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輪廻の扉  作者: ゑ兎
第1章
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第2話 命の鼓動



 光祐とは小学校からの親友でいつも一緒に遊んでいた。当時からあまり外遊びには興じずに本を読んで休み時間を過ごしていた僕と、その反対に外で駆け回るような明るい性格の光祐が何故仲良くなれたのかは僕ら自身謎なのであるが、お陰様で今でも仲良く高校生活を送っている。

 周りは僕らのことを「光コンビ」とかいう痛い名称を付けて呼んでいる。光祐は気に入ってるみたいだが、僕は嫌っている。

 名前に「光」が入ってるだけでそんなのを付けられるなんてたまったもんじゃない。



 電車の一番後ろの車両に乗ると、僕ら以外に乗客はいなかった。

 僕はさっきファミレスで聞いた会話を光祐にしてみた。

「あー、それ朝ニュースでやってたわ。学校近くだから気を付けないとお前も襲われるぜ?見た目貧弱そうだし」

 そう言って光祐が笑うから僕は何も言い返せない。

 貧弱なのを否定はしないがこれでも運動はしている方だ。週に3日ある体育の時だけだけど。


「あ、さっきの来世の話で思い出したけど光祐これ知ってる?あの殺人事件で殺された遺体のそばに書かれてるっていう文字」

 光祐が初耳というジェスチャーをしたのでネットで拾った画像を見せる。死体とかは写っていないが飛び散った血飛沫などの赤黒い跡は生々しく写っていてかなり気色悪い。

「文字って、この右上のか?」

 写真の右上に血で書かれたような色をした文字が写っている。

「えっと、アフターライフ、、、?後の人生ってことで来世か?あ、でもこれ英語の綴り違うぜ。lifeじゃなくrifeになってる」

 光祐はこの殺人犯をおっちょこちょいだと笑った。


 でも、僕の意見は違う。この殺人犯が言おうとしている事が何となく分かった。

「これ、綴り間違いじゃないよ、光祐。rifeって単語、調べれば出てくるけど日本語訳では"蔓延する"って意味なんだよ」


 そのとき、電車がトンネルに入った。車内が若干暗くなる。

 光祐がまず異変に気づいた。

「あれ、こんな所にトンネルなんてあったっけ?」

「確かに、言われてみれば」

 僕らの家のある駅から学校のある駅へはたった2駅しかなく、その間の線路は車の渋滞緩和から全て高架になっている。それに、いつも乗っている電車だ。トンネルが無いことくらい、昼間に無意識の内に確認している。

 だが、窓から見える外の景色はトンネル内部の石の模様だけ。


 どう考えてもおかしい。


「俺たち乗る電車間違えたか?」

「いや、間違えてないと思うよ。ほら、あれ」

 そう言って僕は扉の上の電子広告を指さす。その隣の画面には次の停車駅が僕達の降りる「柳総合体育館前駅」と表示されている。

 だが、しばらくするとその表示は消え、それと共に車内の明かりも一旦明るくなったあと消灯してしまった。

 トンネルの中を走る電車内は、握りしめた手から零れるスマホの明かりだけになった。

「おいおいどうなってんだよ。整備不良か?」

「いやいや、明らかにおかしいでしょ。電車は走ってるんだから電気は通ってるんだし普通停電しないよ」

「じゃあエコ運動か何かか?お、トンネル抜けた」

 僕達が停電について話してると、電車がトンネルを抜けた。外の風景を見ようと窓にへばりつく。幸いというか、車内の明かりが消えているため外の景色は見やすかった。

 だが

「なぁ、あそこに見える建物って、、」

「うん、僕らが待ち合わせしたファミレスだ」

 一体どういう事だ。駅を出て次の駅に着いたのは確かだ。だがその後普段は無いはずのトンネルをくぐったと思ったら元の駅に戻ってきてしまった。

 東京の山手線だとでも言うなら分からないでもないがここの駅には生憎乗り合わせていない。


 不思議なことに、戻ってきた駅のプラットフォームには他の乗り場も同様に乗車待ちの客も駅員も、更には店の店員も居なかった。

 状況が理解できないまま開く扉に従って1度電車を降りた。


 駅舎の窓から外を見ると車の通行や、さっき通った時は騒音に包まれていた繁華街にも人を見つけることはできなかった。

「さっきまでは軽い引きこもりだったら酔うようなほどの人混みだったのに、今は人っ子一人居ないぞ?」

「そうだね。何かが確実に起こってる」


 そのとき、少し遠くから地面を踏むコツコツとした音が聞こえてきた。

 振り向いてみると、ホームの先、さっきまで電車が止まっていた線路の先の反対側のホームに、黒いTシャツに黒いズボン、黒いコートといった全身が黒で統一され、目元を仮面で隠した男がホームと改札をつなぐ階段を登ってきた。

 見た目は若干怖そうな服装をしていたがそれよりも今起こっている不可解なことについて聞きたい気持ちの方が勝っていた。

 ホーム越しに男に話しかけた。

「あのー、すみません。少し聞きたいことがあるんですが、、、」


『、、、ジ、、ァ、、、』


「じ、、、?」

 僕が質問をすると、男はザラザラと枯れた声でそう呟いた。光祐がもう1度聞こうとすると、男はニィっと笑って問いかけを拒否するように後ろに下がった。

 そのとき、男の手の辺りで一瞬光る物を見た。光祐もそれを見たようで小声で話しかけてきた。


「なぁ、あの男が持ってるのって、ナイフだよな?」

「うん、そうだね、多分、、」

 光祐に言葉を返したとき、男が前屈みになり、そのまま走り出した。ホームの縁の手前で男はジャンプすると、前宙をしながら線路を超えてきた。


「危ない!」


 僕は咄嗟に光祐の体を掴んで横に転がった。この状況でよく動けたと自分でも驚いている。

 さっきまで僕らがいたところには男の着地の衝撃で崩れたホームの欠片が散乱していた。

 男は立ち上がるとこちらを向いて前屈みの姿勢のまま歩いてきた。

 右手にはナイフが握られていて、時々それをクルクルと回して遊んでいる。僕達を殺そうとしているのは明らかだが、男はそれを楽しんでいるように見えた。


 僕らは後退りをしながらも、いつ襲われても走り出せるようにした。


 僕の体がホームの中間を過ぎた頃、男が持っていたナイフを投げつけてきた。結構速い速度で飛んできたが流石にかわせる。

 半身で避けると、光祐と顔を見合わせた。

「逃げよう」

「あぁ。走れ!」

 光祐の声と共に走り出した。そのまま階段を下ると改札から外に出て繁華街に逃げ込んだ。


 やはり商店街にも店の中にも人は居なかった。

 光祐のバイト帰りにいつも挨拶をするおじさん、八百屋の前で大声でセールスをするお兄さん、その全ての喧騒が今は静寂に包まれている。

 聞こえてくるのは僕らの荒れた息遣いと胸の中でいつもより速いペースで打ち続ける鼓動だけだった。


「巻いた、のか、、?」

「どうだろう、分からな、、っ上!」

 僕らがあたりを確認しようとした時、上から黒い物体が落ちてきた。

 僕らの前方に落ちたそれは、ゆっくりと立ち上がった。


「くそ!追いつかれたのか?!」

「こっち!」

 光祐の腕を引っ張って元来た広い方へ逃げようとするが、手前の角からさっきの男が出てきて行く手を阻む。

「挟まれた、、!」

「逃げ場なんてもう無いぞ?!」

「でも、このままだと、、、!」

「分かってる!とりあえずどちらか片方を無力化出来れば逃げられる。春輝はそっちの落ちてきた方を頼む!」

 こういうとき光祐は頼りになる。見た目は若干チャラいが、いざという時の行動力や周りをまとめる力は強い。


「分かった!」


 光祐と背を合わせるようにしてお互いの目標を見据えると、まず光祐が走り出した。

 僕は、フードを被った男が何をしてくるか分からないなので慎重に詰め寄ることにした。

 柔道の固め技なら拙いが出来なくはない。

 そう思ったとき、後ろから男の投げたナイフが飛んできて顔の横をかすめた。そのナイフはフードの男の方へと飛んでいく。

 僕は、男も避けるだろうと思っていたが、男は持っていた筒状の長い袋を瞬時に持ち上げナイフを弾いた。ナイフの当たったところの袋が切れて中が少し見えるようになった。

 男が袋を引きちぎると、中からは真っ黒い鞘に収まった日本刀が出てきた。

 男は鞘から刀を引き抜くと、こちらに向かって構えた。


 僕は今の常人ではない速さの出来事に一瞬動けなくなってしまった。

 その隙に男に差を縮められてしまう。

 あっという間に僕の目の前まで来た男は刀を振り上げる。

 それを振り下ろせば僕の体は簡単に引き裂かれるだろう。

 しかし、振り上げられた刃物からの恐怖で僕は動けなくなっていた。


「う、、、あ、、、、」

 かろうじて声は出るようだった。


 刀が振り下ろされる。

 僕は目を閉じた。





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