃は隠れるためにカーテンを全部閉めていたから、シェイクスピアの立っている場所からは家の外が見えない。だから、移動させてもせいぜい隣接しているリビングまでが限界だった。
「そう、なら力ずくでも奪うわ」
「お兄ちゃん、、!」
「大丈夫だから、少し待ってて」
陽菜乃の頭をポンと軽く撫でた。そして振り返ると、シェイクスピアに向かって走り出した。
前に伸ばした拳がシェイクスピアに当たる瞬間、僕はまた、あの灰色の空間に飛ばされた。




