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カーテン  作者: 大枝健志
吉原の大誤算
59/66

茶番豚のクソ説教

原田と長崎から容赦なく攻められる吉原。道場での過去の出来事。そして、最大の失態を犯し、人生最大の危機を迎える。が…。

 元・正文会長吉原大源。

 テレビ番組出演早々、ジャーナリスト長崎がパネルにして出したものは正文道場の地下に作られた監禁部屋の写真だった。

 動かぬ証拠を突きつけられ、谷田部と伊勢を叱責し完全に責任転嫁した吉原。

 しかし、名物司会者の原田は鋭い眼差しを吉原に向けたまま


「茶番?」


 と突っ込んだ。


 吉原は憤慨したが冷静でいようと努めた。そして、口を開いた。


「このような写真のおかげで、私の知らないところで行われていた非道の数々を知ることが出来、私は幸せ者です。」


 原田は笑いを堪えたような表情になる。


「あ、そう。なんで幸せなの?ねぇ?教えてもらいたいね。」

「うむ。それはですね、会長の座にあった時には皆さん気を使ってこのような恥の部分は私に見せなかったんだと思いますね。そしてですね、そう。私の「維新」を信じ切れていないからこそ、このような施設を教団内で力のある者が作った。」

「それ、あんたなんじゃないの?」

「いえいえ。とんでもない。滅相もない。存じてない。記憶にない。論じてもない。」

「これだけ巨大な道場なんだから、あんたが知らないなんて訳ないでしょ。金だって相当動くよ?」

「まぁ道場そのものにつきましては、私も関与しております。ですがね、こんな「監禁」なんかしなくてはならないような信心を私達は行っておりませんでした。そう教えていました。維新こそが正しい道なのですから!」


 伊勢一人の拍手がスタジオに響き渡る。

 テレビ画面の前で、新幹部構成業務にあたっていた富士山道場主の瀬川が苦々しい顔を浮かべている。


 あれは道場建設中の出来事であった。教育プログラム担当の大塚が柔和な笑顔で吉原を出迎えた。


「先生。ようこそいらっしゃいました。こちら、ご覧下さい。」

「おぉ!これはこれは…!」

「はい!先生の仰っていた通りに作らせて頂きました!監禁部屋でございます!」

「むぅ。良き!ここで少年少女達が小便を垂れ流すまで私のバリットンボイシングを聞かされ続けるのか?」

「作用でございます。」

「本当か!?間違ってもクラアシックや演歌や歌謡曲なぞ聞かせるなよ!頭がおかしくなって、大源の声だけが心まで支配する状況に持っていけるんだろうな!?」

「作用でございます。試験的に実施した道場体験で、早速一人。」

「ほう!?それは…。」

「おい、瀬川。矢野さんを連れてきたまえ。」

「はっ!」


 瀬川は矢野と呼ばれる中学一年程の女子を連れてきた。ハーフのような顔立ちだが、目は虚ろに宙を彷徨い、何かうわごとのように呟き続けている。

 大塚は満足げな笑みを浮かべ、矢野を吉原の前まで連れて行く。


「この娘は「大源の説法よりチョコレートが食べたい」などとふざけた事を申しましたので、監禁部屋一号として強制修行を実施させていただきました。」


 大源は矢野の股間の辺りで鼻を引くつかせ、大塚に尋ねた。


「小便は!?小便は漏らしたのか!?」

「はい。水を飲ませまして、ヘッドフォンをガムテープで頭にぐるぐると巻き、説法テープを強制的に聞かせ続けた結果、四時間で放尿に至りました。先生のご指導の通り、放尿しませんと維新精神が入り込みませんので。」


 吉原は無言のまま矢野の股間の辺りを嗅ぎながら、自らの股間を弄り始めた。しかし、いつものように何ら反応は示さなかった。

 その次の瞬間、突然雄叫びをあげると大塚を殴り飛ばした。


「馬鹿者めが!この!愚か者めが!」

「も…申し訳ございません…!先生…何か不手際でも…?」

「小便を出させることに夢中になるあまり、維新の精神が入り込んでいないではないか!何故私を見てこの少女は飛びつかん!?何故だ!?」

「はああああい!!申し訳ございません!!」

「完全にカリッキュラム失敗ではないか!この娘が私を見た瞬間に監禁部屋で小便を漏らした事を想起し、栓を壊し、小便を垂れ流しながら喜んで私に駆け寄ってくるのが正解だろう!なんだこのザマは!こんな白痴のダッチワイフ紛いなぞ維新の意味がない!」

「はっ!ははぁ!」

「いいか大塚!間違っても信者の「心」を壊してはならん!この娘の姿、良く見ておけ!!」

「は!はい!」


 熱い吉原の意外とも言える言葉にこの時、瀬川は感銘を受けた。

「信者の「心」を壊してはならん」

 その通りだ!さすが吉原先生だ!


 が、次の瞬間それは見事に打ち砕かれた。


「いいか!心が無くては搾り取れるもんも絞り取れんのだ!そこを考えろ!もっとビジネッシーにやれ!もっともっとその石ころみたいな頭を働かせろ!いいな!」

「は、はい!」


 大塚は再び満面の笑みになり、瀬川は落胆の底に突き落とされた。

 そして今、画面の向こうで吉原の全てが白日の下に晒されようとしている。

 当然の報いだ、と瀬川は溜息をついた。


 原田はあくまでも「ドライ」な対応で居続ける。


「ふーん。で、そのあんたの言う「維新」て何なの?分かりやすく説明して。」

「お言葉ですが、分かりやすく理解出来るものなら修行も信心も必要なく人類を救済できます。」

「じゃあ何、あんたが人類を救うと?」

「はい。私が釈迦の後継者として、この人類を救います。」

「誰が釈迦の後継者って決めたの?」

「釈迦です。」


 吉原の答えにスタジオのあちこちから失笑が起きた。谷田部はしきりに汗を拭っている。

 伊勢は落ち着きのない様子でもじもじと、身体を動かす。原田が「伊勢さん」と呼ぶ。


「あんたね、トイレなら行ってきていいですから。長い生番組なんでそういう事もあるでしょう。」

「いや、大丈夫です。」

「なら落ち着いて。大人なんだから。」

「あの、痔なので尻が痛くて…。」

「スタッフ、誰か座布団か何か。あぁ、すいませんね。で、釈迦が後継者だなんて、釈迦が言ったの?どこで?」

「はい。私が正文の会長に就任してすぐですね。富士樹海で修行をしてました。その時に釈迦と対面しました。」

「なんでも、その山伏の格好のルーツになったとかあんた言ってたね。釈迦に会うなんて凄いねぇ。」


 そう言うと原田は厭らしい笑みを浮かべた。長崎が手を上げ、原田が指名する。


「その時、先生は沖縄へ行かれていたのでは?」


 吉原は思わず鼻水を噴出しそうになった。

 なぁぁぁっっ!?なんでこんな三流ポンコツジャーナリストが私の沖縄旅行を知っているんだ!?何故だ!?こいつ、真崎派のスパイか!?黙って風俗ライテングでもしてれば良いものを!クソめが!番組が終了次第残った財産の幾ばくかでコイツを抹殺してやる!事故がいいか、病気がいいか、粉々になり建材の一部になってインフラを支えるか。クソ垂れジャーナリストめが!!


「私は富士の樹海に居ました。私名義のホテルの領収書ですよね。確かにありますね。」


 堂々とそう答え、吉原は先手を打った。長崎は不思議そうな顔をした。そして手を上げた。


「あぁ…そうなんですか?あの…私が掴んでたのはホテルでの目撃情報だけだったので…領収書まであったとは…なんだか先生に助け舟を出して頂きまして、すいません。」


 なあああああああああああああ!!読み間違っただと!?この私が!はやっとちりしただと!?何だと!?何だとおおおおおおおおおお!!!!!

 原田はその隙を突く。リングサイドに追い込み、連打を浴びせる。


「ちょっと、あんた。修行期間中に実は沖縄で過ごしてたって事?ホテルで?優雅に?何、会長就任祝いか何かで?」


 原田はまるで、欲しいおもちゃを手に入れた子供のような無邪気な笑みを浮かべながら吉原に攻め寄った。

 吉原は追い詰められ、言い訳さえも出来なくなっていた。


「分かってない!分かってらっしゃらないなぁ!あぁ!どいつもこいつも!あぁ!」


 吉原は墓穴を掘り、そして最大の危機に陥った。掘った墓穴に自らが落ちようとしたその時、谷田部が手を上げた。


「はい。矢田部さん。」

「あの、このような事はあまり公表したくないんですが。」

「はぁ。何?」

「過去、私は先生が瞬間移動する場面に何度も遭遇しております。パッと消えたと思ったらパッと現れて…。その時もきっと、お疲れになっていたので沖縄まで移動して身体を休ませていたのではないかと… 」


 原田と長崎が口を開けたまま、呆れ返ったような表情を浮かべている。

 吉原は次の「きっかけ」を谷田部から与えられると、それを離すまいとしっかりと握り締めた。


 椅子に深く腰掛け、鼻で深呼吸をする。


 私は終わらない。私は、この吉原 大源こそは、生きながらにして完成させるのだ。

 私が完成させるのではない。貴様らが完成させるのだ。


 私を崇め、讃え、そして平伏し、そして捧げよ。

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