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カーテン  作者: 大枝健志
吉原の大誤算
60/66

出る杭は打たせず

危機に陥った吉原を救ったのは矢田部だった。そして、いよいよ番組は終わりを迎える。

そして、彼等三人は思わぬ方向に梶を取ることに…。

 呆然とする長崎と原田を無視し、吉原は照れ笑いを浮かべ谷田部に言う。


「こ!こら!谷田部!やたらな事を言うでない!皆さんが驚いてしまってるではないか!このお喋り君め!」

「は…はい、すいません……あれ、あの、皆さん?」


 原田、長崎、そして他のコメンテータ達もどう返したら良いか分からず。と言った表情で吉原たちを見詰めている。まるで解凍されたように、原田が動き出した。


「ちょちょちょ、ちょっといいか?吉原さん。あんた瞬間移動が出来る、と?」

「はい。」

「はい、じゃなくて。おかしいでしょ。そんなもんは。」

「それを実現可能にするのが維新です。何も別に不思議なことはありません。」

「修行すれば皆がそうなる?」

「いえ。持っている精神性や素質は人それぞれです。なので「現れ」となるには大分な時間が掛かりますが、必ず何かしらの形として現れるんじゃないでしょうかね。」

「じゃあ、伊勢さん。あんたは何か出来るの?」


 急に指名された伊勢は「ふぃあ!」と素っ頓狂な声を上げた。


「あの、伊勢さんね。あんたは何か出来るの?」

「は、は、はい!あの、写真をですね、手振れせずに撮れます!はい!」

「あっそ。本部長クラスでそれか…」


 すると吉原は手を上げた。


「原田さんね、我々は超能力クラブじゃありませんから。そこは勘違いされては困るので」

「じゃあ目的は何?」

「人類の救済、そして幸福です。」

「まぁよくある宗教の看板だね。実現できるの?それは。」

「当然です。それからね、人類というからにはあなた方もですからね。入ってますから。宗教の看板だ、なんて今おっしゃいましたけど。我々が願わなければ誰が願うんです?誰が実現させるんです?マスコミですか?タレント?それとも政治家?今までそんな人物居なかった。我々がそれを願い、実現させるのは当たり前です。」

「そう。じゃあ他の宗教もお認めになる?」

「どの宗教も最終目標は一緒ですよ。ブラフマンへの回帰です。ひとつに戻ることです。形が違うだけです。大体は認めます。あまりに何というか、俗っぽいのは避けますが。」

「なるほどね。じゃああんたらをクビにした正文学会。これをどう見る?」


 吉原は鼻の穴を大きく拡げ、自信に満ちた顔で答えた。


「真崎会長は非常に残念な選択をした。これからの繁栄を願うばかりです。」


 番組後半は決まりきったコメンテータによる予定通りの質問が並んだ為、谷田部が難なくそのほとんどを片付けた。

 伊勢が13回目の水のお代わりを要求した頃、番組はいよいよエンディングを迎えた。

 原田が最後、吉原に質問をぶつけた。


「ここまでお話して思いましたが、あんたはまだヤル気満々だね?」

「はぁ。まぁしかし、正文に私の席はありませんので。」

「出て来ると思うなぁ。これで引っ込むようなタマじゃあない。今後しばらくはどうするの?」

「そうですね…。個人的に修行を積み重ね、人類の救済について良き方法を考えて行きたいと思います。」

「意外と政治家とか?」

「癒着の激しい世界ですから。それはないです。」


 そう言うと原田と吉原は初めて揃って笑顔を見せた。ゲストの政治家は面目なさそうに下を向いた。


「はい!終了でーす!お疲れ様でしたー!」


 スタッフの掛け声と共に出演人は一斉に立ち上がった。

 原田が吉原に近付き、耳元で囁いた。


「あんた、相当タヌキしてきたね。分かるよ。」

「ははは、何を。また呼んで下さいよ。」

「次はあんたに化かされねぇぞ。」

「お待ちしてますから。では。」


 スタッフが原田を取り囲み、ピンマイクを外したり煙草を手渡したりしている。

 プロデューサーが原田に声を掛けた。


「いやー。さすが原田さん!鋭かったぁ!今日も刺さってましたね!」

「ぜぇんぜんダメ。あの親父、やっぱ手強いわ。掠り傷は負わせたかな。でも、負けだ。」

「そんな事ないっすよー!まだまだ!原田さんは負けませんよ!」

「おまえ。分かんないの?」

「何がです?」


 プロデューサーは何とも不思議そうな顔をし、原田より先に自分の煙草に火を点けた。


「今日、杭を打てなかったんだ。あいつ、絶対この先また復活するぞ。足止め出来なかった。くそ。」

「破門になった宗教家に何が出来ます?何も出来やしませんって。」

「だからお前は馬鹿なんだなぁ。今日番組見てたのか?全く、呆れるよ。」

「はは。さーせんね。」

「あいつがやらなくても、あいつを信奉してる人間が立ち上がるだろ。日本一の団体の会長だったんだぞ。今に、そうなるよ。」

「そうなんすかねぇ。自分、全然興味ないですね。」

「お前と話してるとこっちが馬鹿になりそうだよ。とにかく、お疲れ。」

「ういーっす。あ、セコちゃん!それ、片しちゃって!」


 控え室に戻った吉原は腕を組んだまま目を閉じていた。伊勢は眠り、谷田部は油取り紙を空にした。


「谷田部よ。」

「は、はい。」

「今日は助かった。」

「い、いえ!滅相もございません!」

「あいつ、また対峙するな。」

「そう…ですね。」


「美佐子さん!」


 伊勢が寝言を絶叫すると容赦なく禿げ上がったその頭を吉原が叩いた。


「叩けば出る埃…。あまりに多過ぎるな。消せる者は消して行くか。なぁ、谷田部。」

「そうですね。余りにも多過ぎますからね…。」


「お車ご用意出来ました。」

「ご苦労。」


 浅見が戻ると三人は立ち上がり、テレビ局の外の朝日を浴びた。

 これから先、成さねばならない事は分かっていた。

 埃の出所を潰していくしかない。そして…。


 翌日、各テレビ局が吉原出演のVTRを朝から垂れ流していた。疑惑の核心に迫れなかったと悔やむ報道の他、意外にも伊勢の「ポンコツ」とも言える狼狽ぶりが取り上げられた。

 特に、谷田部がジャーナリストの長崎に「それは?」と問うと、緊張の余り無関係の伊勢が手元の水を手に取り


「水です。」


 と答える場面は何度も取り上げられていた。

 浅見は昼ごろから吉原の自宅で忙しなく電話対応に追われていた。


「この角度が私はカッコイイ。まるでシルベスター・スッタローン。こっちの角度はハリソン・フォードそのもの。うむ。どう見てもハリソンだ。」


 吉原は自分の出演したテレビ番組の録画ビデオを何度も繰り返し再停止しながら自分の容姿を眺めていた。

 その時、浅見が部屋のドアをノックした。


「失礼します!先生!どういう訳か、番組への出演以来が殺到しています!」

「がはは!やはり私が男前過ぎたんだな…。」


 絶世の容姿を持つ浅見の前で吉原は誇らしげにそう言った。


「それが…メインが伊勢先生にと…。」

「伊勢ぇええええ!?」


 そう叫ぶと吉原は放屁し、椅子から転げ落ちた。


「あとの二人はスケジュールが合えばお願いしたいと…。」

「な、な、な、なんて無礼な!!何の番組だ!報道か!?ドッキュメントか!?」

「いえ、バラエティです。」

「バラエッティ!?」


 正文学会の元三聖人は思わぬ方向へ飛躍する事になる。

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