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カーテン  作者: 大枝健志
吉原の大誤算
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電波乞食のクソ阿弥陀仏

芸能界乗っ取りを計画し始める吉原 大源。かつて同級生の母を正文絡みで失った野崎 円はある日、吉原とニアミスを起こし……

 翼は虚ろな目をしながら、芸能界のドンと言われる木山の楽屋で呟き続けていた。


「僕に足りないのは向上心向上心帰依の心と向上心、帰依の心と向上心。大きな源、即ち大源……大源回帰……」

「兄ちゃん、まだまだだねぇ。あのオカマに掘られてるのが良くないのか?……お、噂をすりゃあ来やがった。おい!オカマ野郎!」


 楽屋を訪れたのは双子のオカマコメンテーターとして芸能界のご意見番として活躍するコースケだった。虚ろな目で何かを呟き続ける翼を見て「ヤダ!」と小さな悲鳴を上げたが、木山は「ヘヘッ」と笑いながら翼の肩を揉んで見せた。


「雛鳥と一緒でよ、こいつ今はピーピーブツブツ言ってっけど、すぐ大物に化けるぜ!」

「ちょっと……私の大事な玩具壊れたらどうすんのよ!?」

「大丈夫だって!オイラだって一時期はこんなんよりもっと酷かったんだから!それこそフランケン、ゾンビの類!けども皮が剥けたらいっちょ上がり!ポコチンと一緒だよ!」

「ねぇ、変な事させてないわよね?大丈夫よね?」

「クスリも何もしてねーから安心しな!」

「あんま大きい声じゃ言えないけど……あんた、あの吉原って人と番組やるようになってからちょっと変わったんじゃないの……?」


 コースケが不安げにそう訪ねた途端、木山は眉間に皴を寄せて凄んで見せた。


「……あ?先生が何だって?」

「いや……だから……」

「おい、オカマ。あんま出鱈目言うんじゃねぇぞ?お前らオカマなんてな、テレビに「出させて」もらってる側なんだからよ。勘違いすんなよ?あ?」

「それは、分かってるわよ……」

「だったら目を瞑ってくれよ。な?翼ちゃんが化けて売れたら二人でマカオに豪邸でも建てろよ。オカマだけにマカオ、なんつって」

「もう、本当変な冗談ばっか言うんだから」

「へへへ!」


 そう笑い合う二人の横で、翼は延々と何かを呟き続けていた。

 芸能界でお茶の間の人気者としてコミカルな演出にも難なく対応する吉原は番組側にとっても「使いやすい」芸能人の一人でもあった。

 プロデューサーが気を遣って吉原にある日、こんな事を話した。


「吉原先生、僕らいつも面白おかしくやらせてもらってますが、先生はやはり「元」正文学会の会長だったじゃないっすか……そろそろ大目玉なんか食らわないかなと思いまして、先生の生き方やビジョンなんかを大真面目に取り上げた番組をですね……」


 すると、吉原は腹の底から咆哮を浴びせるような勢いでプロデューサーを怒鳴りつけた。


「大馬鹿者めがぁ!」

「ひぃっ……!」

「私が恥を忍んでバラエッティーに出ているとでも思っているのか!?えぇ!?」

「いや!その、先生の尊厳や、その、軌跡といいますか、功績といいますか……」

「馬鹿者!私は正文学会を「クビ」になった男だぞ!そこを押して面白おかしくしないでどうする!?おまえの仕事は何だ!?番組をプロデューシングすることであろう!?」

「は、はい!」

「番組を通り越して私に気を遣うなど大根役者ならぬ腐れコンニャクプロッデーサーに過ぎんわ!」

「すいません!すいません!」

「そんな者に私の魅力が引き出せるのか?どうなんだ!?おい!」

「出せません!」

「ならクビ!」

「え……そんな!」

「というのは嘘ですよ。ははは。お気遣いありがとう」

「あー……ホッとしました……しかし、さすが元会長です。説教を受けているような迫力、そして緊張感がありました……」

「はーはっは!懐かしいですなぁ!何万人を前に説法したこともありました。もう、昔の話ですよ」


 そして、これからの話でもある。なぁにがテレビプロデッサー!だ!糞馬鹿垂れ共が好きな横文字めいた肩書きでふんぞりかえりおって。私が好きな肩書きは「会長」「組長」「若頭」と皆二文字しかない。それをダラダラと横文字でながーくながーく語りおって。テレビ電波で脳まで毒されおったか。べんちゃら使いのその舌も、いつか私の新たな作戦の為にボロ雑巾のように使い倒して二度と口を利けなくさせてやるわ。


 吉原の新たな野望である「芸能界乗っ取り」計画は芸能界の大御所である木山たけしを取り込む事によって日々着々と進んで行った。

 新たな団体を作らないか?と誘いもあったが誘いは所詮誘い。吉原の目指すべくものは「絶対的」でなければならなかった。


 高校生モデルとして活躍し始めた野崎 円は正文学会と関わった過去を時折思い出す事があった。同級生の母が正文にハマり、自殺した。学校へ来なくなった同級生の家で「折伏棒」という棒で滅多打ちにされた。それは野崎がクリスチャンだとバレてしまった事に原因があった。

 しかし、野崎は今も変わらずクリスチャンであり、肌身離さずロザリオを身につけている。


「まどちゃーん、今日Bスタで撮影だから。終わったらポセーラのケーキ食べよっ」

「えー!やったぁ!」

「その後何も予定ないし、送ってってあげる」

「ゆめちゃん、ありがとー」


 野崎はマネージャーにそう微笑むと意気揚々と楽屋を飛び出した。角を曲がって軽く伸びをし、深呼吸をした途端、息が詰まりそうになった。


「何だこのスタッジオの造りは!?まるでチンプンカンプンではないか!クソ垂れテレビ局めが!」

「先生、こちらです!さぁ!」

「おい!群馬!おんぶして連れて行け!」

「はい!」

「何にでも「はい」と答えるな!だから群馬は馬鹿なのだ!」

「はい!」


 間近で観るのは初めてだった。別のスタジオと入りを間違えたらしい吉原 大源が目の前を横切っていった。村上の母を死に至らしめた原因を作った男・吉原 大源。

 意気揚々とした足取りが徐々に重くなる。テレビに出始めた事は知っていたがこんな形で直接目にするとは思いも寄らなかった。

 気を取り直してスタジオに入り、撮影を終えた野崎はマネージャーと他愛もない会話をしながらケーキに舌鼓を打っていた。

 すると、マネージャーが声を潜めてこう切り出した。


「ねぇ、まどちゃん。ここだけの話なんだけど……」

「ん?何ぃ?」

「あのね、まどちゃんてクリスチャンだよね?」

「うん。うちは昔からそうだよ。パパ、イギリス人なの知ってるでしょ?」

「うん……最近ね、なんていうか……あまり大きな声で宗教の事言わない方がいいみたいで……特にキリスト系は……」

「どういうこと?」

「ここだけの情報だよ?木山さんには絶対言わない方がいい」

「えっ……でもあんな大物と絡む事ないでしょ……」

「ううん。向こうから回ってくるらしいのよ。あまり……これ以上は言えないんだけど。もし来たら「特に興味ないです」とか言っておいて。ロザリオもファッションだって」

「え……でもこれは……」

「女優、なりたいんじゃないの?」

「なら、分かった。演じてみせるよ、何だって」

「お願いね……」


 野崎の脳裏に禍々しい思案が浮かび始める。吉原のテレビでの活躍。それと呼応するように飛び出した木山の噂。点と線はすぐに繋がりそうだったが、その答えはケーキのクリームの中に溶け込ませ、無理矢理に飲み込んだ。

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