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輪廻の扉  作者: ゑ兎
第1章
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第14話 交渉




 液体の滴る音がする。


 足元に赤黒い波紋が広がる。


 銃弾の刺さった左腕を抑えながらその場に立つその人は僕に問いかけた。


「大丈夫か?」


「はい。ありがとうございます」


 僕が今無傷でいられるのはこの人が銃弾をその身で防ぎ、体術で人形の首をへし折ってくれたからだ。


「ならいい。、、、、もしかしてお前は来世を持ってるのか?」

「はい。まだ能力は使えないけど一応持ってます」


「そうか。なら話が早い。俺はクロー。ここら辺の山を拠点にしてるグループのリーダーだ」


 どうやら、僕らの目的のグループが送電所にいるという情報に間違いは無かったみたいだ。

 クローという人がリーダーなら近くに他のメンバーもいるはずだ。


「僕はハルキです。僕はアストレアというグループに入っていて、ここにはクローさん達のグループがいると聞いて来ました」

 それを聞くとクローはすまなそうな顔をした。


「そうか、わざわざありがとうな。でもここに俺らのグループ、タイタンは居ないんだ」

「、、、、そうですか。じゃあどこにいるんですか?」


「少し離れた奥二子山だ。確かに前はここの送電所にいたんだが、4日ほど前にネクストの襲撃に遭ってな。追い出されたんだ」

「それは、、、、。被害はここを追い出された程度ですか?」


「そのときは皆無事だった。けど昨日1人カメレオンが殺られた。あいつらに潜伏系の能力は効かなかった、、、、。あいつは、ミノのはタイタンの中でも戦いに向いている能力じゃなかったし、ミノ自身そういう事が苦手だったんだ。ミノだけは守ってやりたかった。まだタイタンにはそういう能力の来世持ちが2人いる。そいつらは何としても亡くさない」

 だけど、ネクストだけは許せない。

 クローは吐き捨てるように言った。


 恐らくミノというのは、昨日の話に出てきた二子山での事件の被害者だろう。

 最近死というものが身近になっていて感覚が麻痺していたが、被害者は人間だ。

 その人にも感情も感覚もある。

 ただゲームのキャラクターが死ぬのとは違う。

 ミノさんも殺されることに対して恐怖があったはずだ。


 話を聞いている内に自然と拳に力が入っていた。


「クローさん、ここを出ましょう」


「ここって、この建物か?」

「それもそうですけど、この輪廻の世界から」

 クローは驚いた顔をした。


「そうなことが出来るのか、、、、!?」


「え、、?」


「俺は来世を手にしてここの世界-輪廻の世界って言うのか?に来てから1度も元の世界に戻っていない。最初は戻ろうとしたこともある。けれどどこにも出口は無かった。本当に外に出ることが出来るのか?」

 クローは迫る勢いで僕に問いただした。


「は、はい。今朝も元の世界からこっちに来ました」


「そうか。アストレアに入れば帰れるようになるんだな?」

「まぁ、そうですね」


「分かった。そういう事ならタイタンはアストレアに加わろう。皆異論はないはずだ」

「分かりました。うちのリーダーに伝えておきます」

 そう言ってから、そう言えばアストレアのリーダーは誰なのか知らないことを思い出した。

 後でソラにでも聞いておこう。

 それと共に、なぜ僕らが元の世界に戻れることも疑問に思った。

 それも後で聞こう。


「じゃあ、まずはこの建物を出ないといけないですね」


 クローは扉のノブに手をかけた。

 しかし、鍵が掛かっていないにも関わらずいくら押しても引いても扉は開かない。


「ネクストの術者の能力だろうな。外に本人もいるはずだ。今ここで出れば襲われかねない」

「でも!外には僕の仲間も、光祐もいる!早くしないとやられてしまうかもしれない!」

「待て!今外に出て何が出来る?俺は怪我をしているし、お前はまだ能力が使えないんだろう?それにここはネクストの結界内だ。俺らの能力は威力がかなり落ちる。拠点地のネクストとはとてもではないが勝ち目は無い」


「だからって自分の仲間が死んでいくのを黙って見ているわけにはいかない!クローさんだって分かるはずです」

 クローの顔が歪む。

 ミノのことを思い出しているのだろう。


 クローは暫く口をつぐんでいたが、やがて重々しく口を開いた。

「、、、、分かった。だが戦ってもこちらの体力が消耗されるだけだ。扉は何とかするから開けたら仲間を連れて俺らの拠点に走るぞ」


「分かりました」


「いくぞ!」


 クローの左手に紋様が浮かぶ。輪郭が赤黒く光る。

 ヨシナギの紋様は緑色に輝いていた。

 能力によって色が異なるのだろうか。

 クローの右手に黒い塊が纏わり付く。その塊は右手をすっぽりと覆うと形を変えた。

 粘土の球の様な見た目の塊は3本の巨大な爪へとその姿を変形させた。

 爪は肘から手首ほどの長さをようしていた。

 クローは扉の端に爪を突き刺した。

 爪はまるで扉が水で出来ているように、水面に差し込むように抵抗無く埋まっていった。

 クローはそのまま腕を横に動かす。爪は扉に刺さったまま横に移動していった。

 さっき刺したようにスムーズではなくかなり抵抗があるようで、クローは顔をしかめる。

 結界内だから予想以上に硬いのだろう。何回か硬い部分にひっかかりながら扉を引き裂ききった。


「扉にかかっていた術式は破った。これで外に出られるぞ」


 まずはコウスケ達をここから連れ出して奥二子山まで行く。

 タイタンを助けるのはその後になりそうだ。

 僕は意を決して扉を開けた。




 まず目に入ったものは目の高さで舞っているいくつかの紙。

 扉を封じるために貼り付けられていたものだ。

 次に目に入ったものは、いや、目に入るべき姿がそこには無かった。


 そこにいるはずのアストレアのメンバーは1人も居ない。

 ただの荒れた山の山頂だった。

 周りを見渡してもどこにも見慣れた姿は居ない。


 目の前が真っ暗になった。


もう殺されてしまったのか?

 

 いや、でも死体も無い。

じゃあどこかに逃げた?

 まさか見捨てられたのか。


 その場に崩れ落ちそうになる。

 落胆する僕の肩にクローが手を置いた。


「諦めるな。お前らの仲間はまだきっと生きている。だからしっかり立ってろ。お前が死ぬぞ」

 そう励まされて何とか正気を保つことが出来た。


 気を立て直したのも束の間、何かが僕らの後ろで地面に落ちた。

 積もっていた枯葉が舞い上がる。

 また人形かと思ったがどうやら違うようだった。

 謎の男の姿は半分闇に覆われたようにみえて、その全体像をはっきりと視ることは出来なかった。


 男は僕らに向かって話し掛けてきた。




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