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第3話 固有属性

文字数は大幅に減少させました。

大体5000字ぐらいです。


2017/12/20 - 幾つかの誤字を修正しました。

 

 ────図書室にて。


「……では、無詠唱の勉強を始めます。」

「お願いします、師匠っ!」


 スザクは勢いよくお辞儀をした。そして、敬礼。ビシッという効果音が今にも聞こえてきそうである。


「うん……じゃあ、始める。」

「……それで、無詠唱とは?」

「……」

「……」

「……ハァ。」

「……ごめんなさい。」


 素直に謝るのが好印象を持たせるポイントだよっ!……キモいな、もう同じことは二度としないでおこう。


「……無詠唱は、魔法名を唱えずに魔法を発動させる技術。」

「あ、そのまんまなんだ。」

「そう。」


 何が難しそうなイメージがあった無詠唱が簡単そうに思えてきた。……で、でも無詠唱なんて難しいよね、うん。大変な方が努力しがいがあるよ!


「じゃあ、無詠唱を覚える?」

「お、おう。」

「無詠唱は……魔法の原理を理解すれば使える。」

「と、いうと?」

「魔法とはイメージ力。イメージしたものを実現する能力のこと。例えば火を放つ【火弾】でも原理を理解すれば、名前なんていう必要は無い。」

「……あれ?それだったら誰でも無詠唱って……。」

「この時代には科学の知識を持つのは私とスザクだけ。」


 あっ、そうか。忘れてた。だから無詠唱なんて出来る人がいない訳だ。まぁ、他の人が魔法使ってる姿を見たこと無いけど。


「じゃあこれで終わり。」

「…………は?」

「だから、これで終わり。」

「まさか……それだけとは。」

「何を言ってるの?」


 ユナは何を言ってるの?とでも言いたげな顔をした。いや、実際言った。


「じゃあ練習。」

「お、おう。」



────────────



 ────広場にて。


「ハァッ!」


 広場には二人の人影があった。勿論、スザクとユナである。

 スザクは無詠唱の練習を始めると、ユナの言った通り魔法の原理を理解するだけですぐに使えた。

 火がどうやって起こるか。それですらこの時代の人には理解できないことなのだが、それを考えるだけで【火よ】などと唱えずとも火が起こる。


「……なんて素晴らしい技術なんだ。」

「当然。」

「ありがとうございますっ!師匠!」


 スザクは感謝する事を忘れない。いつか英雄になってみせるっ!などという浅はかな夢を抱きつつ。


「それで無詠唱は完璧。」

「次は……?」

「一時間……学校の宿題もある。残り一時間。」

「OK。」

「それじゃあ、次は中級魔法を教える。」


 次の練習内容は中級魔法のようだ。

 ユナ師匠は中級魔法について教えて下さった。


 中級魔法とは。簡潔に言えば、基礎魔法の上位互換である。攻撃、防御、速度、正確さのどれにおいても基礎魔法の上をいく。

 唯一のデメリットがあるとすれば、一つの魔法に使用する魔力(チャーム)の量が基礎魔法よりも多くなる。しかし、それだけである。


 そして、もう一つ挙げるべき重要な点があるとすれば、属性であろう。

 基礎魔法においては、火属性、水属性、風属性、土属性、光属性、闇属性のみであったが、中級魔法においてはそれが派生する。


 火属性の場合は、熱属性、炎属性。

 水属性の場合は、氷属性、雪属性。

 風属性の場合は、嵐属性、飛属性。

 土属性の場合は、地属性、鋼属性。

 光属性の場合は、輝属性、星属性。

 闇属性の場合は、呪属性、腐属性。


 などが知名度の高い属性である。上級魔法になれば、さらに属性は派生する。また、中級魔法からは『派生属性』の他にも『合成属性』がある。合成魔法は名の通り、複数の属性を合成する魔法である。


 なんか……てんこ盛りだな。


「スザクはどの属性にも適性を持っている。だから全部覚えた方がいい。覚えれば覚えるほど、汎用性も高まる。」

「おおっ、これぞ主人公補正っ!」

「?」


 スザクの残念な発言に首を捻るユナ師匠。どうやらライトノベルなんて読まない人だったのでしょう。


「攻撃に関しては基礎魔法でも魔力(チャーム)を込めれば、強くなる。それよりもまず飛属性を鍛えた方がいい。」

「飛属性って……?」


 ユナ師匠曰く、飛属性とは飛行系の魔法を使える属性だそうです。なんと分かりやすい。タケ〇プター無しでも飛べるなんて……!!ドラ〇もん顔負けだよっ!


「その中でもやっぱり飛行魔法は覚えるべき。」

「人類の夢っ!」

「はいはい。」


 はっ!……遂に愛想を尽かされたのか……。ごめんなさい。最近、謝ってばかりですね。


「飛行する魔法の中で基本はこれ。【空歩】。」


 魔法詠唱とともにユナ師匠は、大きくジャンプした。

 何がしたいかわからない行動に首を捻るスザク。しかし、ユナの行動の真相はすぐに判明するのだった。

 ユナは大きくジャンプした後、『空を蹴った』。

 これを繰り返す事で空に留まることを可能とする。


「じゃあ、練習。」

「了解。【空歩】。」


 ユナ師匠がしたのと同じように大きくジャンプ。その後、運動神経が鈍いスザクは悪戦苦闘しつつも、どうにか利用できるまで慣れることが出来た。


「おおっ!慣れれば楽しいな、これ!」

「うむ。でもまだまだ基本中の基本。驚くのはまだ早い。」

「な、なんだと……!!」


 最近、ユナとスザクの間でショートコントが流行りつつあるようです。温かい目で見守ってくださいな。


「……でもまずはそれを無詠唱にする。」

「原理を教えて下さい。」


 ユナ師匠直伝魔法講座!

【空歩】の原理はこうだ!まずジャンプ!そして風を発生させる。足裏に魔力を込めて、それを土台として蹴り、再び跳び上がる。これの繰り返しなのである。

【空歩】の詠唱を唱えることによって、このステップは自動で発動するようになっている。要は術者は、ただ何処かを蹴り、跳び上がれば良いだけだ。魔法自体が自動で風を発生、足裏に魔力を込めるプロセスを進めてくれる。

 魔術研究家が使う上級魔法で『特定の言葉を言えば、特定の動作をする』という魔法があるようだ。因みに呪属性だったりする。


「なんか……すげぇ。」

「エッヘン。」

「いや、声に出さなくていいから。師匠が作った訳じゃないでしょ?」

「勿論、作った。」

「……!?」


 驚き、桃の木、山椒の木!久しぶりに発動したようだ!まさか……ユナ師匠……魔法研究家だったとは……。


「あ、でも偽名だから、正確には私じゃない。」

「いや、正確には師匠でしょ。名前が違うだけじゃん。」

「その通り。」


 あれ?言い返したはず……なのに負けた気がする。


「ま、それは置いておこう。」

「むぅ……しょうがない。それじゃあ無詠唱でやってみて。千本ノックならぬ千本無詠唱。」

「あっ……納得してないんだね。」


 一瞬、むぅとした師匠の顔に惚れてしまったのだが、やはり怒った顔も可愛いな。脳内カメラに保存しておく……しっかりと。


「それじゃあ、頑張ります、っと。」


 早速、スザクは無詠唱の練習を始めるのであった。



────────────



「ハァハァハァハァ……。こ、これで千回!」

「お疲れ様。」


 師匠はどうやらいたわってくれるらしい。有難い事だ。ついでに鋼属性でコップを精製、水属性で冷たい水をコップに注いでくれた。お、美味しい……。


「ありがとうございます……。」

「今日はこれで終了。【空歩】の原理はしっかりと掴めたはず。復習は怠らないように。明日もこの時間、ここで。」


 その日の勉強はここで終了なようだ。意外と師匠も優しい所があるものだ。


 最近は本ばかり読んでいて鈍っていた体を急に動かしたから疲れたようだ。早く部屋に戻るとしよう。



────────────



 部屋に戻ったスザクは、部屋の広さも活かして、今日の勉強の復習をした。師匠の教え方によるものもあり、9割9分9厘の確率で成功した。師匠……マジ神っす。


「そう言えば、【空歩】は師匠が作ったとか言ってたな。」


 スザクは、どうして【空歩】にはダサい英称が付いていないのか不思議に思っていたが、ユナだって日本人だ。そんなダサい英称は付けたくなかったのだろう。

 それにしても新しい魔法を開発するのは大変なんだな。

 スザク自身も今日のユナとの模擬試合で自己開発魔法(オリジナル)である【火世界(ファイアーワールド)】を使用したが、汎用性魔法と自己制作魔法(オリジナル)では、性質が異なる。

 使い道が限られる代わりに消費魔力を最小限まで減らした汎用性魔法と使い道が広い代わりに膨大な消費魔力を消費する自己制作魔法(オリジナル)。どちらが好まれるかは明らかだ。

 しかし、科学を知らないこの時代の人々は自己制作魔法(オリジナル)を作り出す事自体が至難の業だ。何十年、何百年という月日を掛けて、新しい魔法を生み出す。

 一つの魔法に生涯を費やす魔法研究家もいるのだ。

 それだけ汎用性魔法の価値は高いのである。


 やっぱりユナは凄いな。



────────────



「……ん?あ、もう朝か。」


 あれやこれやと考える内に寝てしまっていたようだ。

 取り敢えず起きよう。


 スザクは朝練習の為に広場へ向かった。

 しかし既に先客がいたようだ。


「あれは……ユナ?」


 おっと思わず名前を呼んでしまった。師匠と呼ばなくては……!!師匠。ししょう。ししょー。こしょー……。


「ハァッッッッ!」


 静かな広場にユナのハリのある声が響き渡る。

 昨日までの口数が少なめな女の子。そんなイメージはどこへ消えたのか、魔道人形(ゴーレム)に向かって魔法を発動させている。

 あの魔法は上級魔法か自己制作魔法(オリジナル)だろう。昨日の練習後に師匠から貰った『中級魔法の魔導書(グリモア)』にも載っていなかった。


「……綺麗だ。」


 スザクが発したこの言葉は果たしてユナを指したのかユナの発動させる魔法を指したのかは分からない。しかし、どちらとも綺麗である。この光景を見た者は誰もがそう言うだろう。


 スザクは自分も広場で練習をしようかと思ったが、ユナの邪魔をするのも悪いと思い、終わるまで見学させてもらうことにした。勿論無断で。


 ユナの魔道人形(ゴーレム)との魔法練習はどちらにも隙が存在しない。どちらかでも魔法を発動しなかった一瞬で決着が着いてしまうだろう。そんなハードな練習が続いて、はや1時間。ユナの体力が減っているようには見えない。ポーカーフェイスの可能性はあるが、少なくとも体力は殆ど消費していないのだろう。理由は明白だ。ユナは初期位置から()()()()()()()()。動いていないから体力は消費しない。減るのは体内の魔力のみである。


 スザクがそろそろ部屋に戻ろうかと思い始めた頃、ユナの勝利で練習は終了した。結局、ユナの体内の魔力が底をつくことは無かった。


「おはよう、スザク。」

「あ……うん、おはよう師匠。」


 どうやら師匠には気付かれていたようだ。流石師匠。


「今さっきの魔法って何だったの?」


 スザクはユナの練習中ずっと考えていた疑問を本人にぶつけてみた。ユナは同じく魔法しか使っていなかったのだ。


「あれは『複合属性』の『個人魔法(シークレット)』。雪属性と希少属性の『精霊属性』を複合した魔法。名は【風花の妖精(スノーフェアリー)】。妖精を使役した。」


 自己制作魔法(オリジナル)を汎用化させたが、公開していない個人の魔法を『個人魔法(シークレット)』と呼ぶ。また、『精霊属性』は使い手がとても少ない事で有名である。希少である属性が集まった『希少属性』の中でも特に使い手が少ない属性である。

 因みにユナの『個人魔法(シークレット)』は【風花の妖精(スノーフェアリー)】というが、『風花』は『かざばな』であり、『ふうか』ではない。ここ重要!試験に出ますよ。


 この時代には魔術師が存在しているが、希少属性を持った魔術師や難易度の高い魔法を使える魔術師、体内の魔力が膨大な魔術師などは数が少ない。だからこそ、それぞれの国ではそのような人材を把握する為に一定の条件を満たした者は、『魔術師大全』という冊子に名前が掲載される。ユナもその一員なのである。


==========================


赤宮(あかみや)悠奈(ゆな)


 女。魔法暦以前より生存し、年齢は不詳。現在はリースリズ孤児院にて魔法特別講師の職に付いている。得意とする属性は、雪属性、妖精属性。希少な精霊属性を持つ魔術師である。様々な魔法を開発し、数々の賞を授賞している。トリセルト魔術国の国家認定魔術師である。膨大な魔力を使用した自己制作魔法(オリジナル)の使用や妖精の使役による戦闘スタイルが特徴的。世間一般の二つ名は『雪姫』。


==========================


 魔術師であれば誰でも『魔術師大全』の名前入りは夢である。勿論、スザクもだ。


「俺にも希少属性の適正あるのかな……。」

「調べてみる?」

「調べれるの?」

「うん。」

「じゃあ、お願いします。」

「分かった。……魔法陣を描くからちょっと待ってて。」


 そう言うとユナは広場に土魔法で魔法陣を描き始めた。

 暫く経つと、ユナは魔法陣を描き終えた。


「終わった。」

「どうすればいいの?」

「上に乗って。」

「OK。」


 スザクは魔法陣の中央に立った。


「こんな感じ?」

「うん、そしてこう唱えて。【魔法王よ、我に適する属性を教えよ】。」

「了解。【魔法王よ、我に適する属性を教えよ】。……うわぁ!」


 詠唱が終わると同時に、スザクの体から膨大な魔力が魔法陣へと吸い込まれ始めた。スザクは、膨大な魔力を有しているが、体に気だるさを感じる程には魔力を吸収される。

 魔力の吸収が終わったとスザクが感じた時、魔法陣が光出した。


「なんだ?」

「静かにして。」

「……分かった。」


 突然だった。空から声が聞こえた────いや、スザクの脳に直接声が届いた。


『貴様の魔力、確かに感じ取った。魔法王の名において、貴様に適する属性を教えよう。貴様の適性属性は一つだ。『無限属性(インフィニティ)』。』

「ま、待て!それはどういう属性なんだ!」

『貴様からの願いは適する属性を教えろという事のみだ。それ以外の願いは聞き入れん。それでは、さらばだ。』


 以降、魔法王と名乗る声は聞こえなくなった。同時に魔法陣は消失した。


「どうだった?」

「俺の適性属性は一つだってさ。」

「……?基礎魔法は全属性使えてる。」

「俺の適性属性は『無限属性(インフィニティ)』だって。」

「インフィニティ……?」

「属性能力までは教えてくれなかった。」


 広場はその一言を区切りにして、静かになった。

 今は午前6時丁度。朝の練習を始めてから約1時間30分。

 まだ孤児院では、子供らは起きていない。大人は起きているだろうが、こんな外を歩いているはずはない。よってこの静寂を破るのは、ユナかスザクだった。


「『無限属性(インフィニティ)』。全ての属性を使える希少属性……いや、『固有属性(ユニーク)』?」


 固有属性(ユニーク)。希少属性よりも希少である、属性保有者が世界でも3人未満である属性の事。魔法暦以前より生きるユナが知らないという事は、新たな属性であろう。


「まさか新属性を出すとは思わなかった。」

「俺も驚きだよ。」


 また広場は静寂に包まれた。

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