第22話 文化祭ストーム1
「夏休みが終わって2学期が始まってから楽しみなものは何か?」と高校生に訊けば十中八九「文化祭」と答えるだろう。
体育祭に続いて学校生活での3大イベントの1つというのもあって皆熱が入る。ただ、勝手に熱が入って盛り上がるのはいいが、その熱は個人の加温だけには留まらない。周りの人達も熱してしまうからタチが悪い。
「島野君、ぼーっとしてるくらいなら手伝って!」
「春輝!ここ押さえてくれ!」
「・・・・・はぁ」
ここ最近ずっとこんな感じなのだから、そりゃあ溜め息だって出るってものだ。
僕は文化祭自体は嫌いではない。各クラスがそれぞれ面白いブースを披露してくれる。それらを見て回るのは楽しい。でも、そこに漕ぎ着けるまでの準備期間が僕にはどうにも居心地が悪い。多分、今みたいに雑用として扱われるからなのだろう。
そんな訳で去年の教訓から学んで僕は早々にクラスを後にしようとしたのだが、クラスの友達に呼び止められ、僕はベニヤ板を支える仕事をさせられている。
「ねぇ、何を作ってるの?」
ベニヤ板と木材をネジ止めしている男子に聞くと答えが返ってきた。
「これか?これは看板だ」
「看板?」
僕が支えている板には何やら鉛筆で線が引かれていた。何が書かれているのだろうと目を凝らして線を目で辿ってみると、なにやら人の絵が描かれていた。それもアニメに出てきそうな美少女の、、、、絵が、、。
「、、うちのクラスって何をやるの?」
「今更それ聞く?!何って、『コスプレ撮影会』にこの前決定したじゃんか」
「コス、、、」
「アニメのキャラクターの衣装着て、来たお客さんと写真撮るんだよ」
「プ」
「ちなみに春輝もコスプレ担当だぞ?」
「レ、、?!何で何で?!」
「昨日決まったんだってよ。俺ら昨日休んだだろ?」
近くで教室の飾り付けをしていた光祐が僕の嘆きに答えた。
「それなら光祐だって休んでたじゃん、、」
「俺は事前に希望を伝えてたんだよ。欠席者の意見って妙に尊重されるからな」
「そんなぁー、、、、なにも僕じゃなくても、、」
「・・・・・」
「・・・・・似合いそうだったから」
「そんな!わけ!ない!!」
僕は教室から逃げ出すことにした。出入口に向かって走るが、出入口の手前で近くにいた女子に扉を遮られた。
「ちょうど今完成した衣装があるんだけど着てくれない?着てくれるよね?サイズとか合ってるか確かめたいし」
笑顔で迫ってくるのが怖いです、、、、
「大丈夫だと思うよ多分完璧いや絶対完璧だからここをどいてくれないかな?」
「だーめ!ほら、早く着替えて!ほら!」
「やめ、、うわあああああああああああ!!」
僕の叫び声は今日1番校内に響いたものになった。
「婿に行けない、、、、」
昼休みになってやっと解放された僕は屋上で昼食をとっていた。隣では光祐が購買で買ってきた袋の中身を取り出していた。
「あれぐらいいいじゃんか。似合ってたぞ?」
「あれぐらいって、、、、本番でも着るんだよ?」
「頑張れ」
「他人事だね」
「他人だからな」
「ひどい!」
僕と光祐の会話はいつもと変わらない。話したいことを話したいように気楽に話す。何があってもそれが変わることは無い。
「そういえば光祐は何の係になったの?」
「俺は撮影担当」
「あー、そっか、、写真撮られるんだよねー、、」
「?」
「昔から写真撮られるの苦手なんだよね、、写真写りが悪いっていうか」
「まぁ、ちゃんと文化祭が開催されればの話だけどな」
光祐は空を眺めた。僕は光祐が何を思っているのか考えてみた。
「多分大丈夫だよ。あいつらはこっちには来れないんだからさ」
「現状は、だろ?これからそうならないとも限らない」
「そのときは僕らで何とかするしかない」
「まだ能力が無いのと治癒しかできない2人であれは倒せないだろ」
「その言い方は凹むなぁー」
「それはすまん」
僕達の会話はここで途切れた。僕は無言で弁当をつつく。
たしかに僕らではまだネクストを撃退することは出来ない。僕に来世の能力が使えるようになればまた違うだろうが、あいにくとまだ何の来世なのかも分からない状態だ。
チャイムが鳴っていつもより少し長く感じた昼休みは終わった。
午後は午後で教室の装飾の手伝いやら試着やらで忙しかった。渋々ではあったが僕にしては働いた方だと思う。
「今日も付いてくるのか?」
「勿論。、、、、帰っても暇だしね」
「勉強しろよ」
「うわっ、辛辣!」
僕はそこまで頭は悪くないはず、、、、そう思いたい。
ちなみに光祐は僕より全然頭が良い。テストの順位を聞いても答えてくれた試しが無いが、どうせ30番以内に入っているに決まっている。僕とは頭の作りが根本的に違うのだ。外見では大雑把というか、ガサツというか、少しチャラいイメージで見られることが多いが実際はそんなことはなく、いたって真面目なのだ。
僕は光祐のバイトが終わるまで本屋を物色して過ごした。久しぶりの日常だった。翌日も、翌々日も同じように学校では文化祭関係、放課後は光祐のバイトということの繰り返しだった。
この日常がもっと続けばいいのに。そう思ったが、人生はそう上手くはいかない。
衣装を初めて試着した日から数日後、僕の目の前には完成した大量のフリル付きの衣装が積み上がっていた。
「もうすぐお客さん来るから早く着替えてね」
クラスの女子が僕を急かした。クラス委員長である彼女は文化祭では特に役職を得ているわけではないのによく働くなぁと思ったが、そういえば文化祭の実行委員はとてつもなく静かな人だったのを思い出した。誰とも話をしているところを見たことが無いほどに静かな人だったから、実行委員に選ばれたときには少々驚いた。そんな印象を持つ人だから、委員長が補佐しているのだろう。
「どれを着ればいいの?」
「どれでもいいから、とにかくすぐにね!」
委員長・清水さんは早口に念を押すと他のところに指示を出しに行った。僕は目の前の机に積まれた衣装に目を落としてから、横を向いた。そこでは光祐がカメラの三脚の位置を調節していた。
もう誰に何を言っても僕がこれを着ることは変わらないような気がした。
「もう、流れにまかせよう、、、、」
僕はため息を吐きながら衣装の山に手を突っ込んだ。
はじめまして、、ではもうないですね。ゑ兎です。
先日「1話当たりの文章量が多い」との感想を頂きまして、今回から1話当たりを短くしていこうと思います。ただ、書いていると長くなってしまうこともあるのでそのときは「上、下」みたいに分けていこうかとも考えています。




