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輪廻の扉  作者: ゑ兎
第1章
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第9話 導かれる力





『心を開け』



 目を開けると、真っ暗な空間だった。

目を閉じていたときと暗さは変わりない。

ただ、前方に一筋の光が地面を差しているだけのただの空間。



『希望の指す闇よ』



 僕は黒い布切れのマントから生える足を伸ばして光の元へと歩いていく。

 どこかからか漏れている光は1冊の古い本を照らしていた。僕はそれを手に取る。

 さっきまでその手に添えられていたスミハの姿はない。



『瞳はあるか』



 本は知らないどこかの言葉で書かれていた。

 初めて見るその記号の羅列を指でなぞっていく。



『万物を飲み込め』



 指でなぞったところから記号が浮き出す。空中を漂う文字列は身体の周りを取り巻く。

指で軽く触れる。



『覚悟を受け入れろ』



 文字列はその緩みを奪っていく。

身体中に巻き付いた文字の縄は僕を縛り付ける。苦痛に意識を失いかける。



『理を変える刃を持て


心の闇で染め上げろ


気配を欺け 』



 知らない記憶が入り込んでくる。

内側から痛みが皮膚を押し上げる。それを抑え込むかのように縛り付けていた文字が身体の中へと溶け込む。

 全ての文字が身体へと消えた時、胸の辺りに熱いものを感じた。

 全ての痛覚が静まった時、唯一の光源だった一筋の光が消えた。瞼に光の筋が焼き付く。



 足の感覚が無くなり膝をつく。足先から腰への筋肉が解れ、地面に座り込む。

 頭の中が無理にかき混ぜられて平衡感覚が機能しなくなる。

 自分がどのような体勢なのかもはや分からない。

 なす術も無く、体もろとも僕の意識は再び消し飛んだ。







 瞼が白い。瞳が灯を求めている。


 瞼を開くと、縦に伸びた白色蛍光灯が視界を占領する。

 許容を超えた眼は再び瞼で蓋をする。

 うすら薄目で外界を確認しながら寝かされていた床に手をつく。

 上体を起こすと、周囲の確認をした。僕の周りを数人の人影が取り囲んでいた。

 ソラ、スミハ、マナハ、そして隣で同じように床に座っている光祐。

 暗闇の空間から帰ってきたことに安堵する。

 口を開くが喉が干からびていて声が出なかった。

 スミハが「お疲れ様です」と水の入ったコップを渡してくれた。

 それを一気に飲み干す。



「それで、あの暗い空間は何なの?」


「そこは自分の心の中です。本に書かれた文字に縛られた時、暖かいものを感じましたか?」

「感じた。暖かいというより熱い、だった」

 光祐の言葉に僕も頷く。


「それなら大丈夫です。力を使えるようになっています」

「そうなんだ。でもまだ今すぐには使えないんだよね?」

「はい。今は来世の力と発動権利を授与されただけなので、使えるようになるにはまだ時間が掛かります」

「そうすると明日は特になにか出来ることはなさそうかな」

「そうだね、明日は様子見がてら後方支援をお願いねー」

「後方支援はマナハが一緒だからよろしくね」

 僕らの輪から1歩引いたところに立ってたマナハが前に出てきた。


「よろしくお願い、、します」

「うん、よろしく」

 僕は手を差し出してマナハと握手した。

 多少は打ち解けることが出来たのではないだろうか。

 相変わらず反対の手は着物の裾を握ったままではあるが、、、、


 そんなこんなで気が付くと時刻は7時30分を回っていた。

 いつまでもこの部屋に居てもすることもないので自宅に帰ることにした。


「あの、今日はこれで帰るんで。出口はどこから?」

「あーそうなの?もっとゆっくりして行けばいいのに」

 ソファに座って小説を読んでいたソラが顔を上げた。

 言動がまるで実家のおばあちゃんの様だ。


「出口は入ってきたときの障子扉のあった壁を左手で縦になぞればまた障子が現れるからそこから出て」

「分かった。それじゃあ、おやすみなさい」

「おやすみー」

 ソラは小説に目を落としながら、スミハはこちらを見て、マナハは手を小さく振ってそう言った。


 言われた通りに壁をなぞると果たして障子が現れたのでそこから部屋を出る。

 扉を閉めるともう何回目かの鈴の音が鳴り、蒸し暑い空気と雨の音が帰ってきたことを伝えた。

 神社を出ると駅へと歩き、少し空いた電車に体を収めて家へと帰った。

 スミハの作成した映像を思い出したせいで妹の作った夕飯はあまり喉を通らず陽菜乃を心配させた。

 風呂を浴びて早めに布団に入ったが、明日のネクストとの戦いのことを考えて興奮と不安感を覚えてしまい、なかなか寝付けなかったが、日付を越す頃には深い眠りに落ちることが出来ていた。








ー送電所ー



「アイツらは恐らく明日仕掛けてくる。お前たちは死ぬなよ。必ず生きて戻れ」


「分かってる。こんな所でくたばることは出来ない」


「「センセイのために」」





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