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輪廻の扉  作者: ゑ兎
第1章
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第7話 屋上にて




ー柳坂高等学校・校舎ー



 高校に着いて自分のクラスに向かうと、光祐が自分の席に座って突っ伏している姿が見えた。

 イヤホンをしているため僕が登校してきたことには気付いていない様子だ。

 僕は静かに光祐の席に近づく。


 光祐の背後に身を構えると、教科書の詰まった重いリュックと共に光祐の広い背中にのしかかった。


「光祐おはよー」

「ヴォウフッ?!」

 驚いた光祐はなんとも真似出来ないような声を発した。

 予想外の声は僕のツボに入り、しばらく笑っていた。

 教室には幸いというか誰もいなかったので、廊下を通る他クラスの生徒が訝しげにこちらを見るだけで済んだ。


「、、おはよう春輝」

 光祐は少しムスッとした表情を作りながら挨拶を返した。

「今日は少し遅かったな」

「水曜日は光祐は早く行くっていうのを忘れてた。最近物忘れが多くて」


 それを聞いた光祐は、そういえばと、顎に手をあてながら言葉を返した。


「物忘れというか、なんか昨日のことが思い出せなくて。バイトしたのは覚えてるんだけど、その後気がついたらベッドの上で朝になってたんだよな」

 それを聞いて僕は息を呑む。


 僕も全く同じだった。

 僕の記憶にもバイトの後のことは無かった。

 光祐なら何か覚えているかもしれないという淡い期待と共に登校してきたのだが、予想は当たらなかったようだ。

 しかし、光祐も僕と同じく昨日の同じ時間帯の記憶を無くしているということは、偶然ではなく何かがあったと考えるのが自然であろう。


 僕らが見つかりそうもない答えを求めてあれやこれやと意見を出していると、「あの、」という声が僕らの横から聞こえてきた。

 声のした方を向くと、今朝駅で光祐のことを教えてくれた少女だった。

 さっきは全く考えもしなかったが、よく考えてみると少女の来ているセーラー服は僕の学校の女子の制服だった。


 少女は僕らの方にツカツカと歩いてくると、「少し時間いいですか?」と僕らに向かって問いかけた。

 教室の前の壁に掛かっているアナログ式の時計を見ると、ホームルームまであと20分あることを確認する。


「いいよ」

 僕がそう言うと、少女は僕ら2人を連れて屋上に上がった。





 海からの南風が頬を撫でて僕らの前を通り過ぎていく。

 トビが上空を旋回して辺りを飛んでいる。

 彼らはどこから飛んできて、どこへ向かうのだろうか。

 用事だとか約束だとか、そんな面倒くさいものなどありはしないのだろう。

 その時その時を気ままに生きているのだろうと考えると、日々を社会の目に晒されてどうにもならずに生活している自分が惨めに感じる。


 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、僕らの目の前に立つセーラー服の少女はこちらにうっすらとした微笑を向けてくる。


「で、俺らに何か用?というか君は誰?」

 光祐がそう聞くと少女は一瞬間を開けて、予想外という表情を見せてから「はぁ」と息を漏らした。


「やっぱりあなた達も覚えていないんですね」


「悲しいです」と少女はこちらに近づいて言い放ったが、その顔は不敵な笑みのままで全く悲しそうには見えない。


「覚えてもなにも僕と君は初対面のはず、、だろ?」

 初対面と口に出したとき、妙に胸がざわついた。

 必ずしもこの少女と会ったのが初めてだということは証明できない。

 ずっと昔に出会っていて、僕は忘れてしまったのかもしれない。

 あるいは、


「昨日の放課後に出会った、、、のか?」


「理解が早くて嬉しいです」

 理解も何も、ずっと昔に会っていて久しぶりの再会、ならばこんな何も無い平日になんかにはならないだろう。

 新学期が始まったタイミングとか、何かの節目になる。

 それに、こちらに記憶が無くて相手しか知らないとなれば自然と昨日のことが浮かぶ。


「僕らの昨日の記憶が無くなっていることと何か関係があるのか、、、?」

 少女はその問いに即答した。


「あります」


 正直、この答えには驚いた。

 もし、彼女が昨日の"何か"に関係があったとしてもさっきからの少女の振る舞いから何か含んだ感じで言われると思っていたし、ここまであっさりと記憶が無くなった原因の手掛かりを掴むことが出来るとは思わなかった。


「昨日俺達に何が、、、、!?」

 問い詰めようとする光祐を少女は左手で制し、右手の人差し指を口に当てて静かにするように促した。


 光祐が言葉を切ると、屋上へと上る階段へと繋がる扉からうっすらと始業のチャイムが聞こえてきた。


「鐘も鳴りましたし、教室に戻りましょう」

 そう言って少女は階段へと向かって行く。


「あ、おい待てっ!質問に答えろよ!」

 光祐が走って、少女の方を掴んだ。

 少女は向き直ると、笑顔だった。


「遅刻はダメですよ、光祐先輩」


「それと私の名前は純葉です。"少女"はやめて下さい。」


 名前を言われたとき、頭の中を針でチクリと刺されたような気がした。

 しかしなぜ純葉は僕らが"少女"と呼称していることを知っていたのだろうか。

 僕は1度もその言葉を口に出していなかったし、光祐もそれは同じだった。


 純葉は階段へと振り返る際、ボソッと「次は忘れないでください」と呟いた。

 その声はとても悲しそうで、僕の心に直接響いた。


 階段を降りながら純葉は僕らに話しかけてきた。

「今日の放課後、教室で待っていてください。会わせたい人達がいます。と言っても1度既に会っているんですけどね」


 僕らの覚えていないところで昨日、様々なことが会ったのだろうか。

 それを知ることが出来るまでの今日1日をどう過ごすかを階段を下りながら考えた。





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