第53話 真実と虚構
陽菜乃が目を覚ましてから1週間が経った。
僕は家族を大切にするために家に戻った。
「おはようお兄ちゃん。今日も遅くなるの?」
「おはよう。そうだね、遅くなりそう」
「あんまり無茶しちゃダメだよ?」
「分かってるよ。行ってきます」
僕は靴を履くと、玄関を出て学校に向かった。
陽菜乃には今までのことを話した。アストレアのこと、僕と光祐が巻き込まれたときのこと、陽菜乃の来世のこと。
本当は危険に巻き込まれないように秘密にしておくつもりだった。だけど、陽菜乃は僕の吐いた嘘を見破った。
1週間前──
「あれ、、ここは、、、、?」
僕がヒナノの手を握って少しこっくりこっくりと眠りかけていたとき、ヒナノが目を覚ました。
久しぶりに聞くヒナノの声に、僕は思わず抱きしめた。
「良かった、、!本当に良かった、、、、!」
「え、、何!?どうしたのお兄ちゃん!?」
背中に腕を回されたヒナノは驚いた声を出していた。
このまま起きないんじゃないかって思っていた。もう声を聞けないんじゃないかってすごい心配だった。もうあの笑顔が見れないんじゃないかってすごく怖かった。
その想いが言葉にならなかった。だから僕はただただヒナノを抱きしめた。
ヒナノの手が僕の背中に触れた。
「大丈夫。私はここにいるよ、お兄ちゃん」
優しい声が頭に響いた。
「ガチャっ」
扉の開く音が聞こえた。それに続いて親友の声。
「あ、、悪い。取り込み中だったか」
「え!?だ、大丈夫!何でもないよ!!」
コウスケの姿にすぐに気付いたヒナノが僕の背中から手をパッと離した。何でもないと言ってるが、慌てて早口になっている。
「ヒナ、、!!」
コウスケを押しのけてユキが部屋に駆け込んできた。ユキはヒナノに飛び込んで抱きつくと、そのままベッドに倒れ込んだ。
「うわっ!ユキちゃん、、!びっくりしたぁ!」
「元気そうで、、良かった!!」
ユキはヒナノに覆いかぶさったまま涙ながらの声でそう言った。ユキの大きな声に、リビングにいた他のメンバーもやって来て、扉から顔を覗かせた。
それを見たヒナノは困惑した顔で僕を見てきた。
「どういう状況、、、、?これ」
僕はどうしようか迷った。本当のことを話すか、嘘をつくか。本当のことを言ってしまうのは簡単だ。起こった事実をそのまま伝えればいい。何も考える必要は無い。でも、そこで1度立ち止まってみる。
僕の帰りが遅かったときに「文化祭の準備」
と言ったのは何故か。僕が家にしばらく帰らなかったのは何故か。
全て、ヒナノが安全でいられるためだ。
家にネクストが来るのが無いように家に帰らなかったし、心配にさせないように嘘も言った。
だから、今ここで本当のことを話してしまったらそれまでのことが無駄になる。
僕は今回も真実を曲げることにした。
「学校で倒れたみたい。医者は疲労だって言ってた」
「うん」
「だからすぐに目を覚ますと思ってたんだけど、中々起きなくて、コウスケの家でずっと看病してた。そこにいるのは高校の友達で、見舞いに来てくれたんだよ」
「嘘だよね?」
「え、、?」
「お兄ちゃんの言ってたこと、嘘だよね」
僕は自分の耳を疑った。僕の嘘がバレたというのか?
「嘘なわけ、ないよ。だってユキだって医者から聞いてるはずだよ」
「そこが本当なのは分かってるよ。でも、ここはコウスケさんの家じゃないし、そこの人達も高校の友達ではないよね?」
ヒナノは僕が真実に混ぜた嘘を全て見破った。
「それに、文化祭の準備のときのも、嘘でしょう?」
僕は狼狽してしまった。
何で過去のことまで掘り返して見抜くことが出来たんだ?
その思考が頭の中でグルグルと駆け巡った。狼狽えた僕はヒナノの顔から目を逸らした。そのとき、ヒナノの左手が目に入った。
ヒナノの左手の紋様は純白に輝いていた。
まさか、、、、。
「ヒナは何で嘘や思うたん?」
「え、、あれ、何でだろう?何となくそう思った、から?でもどこかで本当のことを見た気がする、、、、」
まさか、これは、、、、。
「ハルキ、気づいてん思うけどヒナは能力発動してんで。嘘ついても通用しいひんよ、あれ。」
やっぱりそうか。
何となくその予想は心のどこかで確信を持っていた。でも改めて言われるとやはりダメージが大きい。
「ヒナノ。本当のことを話すからよく聞いてほしい」
「、、、、うん」
僕がそう言うと、ヒナノは布団をぎゅっと握りしめた。
「僕達はアストレアっていう組織なんだ」
それから僕は今までのこと、これからのことを全て話した。ヒナノの嘘を見破る能力が発動することは無かった。
「じゃあ、私は来世を獲得したからこの能力が使えるようになったんだね?」
ヒナノは僕の話を聞くと、すぐに状況を理解してくれた。どこかで1度僕らのことを見たからだろうか。
「そうだね。来世が何なのかは分からないけど、、、、」
「分かるよ」
ヒナノは僕の言葉に被せてそう言った。
「え?」
「多分私の来世は人間。嘘を吐くのは人間だし、それを嘘だと理解するのも人間だけだからね」
「、、なるほど」
たしかに、嘘を吐くのは人間か悪魔くらいだ。でも、相手の嘘を見破るのは人間だけだ。
この能力を使えばネクストの目的もハッキリと分かるかもしれない。
でも、
「僕はヒナノがアストレアには入れたくない」
「先輩、、何を言って、、、、!」
「うちも賛成やで」
「ユキまで、、!」
僕とユキの言葉を聞いたスミハが驚いた顔をした。
「アストレアに入ってるっていう理由で襲われるのは嫌だから。その代わり僕が全力で守る」
僕は真剣に、スミハの目をじっと見て提案した。
しばらくスミハは黙っていたが、ため息をつくと、渋々了承してくれた。
「分かりました、、。ただ、何かあったら私達も加勢しますよ。1人だけに任せてはおけませんから」
「ありがとう」
こうして僕とヒナノは久しぶりに2人で家に帰った。家の玄関は僕らを暖かく迎えてくれた。




