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第2話 基礎魔法

  孤児院生活は意外と快適なものだった。

  と言っても入って間もない俺が重労働をさせられたとしても、出来るはずがないからね。

 

  俺は孤児院探検を決行することにした。

 

 ────────────


  孤児院は3階建てである。孤児院の隣には学校、寮も隣接していた。

  どうやらこの世界は教育をするみたいだ。

 

  俺はこの世界は今までの世界と別と考えている。

  所謂、異世界転生である。主人公補正に期待している。

 

  食堂は広かった。メニューは豊富みたいだ。

  孤児院の子供達は、ここで3食を摂る。

 

  自分の割り当てられた部屋は1人部屋だった。都合が良い。相部屋だと言葉が話せないと、空気が重くなるからね。

  他の部屋は全て2人部屋である。

 

  学校も覗いた。俺はまだ学校には通っていない。まぁ来月ぐらいから通うのだろう。早くここの言葉を覚えなくては。

 

  その他にも色んな部屋があった。幼児が遊ぶ用のキッズルームやプール、グラウンドもあった。何やら道場のようなものもあった。

 

  つまりこの孤児院は勉強と何かしらの技術を得ると……。出来るかなー。出来る自信ないなー。ま、いいや。主人公補正に期待。

 

 ────────────


  孤児院に入ってから2週間。ようやく図書館らしき場所を見つけた少年は、ここの言語を習得することにした。

 

  しかし、日本語の本が無いため全く意味が分からなかった。

  そこで絵本から読み解くことにした。

  絵と文字を照らし合わせ、意味を覚える。途中、司書らしき人に絵を指さしながら名前を確認する。頷けば正解ということだ。


  どうにかこうにか10冊程度絵本が読めるようになったので、次は基礎的な文字、日本で言うところの平仮名を覚えることにした。

 

  そんな教材は無いよな……と思いつつ、図書館を探してみると意外とあった。驚き、桃の木、山椒の木!勉強することにした。

  独学で気付いたことだが、日本語に似ているところがある。文字も日本語に似ている。

 

  1ヶ月後、完全に基礎的な文字は覚えた。会話もできる……だけど、俺はまだまだ使いこなせていない。俺の主人公補正はこんなものじゃない。出来るだけ時間が欲しい所だが、あまり時間をかけすぎることも出来ないみたいだ。

  簡単な会話が出来ると孤児院の大人達は知り、俺を学校に行かせようとする。しかし、このままでは言語が使いこなせず、いじめられる可能性が高い。せめて人並みに話せなくては……。

 

  試行錯誤しつつ、毎日13時間ほど言語学習をした。今に思えば、とてつもない勉強量だがこれのおかげでどうにか言語は使えるようになった。

 

  人によるとこの言語は『人類語』というみたいだ。人類以外もいそうな言い回しだな。

 

  言語も覚えたし、図書館の本を読破することにした。

 

  言語を覚えてから2ヶ月後、孤児院に入ってから3ヶ月後。

  図書館の本は多かったが読破完了。ラノベばっかり読んでたのが幸いだった。

  図書館の本を読んで知ったことが多くある。まとめてみることにした。

 

 1,この世界は『未来の世界』である。


 ・記憶にある最後の日がそれまでの時代とその後の時代との境界線となった。

 ・今は魔法暦5000年である。

 ・西暦に直すと、7035年。

 ・5000年もの未来にタイムスリップした。


 2,どうして『タイムスリップ』したのか。


 ・書物によると、神の気まぐれによって世界が崩壊したから。

 ・西暦2035年の最後の日は『平和への呆れ』と呼ばれ、天変地異が起こった。

 ・その衝撃か、もしくはその神というのがタイムスリップを起こしたか。

 ・他にもタイムスリップをした人々がいる可能性がある。


 3,『平和への呆れ』以降、世界はどうなったのか。


【西暦が終わる】

 その時代の人々からは記憶が失われていない。

 よって、この出来事が受け継がれてきた。


【魔法が誕生】

 5000年の間に魔法研究は進んだ。

 現在は魔法の停滞期となっている。


【大陸が変化】

 元の五大陸、三大洋が天変地異により、形が変わる。

『平和への呆れ』の後、三大陸、四大洋となった。

 因みに陸と海の割合は、3:7より4:6となった。


【人口が減少】

『平和への呆れ』によって死亡者多数。

 また、気候の急激な変化に対応できず死亡者多数。

 現在も死亡者は少なくない。


【戦いが再び始まる】

 西暦2035年時点では全ての戦争、紛争が終わっていたが、『平和への呆れ』によって、人々が様々な事で争い始めた。


【国が変化】

 国が変化した。約190ヶ国あった国々が天変地異により、消えた国、領土が減った国、逆に増えた国が出た。

 争いがあり、現在も領土は変化しているが、大国、小国合わせて20ヶ国まで減っている。

 また、国のない自治区や集落の集まりなどもある。


  今、まとめた内容は『魔法』と『神』と『天変地異』というワードを除けば、ありえる話だった。しかし、民族の変化についてが衝撃だった。

 

【民族の変化】

 ・人類と動植物だけではなくなった。


  図書館にあった『世界の民族』という本によると、魔法暦以前は当然、人類と動植物だった。

  しかし、その神様とやらがどうやら民族を増やしたらしい。

  記憶を当たってみると、この孤児院でちょくちょく人間の動きとは思えない子供や何故か動物の耳とか尻尾があったりする子供がいた。

  そりゃそうだ。好きで猫耳カチューシャなんて付けるやついないだろう。いや、いるかもな。

 

  結論。『天変地異→タイムスリップ→魔法が使える時代』という事だ。

 

  ────よし、魔法を覚えよう。

 

 ────────────


  一人の少女が歩いていた。その少女の名前は赤宮(あかみや)悠奈(ゆな)。"自称"15歳である。実際は魔法暦以前より生きていたりする……。

 

  最近、不思議な少年がここ(孤児院)に来た、という話を孤児院の大人に聞いていたユナは、その真相を探りに少年が毎日入り浸っている図書館へと足を運んでいた。

 

  ……どうして図書館に?

 

  などと思いつつも授業の合間の休み時間も残りが少ないため、急ぐことにした。


 ────────────


  ……さっきから見られているな。誰だ……?あの女の子。

 

  見ているのを気付かれた事を察したのか、少女は歩いてきた。

 

「……何をしているの?」

「……本を読んでる。」

「……見ればわかる。」

「…………そうだな。」

 

  ………………気まずい。この少女は何がしたい?分からない。まあ、適当に返事して追い出すとしよう。

 

「君の名前は?」

「……私はユナ。」

「………………日本人!?」

「!?」

 

  ユナという名前を聞いた少年はまさかの少女が日本人という事に驚いた。

  今の時代に日本人は既に生きていない、という記述が読んだ本の中にあった。

 

「……あなたの名前は?」

「俺の名前は成河(なりかわ)朱咲(すざく)。朱咲って名前から女に間違えられるけど正真正銘男だ。」

「……見れば分かる。」

「そりゃそうだ。男だし。」

「あなたも日本人……だよね?」

「ああ、どうやら俺はタイムスリップしたらしい。君は?」

「……タイムスリップ?私はずっと生きてる。」

「……魔法暦って今、何年か知ってるよね。」

「……今は魔法暦5000年。」

「そうだ。年齢は?」

「15歳。」

「……年齢は?」

「15歳。」

「……ねん『15歳』……はぁ。」

 

  どうみたって辻褄が合わないが、まぁ15歳ということにしておこう。

 

「……それで何をしているの?」

「……本を読んでる。」

「……何をしているの?」

「……本を読んでる。」

「……何を『本を読んでる』……」

 

  ユナはムッとした。……そ、そんな顔したって仕返しだからしょうがないじゃないか!……あれ?なんで俺怒ってるの?

 

「分かった。降参だ。」

「……それでいい。その本は基礎魔法の『魔導書(グリモア)』?」

「そう、みたいだな。ここに来てまだ数ヶ月だから魔法を覚えようとしているんだ。」

「……」

「な、なんだ?」

「……あ!」

 

  な、何を閃いたのかなー。

 

  スザクは顔を背けた。しかしユナの前にその手は通用しなかった。スザクが背けた顔をユナがとても可愛らしい笑顔で(無理矢理)戻した。

  スザクは急いで顔を再び背けようとしたが、ユナの力が強く、顔をが動かせなかった。

 

「……あ、終わった。」

「ナーニーガーカーナー?」

 

  お巡りさーん、ここに怖い人がいますよー!……あっ、この時代に警察いないわ。

 

「……私が魔法を教えてあげる。」

「!?……本当に?」

「……うん。」

「……是非ともお願いしますっ!師匠っ!」

 

  スザクはユナの弟子となったのだった。

 

  キーンコーンカーンコーン……。


  どこかでチャイムが鳴った。恐らく学校だろう。

  話を続けようとスザクがユナを見ると、ユナは青ざめた顔をしている。

 

「……ど、どうしたの?」

「……授業が。」

「……あっ。」

 

  ユナはおそらく学校の授業の合間に来たのだろう。終わったな。

 

「……急がないと。」

「ハハッ、またね。」

「……放課後にここにいて。魔法を教えるから。」

「お願いします。」

 

  ユナはタタタタッと急いで学校へと戻った。苦笑いしていたスザクも引き続き『魔導書(グリモア)』を読むことにした。

 

  スザクが読んでいた『基礎魔法の魔導書(グリモア)』には、『基礎魔法』とは何かについて書かれていた。

  その本によると『基礎魔法』とは、体内にある『魔力(チャーム)』を最小限に抑えるために研究され大成した基本魔術、だそうだ。研究者すごいね。

 

  魔法には属性があり、基礎魔法は最も属性数が少ない。魔法の難易度が上がるにつれて、属性数も増えていくようだ。

  基礎魔法の属性は『火属性』、『水属性』、『風属性』、『土属性』、『光属性』、『闇属性』である。

  光属性は回復の魔法をメインとしている属性である。

  闇属性は逆に呪術や召喚術などをメインとしている。

 

  『基礎魔法の魔導書(グリモア)』の後半には基礎魔法の魔法が書かれていた。明日、ユナが教えてくれる前に予習しておくとしよう。どれから覚えるか迷うから、取り敢えず火属性にしておいた。

 

  火属性の魔法の欄を見た。まず超基本の火を発生させる魔法を試してみた。

 

「【火よ】。」

 

  詠唱の直後。前に掲げていた右手に火が現れた。成功だ。まあ、これぐらいはできて当然だろう。次の魔法は少し難易度が高いものにしてみた。

 

「【火……あ。」

 

  スザクは本が沢山置いてある図書館で火属性の魔法を試していれば、どうなるかに気付いた。もう少しで放火魔になるところだった。

 

「あ、危ない……。」

 

  図書館の司書に頼んで本を貸してもらった。意外と優しかった。というより司書は俺が人類語を話せるようになっていたことに驚いていた。そりゃあ1,2ヶ月前まで全く話せなかったからね。

 

  練習場所を探していると孤児院探検中には見なかった広場があった。草は生えてるが、大丈夫だろう。

  次に的を探していたが、それもすぐに見つかった。レンガ造りの壁があったのだ。それを的にした。

 

「早速、続きを始めるか。……【火弾(ファイアーバレット)】。」

 

  この魔法は名の通り、火の弾丸を生成し任意の方向へ飛ばすというものだ。使い勝手が良さそうだ、攻撃手段として。

 

「よーし、次は。【火剣(ファイアーソード)】。」

 

  やはり名の通りだ。火の剣を出現させる。流石に手で持っても自らは燃えないようだ。この剣に触れたものは燃えるようだ。使い勝手がこちらも良い。

 

  こんな感じでひたすら火属性の基礎魔法を練習していた。

  練習している途中で気付いたことだが、魔法は魔力を込めれば込めるほど強くなる。【火弾(ファイアーバレッド)】でも魔力を込めれば、隕石ぐらいまで大きくなるようだ。まだまだ研究の余地はある……うん。

 

  火属性ばかり練習していても偏りが出ると思ったスザクは、水属性の練習もしてみた。

 

「やっぱりこれは変わらないんだ。【水よ】。」

 

  火を出現させる魔法と殆ど詠唱の変わらない水を出現させるこの魔法。スザクの掌には小さな水塊が出現した。

 

  そして、これも変わらないらしい。

 

「【水弾(ウォーターバレット)】、【水剣(ウォーターソード)】」

 

  やはり水の弾丸と水の剣が出現した。

 

  あんまりバリエーションが無いな。まあ、バリエーションが多すぎれば、それほど記憶するのも大変にはなるけどね。

 

  この後試してみて分かった事だが、風属性と土属性においても、風と土を出現する魔法や弾丸を飛ばす魔法、剣を出現させる魔法は、属性名が変わっただけだった。

 

  ……面白くなさすぎるだろ。

 

  取り敢えず今、覚えた魔法をひたすら練習することにした。

  やっぱり俺のオススメはこれだ。

 

  「【火弾(ファイアーバレット)】!【火弾(ファイアーバレット)】!【火弾(ファイアーバレット)】!ファイアーヴェッ!!……。」

 

  もちろん、噛んだ。

 

  スザクが【火弾(ファイアーバレット)】を放ちまくったせいで辺り一面の草が全て焼けてなくなっていた。ドンマイ!

 

  しかし、スザクは止まることを知らない!【火弾(ファイアーバレット)】を噛みつつも放ち続けた結果。

 

  バタッ。

 

  ……倒れた。

 

「あ…………『魔力限界(チャームオーバー)』か……。」

 

  流石に魔力を殆ど使わない基礎魔法であっても幾度も使えば、魔力は減っていく。結果、体内にある魔力(チャーム)が限界を迎えた『魔力限界(チャームオーバー)』となってしまったのだ。

 

  キーンコーンカーンコーン。

 

  あっ、やべっ……。

 

  魔力限界(チャームオーバー)となったスザクが気絶する前に学校のチャイムを聞いた。放課後になったのだ。図書館に戻らなければっ!しかし、体は言うことを聞かない。

 

  そのままスザクの意識は薄れていった…………

 

  ────────────

 

「おーい……スザクー?」

 

  あれ?いない。放課後になって魔法を教える為に図書館にまた来たのは良いが、スザクがいなくなっている。

 

「すみません、司書さん。」

「どうしましたか?」

「いつも図書館にいるスザ……男の子がどこに行ったか知りませんか?」

「あ~……あの子ね。『基礎魔法の魔導書(グリモア)』を借りていいか聞かれたから許可したわね。」

「ということは……魔法の練習。……あっ!魔力限界(チャームオーバー)の事言ってない……。まさか……。」

 

  そのまさかです。

 

  ユナは孤児院を走り回った。

 

  タタタタタッ。学校、な訳ないか。

  タタタタタッ。部屋、じゃないか。

  タタタタタッ。食堂、でもないか。

  タタタタタッ。トイレ…いやないね。

  タタタタタッ。広場、ここも違うか。

  タタタッ…………。あれ?

 

  ユナは広場に誰かがいることに気付いた。

  あれは……あっ。

 

「……おーい……おーい。」

 

  おーい……〇茶。美味しいよね。

  しかしただいま気絶中。反応してくれるはずがない。

 

「……魔力限界(チャームオーバー)。……しょうがない。」

 

  だらしない第一弟子に説教しようと決めたユナは、魔力(チャーム)を分け与えることにした。

 

「…………【魔力回復(チャームリカバリー)】」

 

  光属性の【魔力回復(チャームリカバリー)】は、自らの魔力を消費して、対象の魔力を消費した分だけ回復する。基礎魔法。

 

「……うっ。………………ユナ?」

「……起きた?」

「いや、どう見たって起きてるだろう。」

「……目を瞑ってるから見えない。」

「瞑るなよ。」

 

  ユナは目をぐーっと瞑った。

 

「……どうして寝てたの?」

「気づいて言ってるよね。そうだよね。…………はい、すみません。」

 

  ニッコリと怖い顔を向けるユナに危機を覚えたスザクは、すぐさま謝った。

 

「……正解。師匠を怒らせない方がいいよ。」

「はい……すみません。」

「……許す。」

 

  ユナが可愛らしい笑顔でサムズアップをした。思わずスザクもサムズアップッ!

 

「……丁度いいし魔法練習……始める『勿論。』……。」

 

  拝啓 お母さん。上目遣いで聞いてくるユナに俺は気絶しそうです。瞬間的に返事を返してしまいました。敬具。

 

「……その本(基礎魔法の魔導書)はどこまで読んだ?」

「火属性、水属性、風属性、土属性だけ、です。」

「……その4つの属性の所は全て読んだ?」

「一応、そこの内容は覚えました。」

「……結構。」

 

  おっと、またもや師匠のサムズアップッ!返しておくぜ!

 

「……じゃあ基礎魔法はそれで終わり。最後にテストしようか。」

「へっ?」

 

  クスッとユナはスザクの顔を見て笑った。

 

  スザクが行うテストの合格条件は以下の通りだ。

 

①ユナに攻撃を当てる。

②20分間耐え切る。

③20分間魔力限界(チャームオーバー)を起こさない。

 

  上のどれかでも出来れば合格だ。また、特別ルールとして、ユナが認めれば合格とする。

 

  両者は10メートルほど離れて立った。スザクは気を引き締める。そして、ユナの合図を待つ。

 

「……いい?」

「ああ。」

「……じゃあ、いくよ。用意、スタート。」

「まずは【火弾(ファイアーバレット)】!!」

 

  スザクは距離を取りつつ、【火弾】を放った。

  しかし、スザクの【火弾】はユナが高速詠唱して放った【水弾】に相殺された。

 

「……こんなもの?」

「まだまだ!!【火弾(ファイアーバレット)】!【水弾(ウォーターバレット)】!【風弾(ゲイルバレット)】!【土弾(アースバレット)】!」

「……それは覚えた事を自慢したいの?」

 

  ユナの見事な高速詠唱は瞬く間にスザクが放った攻撃を全て無効化した。さらにユナの続けざまに放った攻撃はスザクに容易くダメージを与えた。

 

「グハッ!」

 

  スザクは地に転がりつつ、ひたすら覚えている基礎魔法を放ち続けた。

  しかしどの魔法もユナの2メートル圏内には1ミリたりとも入れなかった。

 

  スザクは一旦、ユナとの距離をさらに離すことにした。

  ……ヤバい、どうする?万策が尽きた訳では無い……。あれはユナに通用するか……?仕方ない、一か八かだ!

 

「……【火世界ファイアーワールド】。」

 

  この魔法は『基礎魔法の魔導書』には載っていない魔法だった。スザクの『自己制作魔法(オリジナル)』である。魔法は原理を理解すれば、誰でも新しい魔法を作り出せる。安全性は保証できないが。

  スザクの『自己制作魔法(オリジナル)』【火世界】は、ある一点の空間座標を指定することでその一点を取り囲むように火を出現させる魔法である。

 

「……『自己制作魔法(オリジナル)』?」

「そうだ。まだ試してないから成功する保証もなかったが、出来たようだ。」

「……それで?」

「基礎魔法でこれから逃げ切れるか?【火弾(ファイアーバレット)】。」

 

  スザクはユナを取り囲んでいた火を【火弾】として放った。

  スザクの言う通り、通常の基礎魔法では防ぐ術はない。

  防げるとすれば、それは『自己制作魔法(オリジナル)』だ。

 

  ────ユナに向かって放たれた【火弾】は、ユナには当たらなかった。

 

「……こんなの余裕で防げる。」

「『自己制作魔法(オリジナル)』では無いな。」

「……ただ【水弾】を複数一斉に放っただけ。」

「高速詠唱でもそれは不可能だ。」

「……」

「……」

 

  多分、ユナは何かを隠している。それに薄々気付いていたスザクは黙秘権など使わせる気は少しもなかった。

 

「……しょうがない。教えてあげる。……私は無詠唱で魔法を発動できる。」

「そうだったのか。……因みに無詠唱は練習すれば誰でも出来るのか?」

「……少なくとも今の時代でこの技術を持つのは私だけ。魔法の原理を理解すれば、無詠唱も可能。」

「じゃあ何故、他の人は無詠唱で魔法を使えない。」

「……この時代には科学が無いから。」

「!?」

「……恐らく『平和への呆れ』の時点で私以外すべての人類は、科学という存在を忘れている。」

「どうしてそれに気付いたんだ?」

「……学校で習う授業で科学に関するものが一つもないから。」

「それは深刻だ。」

「嘘でしょ?」

「…………即答かよ。」

「……顔に書いてある。」

 

  俺ってそんなに顔に出るか?と、顔をペタペタ触っているスザクにユナは言った。

 

「……まあ、合格にする。『自己制作魔法(オリジナル)』が合格理由。」

「そんな事だろうとは思ったよ。」

「……でも、凄い。」

「お、おう。」

 

  まさかユナ師匠より褒められるとは……。自称愛弟子の成河朱咲感動でありますっ!

  心の中で感動していると、何故か涙が出そうになった。

  おっと危ない。愛すべき師匠に心配させては申し訳ない。愛弟子は師匠に心配かけないものなんだぜ!

 

  ユナは目元を擦ったり、頷いたりするスザクに冷たい視線を送っていた。

 

「……はっ!師匠、すみません!」

「……どうしたの?大丈夫?」

「心配して頂けるとは……感無量でありますっ!」

「……うざっ。」

 

  何故だろう……ウザそうにこちらを見る師匠も可愛い。

  ……ダメだ、これ以上師匠に呆れられれば練習がっ……。

 

「ごめんなさい。」

「……よりょしい『プッ。』うっ。」

「よりょしいだって……よりょしい……よりょしい。プッ。」

「キ、イ、タ、ナ……。」

 

  まるで地獄の底から聞こえてくるような恐ろしい声。

  スザクはあの秘技を使うことを決心した。

 

「成河流最終奥義!!【全力謝罪(土下座)】!!!」

 

  スザクは秘技により、綺麗なフォームでオリンピック級の土下座を披露した。

 

  ……なんとも締まらない光景である。

 

「……スザクはどんな訓練をお好みかな~~?地獄移住ツアー?四肢裂きツアー?」

「三つ目の選択肢で。」

「……じゃあ食堂に行こうか。毒薬を盛ってあげるよ?」

「あー!食べたい!(性的な意味で)ユナ(を食べたい)!」

「……今、最後何をボソッと呟いた?」

「性的な意味でユナを食べたい、って言った。」

 

  途端にユナの顔がカァァと赤くなった。恥ずかしがる様子が何故か艶やかだ。15歳じゃないね。そりゃ少なくとも5000歳以上でしょ。経験済みかと思ったわ。

 

「あれ?まだ未経験?魔法暦5000年の間ずっと?」

「……だって15歳。」

「いや、その言い訳使えないでしょ。というよりこの時代の成人は15歳以上じゃないか。成人してるじゃん。大人という分類は18歳以上だけど。」

 

  斯く言うスザクも17歳と随分な年齢なのだが。

  あれ?ここ孤児院じゃない?いや、大人じゃないから子供なのか……?

 

「経験……ない。」

 

  ユナがボソッと呟いた。俺はキュンと来ました、はい。決して未経験だからとかじゃないです。俺、平等主義者なので。

 

「……ま、まぁそれは置いといて。明日からどうする?師匠。」

「……う、うん。明日は中級魔法に進むか、無詠唱を会得するかどっちにする?」

「勿論、ユナで。」

「……さっき私が言った2つの中で。」

「無詠唱を会得したい。」

「……分かった。」

 

  ユナを選択した!ユナの好感度が2アップした!

  しかし、スザクはジェッントゥェルメェーンッ!そんなの気にしないもん!

 

  ユナの好感度の上昇を実感しながら、徐々にユナを惚れさせようとか何とか、と考え始めたスザクに気付いているのか気付いていないのか、ユナはチラチラとスザクを見ている。

 

「じゃあ、明日からよろしく。」

「……こちらこそ。」

 

  どうやらユナの気持ちには気付いていないようだ、スザクくん。意外と鈍感なようだ。二人が結ばれるかどうかは神のみぞ知る。

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