第49話 陽菜乃3
『まずいな』
湊音はベッドで眠る陽菜乃を見るなり、そう呟いた。
「病院の先生は過労だって、、、、」
『春輝の妹が倒れた原因はそれで合っている。問題なのはそこではないんだ。、、光祐、座ってくれ。立ちながら話すのは疲れる』
病室にはもう椅子が無かったから僕は座っていた椅子を光祐に渡した。僕はベッドの端に腰掛けた。
「サンキュー春輝」
光祐が座るまで湊音は黙っていた。
『さて、まず春輝の妹が倒れた原因だが、それは医者の言う通り過労でまず間違いない。日頃の疲れが溜まって体がもたなくなったんだろう。じゃあ何で妹が来世を手に入れたかだ』
「理由なんてあるのか?」
光祐が聞いた。僕と光祐が来世を持ったのはほぼまぐれのようなものだ。
純葉なんかは僕らが白の女王に呼ばれたからその呪いだとか言っていたけれど、陽菜乃にそんなことがあったとは考えにくい。
家系とかでもないだろう。僕の親が来世を持っているような感じはなかった。
『明確な理由は無いだろうな。来世を持つことに条件なんてない。だからこの子に来世が与えられたのは大方この子自身の心の不安とか、そんなところだろう』
僕は結生の言葉を思い出した。
「僕が、家に帰らなかったから、、、、?僕がこのままいなくなるのではないかっていう不安が陽菜乃にとっての引き金だったってこと、、、、?」
『そうだな。それだけのことがあれば来世を持つのには十分な理由だろうな』
僕の中で何かが崩れ落ちた。
僕が今まで持っていた大切なものが両手の隙間から零れていくようだった。
いくら押さえつけてもとめどなく溢れ続けた。
僕のせいだ。僕が陽菜乃を1人にしてしまったからこうなってしまったんだ。
僕がちゃんと家に帰っていれば、もっと家族と向き合っていればこんなことにはならなかったんだ。
僕は握りしめた拳でベッドを殴った。ベッドは沈みこんで揺れた。その振動が僕の心のもろい部分に響いて僕を後悔の気持ちをさらに大きくした。
「元に、、元に戻す方法は、ないの、、、、?」
僕の言っていいセリフでないことは分かっていた。僕が陽菜乃を巻き込んでしまったのに誰かに何とかしてもらおうだなんて、虫がよすぎる。
だけど、今の僕にはそんなことはどうでもよかった。陽菜乃が助かるならそれでいいと思った。
兄として失格してもなお妹のことを何とかしたかった。今までみたいな危険なところに陽菜乃を巻き込みたくなかった。
しかし、湊音の言葉はとても冷たかった。世界が僕を突き放すように鋭く僕に突き刺さった。
『無いな』
「そんな、、、、!」
僕の言葉に重ねて湊音は続けた。
『最初に言っただろう?本人の意思によって生まれた来世は体とより強く結ばれている。かなりまずい状況なんだ』
「コアを取り出せば戻るんじゃないの、、、、?」
『本人との繋がりが強い分、取り出したときの精神の破壊は大きいぞ』
「それに、そんなんうちが許さへんで」
結生が僕をまっすぐ見て言った。
「自分の友達、自分の身内がそないなふうになったら悲しいに決まってんやんか。もし、ほんでもやる言うならうちは春輝を殴ってでも止める」
結生の顔は真剣そのものだった。僕が陽菜乃のコアを取り出そうとすれば本当に殴られるだろう。それだけ結生は陽菜乃のことが大切なのだと分かった。それは僕も同じだ。陽菜乃がいつか見た前世持ちのようになってほしくない。
でも、じゃあ僕はどうすればいいんだ?
「周りを頼ってええんやさかいね」
ふいに結生の言葉が頭の中で蘇った。
そうだった。僕は1人じゃないんだった。誰かに頼ることが出来るんだ。
「皆に頼みがある」
僕の言葉に結生はうんうんと頷いた。
「何だ、頼みって?」
「陽菜乃をここから連れ出す。アストレアで陽菜乃を守る!」
「そうやなあ。来世を持ったことはしかたがあらへんさかい、後はうち達で何とかしいひんとね」
「でも連れ出すったってどうやるんだ?ここは病院だぞ?」
光祐が聞いてきた。
僕には1つの作戦があった。僕がアストレアのリーダーとして、ここにいるメンバーの力を最大限に使う、"皆を頼る"作戦が。
「それはね、、、、」
作戦を話している間、僕は鳥肌が立っていることに気付いた。




