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薄い暗闇の中

六月。

俺達は、四人揃って帝都地下空間の第三層と呼ばれるエリアに潜っていた。

あの話し合いの後、内務省衛生局の松本主査にメンバーを紹介し、全員の意思確認ののちにメンバーはそれぞれ補助魔道士資格を取得。内務省での研修(もちろんこの期間も給料は支払われた)を経て、晴れて帝都地下空間探査事業の護衛試験小隊付きとなった。


内務省衛生局に派遣されている探査護衛総隊は、本隊が陸軍の近衛師団から独立部隊として派遣されており、大隊規模の部隊になる。指揮官は中佐だ。

大隊本部中隊は、指揮中隊と呼ばれ内務省内に設置された本部(HQ)で各中隊以下(殆どの探査は、各チームごとに小隊規模で護衛隊が組まれる)の指揮統制に当たっている。

各中隊の指揮官は少佐か大尉が受け持っている。四個ある中隊にはそれぞれ四個小隊が配置されていて、一個小隊当たりの人員は約四〇名だ。

したがって実際に地下空間探査を行う護衛小隊の数は一六個、ということになる。同時にこれが内務省が帝都地下空間に派遣できる探査チーム数の上限でもある。各小隊指揮官は中尉か少尉が受け持っている。


なんでこんなくだくだしいハナシをしたかというと、俺達は、補助とは言え魔道士なので、軍における尉官待遇、具体的には少尉相当官とされているのだ。

もちろん、少尉待遇だからと言っていきなり小隊指揮ができるわけではない。


俺たちが所属する内務省護衛試験小隊は、大隊本部の直轄とされていて、独立偵察小隊の様な扱いになっている。

その中でも、俺たち四人は、魔導士のみで編成された、一般兵が所属していない高火力分隊とされている。


通常の1個分隊は8名程度で編成されるのだが、俺たちの分隊「内務省護衛試験小隊第三分隊」通称「トライアル・スリー」は俺たち四人の他に、分隊指揮官として陸軍から柳川中尉が派遣されている。

柳川中尉も当然魔道士あり、こちらはれっきとした国家認定魔道士だ。

メンバー四人の中では、俺が先任士官になるので、副隊長という形になり、名目上みんなの上官となるわけだが、少なくとも仲間内ではこれまで通りの関係でやっている。

柳川中尉は三年前の事件の生き残りであり、俺の両親の部下でもあったらしく、俺達の教育係として分隊長を志願してくれた。


今回の探査は、旧大江戸線の六本木駅構内から、麻布十番駅に向かっての探査となる。旧大江戸線は地下鉄の中では深度が深い為、第三層の扱いとなっている。

内務省の探査チームは8名。地形データや植生、生息している動物など、各種の情報を収集しながら進んでいる。

護衛試験小隊は、探査チームの前方に一個分隊が先行し、俺達が探査チームと距離を置かない中衛、そしてもう一個分隊が探査チームの後衛を務めている。


俺たちが装着しているヘッドセットが、かすかな空電音の後、本部からの通信を伝えてきた。

「トライアル・スリー、こちらHQ、送レ」

柳川中尉が返答する。

「HQ、スリー・ワン。感明良好。送レ」

「トライアル・スリーは現位置より六十メートル先行、周辺警戒に当たれ。送レ」

「HQ、指示了解。これよりトライアル・スリーは六十メートル先行する。留意事項はあるか?送レ」

「トライアル・ワンが貴隊の百五十メートル前方に展開中。一分前に低脅威魔族との戦闘に入った。その際、後方からの物音を報告している。こちらのセンサーには反応が無い為、先行して確認、周辺警戒に当たれ。尚、トライアル・ワンとの合流は不要。別命あるまで魔法使用許可はレベルツー。送レ」

「HQ、トライアル・スリー了解。これより移動開始する。以上」


「聞いての通りだ。第一分隊は戦闘中だが、大した敵じゃない。俺達は少し先行して打ち漏らしが探査チームに迷惑をかけないようにする。行くぞ」

通信を終えた柳川中尉が俺たちに向けて言う。

「了解」

俺たち四人が声を揃える。


前方にいる第一分隊が低脅威魔族 ―この場合、普通の人間が五人がかりくらいで無力化できる程度の魔族― と遭遇し、戦闘に入ったらしい。

通信にあった後方からの物音というのが気になるが、柳川中尉は前衛をすり抜けた魔族がいるものと判断したようだ。


このメンバーで護衛任務に就くのは今回で五回目だ。それなりに連携も取れてきており、既に魔族相手の実戦も経験している。

俺達は、落ち着いて柳川中尉に続いた。


旧地下手鉄の隧道内は基本的に暗い。

探査チームの周辺には調査の為の照明器具による明かりがあるが、往時は隧道内を照らしていただろう照明はとっくの昔に死んでいるし、地下空間が魔族の領域となってからは、照明器具の明かりが届く範囲も短くなっている。

原因は判らないが、この傾向は深度が上がるほど強くなり、このあたり、第三層では照明器具の光が届くのはおよそ四十メートルといったところだ。

先行した俺たちの周りを照らすのは、それぞれがヘルメットに装着した高輝度LEDによる明かりだけだ。


本部から指示のあった六十メートルを進んだが、特に変わったことはない。

「周辺警戒態勢」

柳川中尉の命令で、俺たちは中尉を中心に、それぞれ4メートルほど正方形を作るように広がる。

数分前まで前方から聞こえていた戦闘音はもう聞こえなくなっている、静かなものだ。



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