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輪廻の扉  作者: ゑ兎
第2章
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第27話 失われる心





僕がコウスケに電話をしてからしばらく後、コウスケが障子を開けて部屋に入ってきた。


「いきなり呼び出してどうしたんだよ?何かあったのか?」

コウスケも文化祭の夜のことは知らないはずだ。ウィルが現れたのはコウスケと別れて家に帰ろうとしていたときだから、あの霧にも巻き込まれていないはずだ。

「僕らに見せないといけないものがあるみたいだから、早く行こう?詳しくは歩きながら話すからさ」

僕はあえてコウスケには何も言わなかった。

要らない情報だとは思ってないが、伝えないといけないことだとも思えなかった。

余計な心配でコウスケの能力が使えなくなりそうな気がしたから。


僕らは部屋の外に出た。スミハは留守番をすると言って来なかった。

ミナトの後ろについて狭い路地を進んでいく。

僕はコウスケにこれから起こることを説明した。コウスケは納得したようで、何回か頷いてから「分かった」と短く言った。


ミナトが止まった。目の前には決して広くはない十字路があった。その中央に座り込む男の姿があった。パーカー姿のラフな格好だった。おそらく買い物に行った帰りだったのだろうか、小さいコンビニの袋が手首にかかっている。

「あれが、前世持ち、、、、?」

「あぁ。あれが、敵だ。ここだとやりづらいから外まで誘導する。お前達は先に外に出ておけ」

敵──被害者でも能力者でもない、僕らにとって危害を加える相対する者。

彼はまだ何もしていないのにそう決めつけるのは、正義の味方としての責務なのか。

自分達の都合で摘み取られるべくしてそこにいるのか。


話し合いではない、一方的な武力行使に思えた。

しかし、ソラとミナトが近付くとこちらの方に顔を向けて立ち上がった。

2人は今度は少しずつ後ろに下がる。すると、男も前進を始めた。段々と早足になり、ついに走り始めた。

ソラは上空へと飛び上がり、ミナトは走ってこちらの方まで来た。男は一瞬立ち止まったがすぐにソラを無視してミナトを追い始めた。

僕らの横を二人が通り過ぎる。

男は僕らには見向きもしなかった。

その男の両肘から先は黒い物体が覆っていた。

クローの能力の爪に似ているがそれよりは小さく、元の生身の大きさとほぼ変わらなく見えた。

「────ガァ!!」

男は腕を伸ばしてミナトを掴もうとする。ミナトはそれを「瞬歩」で軽く避ける。

ミナトを掴み損ねた男の体がバランスを崩して大きく前に跳ぶ。

その一瞬の隙にソラは上空から既に自身の左右に展開していた6本の剣を男に向かって投げた。

風を纏った薄黄緑の剣は男の周囲に突き刺さる。

「──?!」

身動きを封じられた男は、剣を引き抜いて自分の体を出すための空間を作ろうとし始めた。しかし、その動きが止まる。

「出させないぜ」

男の足元から声が聞こえて男は自分の足元を見る。

街灯の明かりで多方向に伸びる男の影からミナトが頭と腕だけを出していた。ミナトのうでは男の足首をかっちりと掴んでいる。男の動きが止まったのは足首を掴まれたからだった。

男は掴まれていない方の足でミナトの腕を蹴る。

「暴れんじゃねぇ、、、、!」

「影縫・纏」

ミナトが呟いた。

すると男の影が揺らぎ始めた。影が不自然に伸びていく。異様に黒いその影は地面から離れると男の体に絡みついた。

男の動きはこれで完全に止まった。男は全身に力を入れるが影はビクともしない。

そこにソラが降りてきて男の前に立つ。

「2人とも、あんまり近づかない方がいいよ!」

僕らにそう叫ぶとソラは男の方に向き直った。

「ごめんね。でも耐えて」

ソラは男に短く呟くと、胸に左手を突っ込んだ。

初めてソラに出会った日、ソラが僕の体内に入ってきたことを思い出した。しかし、今回はそういうこともなかった。

ソラの手の甲に浮き出ていた紋様が一層強く水色に輝く。そして手の平は男の胸に引き寄せられるように入っていった。

「──ゥ、、、ァ、、」

ソラが腕を動かすと男は顔を歪める。

しばらくしてソラは腕を引き抜いた。

赤い液体が噴き出す。血液のように見えたが色は薄く、水で薄めた赤い絵の具のようだった。

同時に黒い帯状のものが数本出てきた。1つ1つの帯は無数の文字で出来ていた。


ソラの手には群青色の玉が握られていた。大きさはさほど大きくない。胸から出てきたから当たり前かもしれないが、片手でも充分に持つことが出来る。

「その玉は?」

ソラは取り出した玉を大事そうに両手で包みながら答えた。

「これはコアだよ。来世保持者も前世持ちも全員これを持ってるの。勿論、君達の中にもね」

自分の胸に手を当ててみた。そう言われても全くそんな感覚は無かった。

「前世はこんな青い色をしているけれど、来世のコアはオレンジ色で綺麗だよ」

この群青色のコアも美しいと思う。

「このコアを壊すと人間に戻ることが出来るわ。ただ、ね、、、、」

ソラは両手に力を込めはじめた。コアに負荷がかかっていく。

男に異変が起こった。

ミナトが纏を解くと男は膝から崩れ落ちて肩で息をしはじめた。

コアにヒビが入りはじめた。

ソラの後ろで呻き声があがる。

ソラはその声を聞かないようにしながら更に力を強めていく。

男の呻き声が叫び声に変わる。喉元を抑えて状態を反らす格好になった。


コアが割れた。

それと同時に男の声も止んだ。


「、、、、これは、どうなったの?」

「コアが破壊されて彼はただの人間に戻ったわ。でも、完全には元には戻らないの」

男は座り込んだままぶつぶつとなにか呟いている。瞳は光を宿しておらず、虚空を見つめていた。

「肉体自体はすぐに現実世界に戻るんだけど、感情とか精神は1ヶ月程このままなの」


「あなた達はそれでいいんですか?」

僕は語尾が強い口調になっていた。

ソラはこちらから目を逸らす。

「私達だって本当はこんな事はしたくないし見たくないわ、、、、。でも自分達が生きるためにはしなくちゃいけないの。割り切らないといけないことだって、あるのよ、、、、」

「、、、、、、そうですか」

僕は足の向きを変えた。

「ハルキ君、、、、」

「僕だってそれくらいは分かってる。ただショックが大きかっただけ、、、、それだけです」

僕は元来た道を歩き続けた。

神社に帰るとスミハが待っていた。

「先輩、終わったんですか?」

「、、、、うん」

「その反応はやっぱりキツかったってことですよね、、、、」

「、、、、うん。、、ごめん」

僕は早々に会話を切って元の世界に戻った。


駅のホームで光祐が追いついたが、光祐は何も言わなかった。

光祐はさっきの光景をどう思っているのだろうかと一瞬思ったが、何となく口を開く気にならなかった。

口を開くと溜め込んでいたものが全て出てしまいそうだった。


僕らは先日ウィルが現れた交差点で別れた。

挨拶も「じゃあ」と短いものだった。










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