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輪廻の扉  作者: ゑ兎
第1章
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第12話 山を駆ける




 二子山は柳市のシンボルのような山になっている。

 ここら辺の保育園や小学1年生辺りは遠足でこの山に登る。

 と言っても、山の麓に東屋がある訳でもなく、ただ登山道の入口を示す標識が立っているだけだし、山頂もこれといったものもなく、登りきって振り返れば眼下に街が見えるだけ。

 山自体もそう高いものではないため遠くまで見渡せるということもない。

 最後に登ったのがいつだったか見当もつかないが多分今もそれは変わっていないだろう。

 いや、むしろ木々が生い茂って取るものもなくなっているかもしれない。



 朝露の滴る薮を抜けて広葉樹林に入る。 木々の隙間から木漏れ日が差し込み、地面に樹葉の影を作る。

 2回の卒業を経験する歳月の内に僕の体力も少しは向上したのだろう。

 まだ3分の1位とはいえあまり疲れは感じなかった。


「それにしても随分と静かだな。ネクストに支配されてるのに敵の姿、あの人形さえ見かけない。ホントに支配されてんのか?」

 コウスケが辺りを見回しながら言った。

「マナハ、どうっすか?なにか感じるっすか?」

 ヨシナギがマナハに聞く。マナハは首を横に振った。

「ここらへん、なんの霊力も感じない、、」

「逃げ出したんすかね。そうだとこっちの任務楽になってありがたいんすけど」


 たしかに、ネクストが居なければ他の来世保持者が危うくなる危険もないし僕らも無駄な戦いをする必要もなくなる。


「でも、新聞に乗るくらいのことしておいてここまで無用心だと逆に怪しいな、、、、」


「たしかにそれにも一理あります。私達アストレアは今のところ襲われたことはありませんがある程度の警備と結界に似たものは張っています」


「結界?」

「厳密には結界ではありませんが、私の空間に前世持ちの存在が侵入すれば感覚的に私に伝わってきます」

「なるほど。たしかにその結界なら護りは堅いな。ネクストも何か仕掛けているかも知れません。注意して進みましょう」


 それから少しして山の中腹に設けられた簡易的な休憩場所に出た。

 少し辺りが開けていて木製のベンチが2つ置いてある。

 その休憩所を通り過ぎて1、2分歩いた所でマナハが足を止めた。

「どうしたっすか、マナハ?」


「前方に、霊力。凄く、強い、、!」


 僕らはそれぞれ構えた。

 どこかからか襲ってくるのだろうか。まさかもう見つかったのか。


 緊迫した空気が流れる。


 静寂が長く続いたように感じる。それを破ったのはアマセだった。


「なるほど、そういうことか。これなら完璧だ」

 アマセが嘆息げにそう漏らして前方の木に手を付いた。

 すると、手の周りの木の幹がジュッと音を立てて焦げた。

 アマセの手のひらにも多少の焦げた木片が付いている。


「これは?」

 アマセは手に付いた木屑を払いながら答えた。

「上を見てください。あそこに術の書かれた紙としめ縄が張られています。隣の木にも。今木に触れた感じから、おそらく結界でしょう。私のとは違ってしっかりとした結界です。これがあるお陰で私達は内側に入るのを封じています」


 なるほど、確かに地面から5、6メートルの所に紙が貼り付けられている。

 その紙の下には細いしめ縄が巻き付けられている。

 左右の木にも同じものがあった。


 本当に結界なのであれば、、、、


 僕は足元に落ちていた小枝を拾って前方に投げてみた。

 小枝は結界の張られた木と木の間を抜けて向こう側に落ちた。


「大丈夫そう、だよ?」


「それは木の枝だからです。この結界は対能力保持者用です。ヨシナギ」

「分かったっす」

 そう言うとヨシナギは一歩前に出た。


 ヨシナギの左手に紋様が浮かんだ。

 輪郭が緑色に輝きだす。その左手を前に突き出すと、手の平から太い木の根が現れた。

 根は前へ伸びていき、あるところで先端が破裂した。

 その衝撃で透明だった結界が淡く紫色を帯びる。

 やがてその色は消えて元の透明色に戻った。


「この結界は来世の能力を持っている人だけでなく、その能力も突き通しません。この結界がある限り私達は中に入ることも中に居るアストレア派の集団に会うこともできません」

「じゃあ、どうやって先に進むんだよ?」


「だいたいこの手の結界は二つの役割を持っているものです。一つは勿論、守りの盾として範囲内のものを封じ込め、出入りを規制するため。もう一つは敵を感知するためのトラップとして。結界が破られれば仕掛けた本人にそれが伝わるようになっているんだ。だから、そのために結界用の陣を書いた紙は外側に設置されています。それを破れば結界は解かれませんが中に入ることが出来るはずです」


 コウスケが反論する。

「でもそれじゃあネクストに救出しに来たことが伝わるじゃんか?アマセの能力で内側と繋ぐのは出来ないのか?」


「結界は出入りを規制するため、と言いました。結界内の質量を一定に保つため、その結界が張られている以上入れません。破ることでネクストがこちらに来る危険は覚悟の上です」


 コウスケはまだ何か言いたげだったが、何も言わず押し黙った。


「マナハ、横の木を伝ってあの紙を破いてください。しめ縄の木には触れないように。結界を破った瞬間からは一刻を争います。山を駆け登れるように準備してください」

 登る準備、と言われても特にすることもないので一応靴紐を結び直しておいた。

 他の皆は何もせずに立っていた。


「行くよ、!」


 マナハは立ち並ぶ木々を蹴って上へ上っていった。

 とても軽い身のこなしで、着物を着ているからその姿が美しく見えた。

 マナハの合図で貼り付けられていた紙が破られる。

 すると、他の木に付いていた紙が赤い炎となって燃えだした。

 やがてその炎が消えると辺りは再び静かになった。


 ヨシナギが枝を伸ばす。

 枝は伸びて行き、結界の張られていた木の間を抜けて向こうの地面に刺さった。


「行けるっす!」


 マナハが上から飛び降りてくるのを確認すると、僕は声を上げた。


「行こう!」


 僕は走れる限りの速さで山を駆け登った。



──皆から遅れながら。







ー???ー


 暗い部屋の中。


 紙をめくる音。


 爪を噛む姿。



「なぁ、、」


「なんだクリス?」

「まだ来ないのか?」


「そんなに来て欲しいのかい?」


「そういう訳では無い、オノ。ただ待っているのがつまらないだけ」

「そう言うな。来るときにゃ来る」

 そう言った時、部屋の壁に付いていた紙が燃えだした。


「噂をすれば。かかったぜ、晴明」


 部屋の隅に座っていた男が立ち上がった。


「ん。じゃあ、行こうか。どうせオノがいるから負けないだろうけど。」

「ん?ここで叩くんじゃないのか?」


「アイツらの主力はここには来ないさ。あ、リディ、僕の式を潰さないでよ?」

「あ、あれは悪かったって。本当に!」


「まぁいいけど。じゃあ、行こうか」


 黒い4人は各々の方向へ散らばっていった。




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