第25話 文化祭ストーム4
僕を呼ぶ声がした。その声に聞き覚えがあって、なんとなく嫌な予感もした。
僕はゆっくり、ゆっくりと声のした方向を向いた。
案の定純葉だった。
純葉は僕の前で止まると僕を眺め回した。
「いやぁ、驚きました!先輩にこんな趣味があったとは!」
「無いよ?!」
「あのときは嫌がってたのにテンション上がると着ちゃうんですねー!」
「いや、これは成り行きで、、、、」
「まぁまぁそう言わずに!」
そう言って純葉は僕をなだめた筈だったが直後、笑い出した。
僕は光祐の方を見た。光祐は顔を曲げて目を逸らした。
純葉はひとしきり笑った後、思い出したように口を開いた。
「そういえば光祐先輩、この子が何か話あるそうですよ」
純葉は体を半歩横にずらした。
そこには1人の少女がいた。
さっきから僕らの会話を苦笑いして聞いていた
少女は少し前に出ると光祐に声を掛けた。
「あのっ、先輩!少し、、えっと、時間いいです、、か?」
照れて恥ずかしそうに話すその姿は今朝の1件を彷彿とさせる。
「あぁ、いいよ」
光祐がそう答えると少女の顔が明るくなった。
「じ、じゃあ、、少しこっちに来てくれますか?」
「分かった。春輝、少し行ってくる」
「行ってらっしゃーい」
そうして光祐とは別れた。
後には僕と純葉だけが残された。
僕らは2人を黙って見送る。
「魔法少女先輩」
「何その呼び方!」
「今のどう思います?」
「さ、さぁ、、、、告白とか?」
「ですよねー」
「何で?」と聞いたが純葉はそのまま黙ってしまった。
騒がしい校舎の中で僕らの間に沈黙が流れる。
僕はその沈黙が嫌で声を掛けた。
「少し一緒に回る?」
「えー、、痛い先輩とはちょっとー」
純葉はいつもの調子で僕の誘いに反応したが、僕が歩き出すと付いてきた。
「先輩はいつも光祐先輩と一緒にいますよねー」
4階を1周して3階に降りたとき、純葉がそう口に出した。
「うん、小学校の頃からの親友で」
「小学校ですかー、、いいですね。楽しかったですか?」
「まぁ、小さい頃だったからあんまり覚えてないけど、それなりには楽しんでたと思うよ」
純葉は「そうですかー」と呟いたがその後にさらに質問は無かった。
その後、再び4階に戻ると光祐と後輩の女の子が戻ってきていた。
後輩の女の子は純葉を見るなり走ってきて思いっきり純葉に抱き着いた。
「先輩、また後で」
純葉はそう言うと抱き着いた女の子の頭を撫でながら去っていった。
僕は光祐のところまで歩いて行った。
「振ったの?」
「あぁ、、、、振った」
「結構可愛かったと思うけど?」
そう聞くと光祐は髪の毛を掻きながら答えた
「そんな言い方すんなよ、、、、たしかにそれもそうだったけど、仕方ないだろ。いつ死ぬか分からないんだから」
いつ死ぬか分からない。
それが光祐の言い分だった。
確かに僕らはいつ死ぬか分からない。今このとき襲われて死ぬかもしれないし、そうでなくてもそれは明日かもしれない。普通の人とは違うところに足を踏み入れてしまったのだからそれは当然と言える言い訳だった。
僕はその言葉に何も言い返せなかった。
純葉達と出会った後も僕と光祐は色々なところを見て回った。気が付けば午後も過ぎてあと数分で文化祭が終わる時刻になっていた。
外部のお客さんもほぼ帰宅してしまい、校舎内には昼間の熱気だけが残されていた。
僕と光祐は教室に向かって歩いていた。少し離れたところにいたので文化祭の終了時刻には間に合わなさそうだった。
僕がゆっくり歩いて戻ろうと考えたとき、文化祭の終了を告げるアナウンスが流れた。
楽しかった文化祭が終わった。
ホームルームでもまだ盛り上がっていたクラスの人達は打ち上げをやることに意欲的だった。
僕も光祐も2日間やり切ったことに達成感があったので参加することにした。
僕は夕飯が要らないことを妹にメールで伝えると、スマホをしまった。
打ち上げは近くの焼肉屋で行われた。皆盛り上がって網をつつくペースも早くなってきた頃、僕は清水さんと山崎さん、それに男子の文化祭実行委員が居ないことに気が付いた。
「ねぇ、清水さん達は来てないの?」
「あー、そういえばいないねー。遅れてくるんじゃないかな」
隣の女子に聞くとそう答えが返ってきた。
僕も大方そんなところだと納得したので特に気にせず肉を焼く熱気とそれを包む笑い声に混ざった。
打ち上げは約3時間行われ、夜遅くになってやっと解散になった。結局清水さん達は来なかった。
僕は最寄り駅から歩いて住宅街まで入り、そこで光祐と別れた。
しかし、そのときになってまだ人の気配があることに気が付いた。
周りを見回したがどこにも誰もいなかった。気のせいかと思って歩き出そうとしたとき、いつかどこかで感じたあの不快な感覚が蘇ってきた。
頭の中に直接語りかけられるような声。まるで脳みそを直接触られてるかのような寒気に僕は襲われた。
周りにはいつの間にか霧が出ている。
「誰だ!」
僕の問いに声の主は一言放った。
【死にたくなければ関わらないで。"能無し"】
辺りの霧が消えたとき、僕の寒気も治まった。
僕には何が起きているのか分からなかった。
この2日間の文化祭のせいでまともに頭が回らなくなってしまっていた。頭の中で今の言葉を反芻してみる。妙に心に刺さる言葉は僕の理解力を既に超えていた。
今起こったことをまともに受け止めることが出来なかった僕は、しばらくその場に立ち尽くしていた。




