7話 神様!水汲みはシンドイです!
和な野原を歩く。
見渡せば、一面草が覆っている。草の陰には虫がいて、大地を飛び回っていた。天気も良く、水汲み日和である。隣にはミネアさんがいて、罵倒されなければとても綺麗だ。まるでデートしている気分になる。
ふと、空を見上げると、
そこには巨大な、何かが飛んでいるではないか!?
「あの、何ですか!?あれ!?」
「あれか!バッタだ!」
「ぶは!なんつー、ドデカイバッタだよ!!」
そう、ここは異世界だった。
僕の常識等、通用する訳が無い。1メートルはある巨大なバッタだな。農作物等への被害はどうなのだろう?退治したら、報償金とか貰える?
「作物とか荒らされないんですか?」
「アイツらは虫しか食べん。放っておけ!お、ここに大きなゴミ虫が!餌にならないか?共食いしろ!!」
「明らかにそれ、僕の事言ってますよね?」
悲しくなってきたので、ここは水汲みをしよう。
バケツ2つ水を入れ、お城まで搬送する。これがまた重い。バケツ1つ10リットル。2つで20リットル。水ツボの容量が200リットルだから、10往復しなくてはならない。溢せばそれ以上の回数が必要となる。
「マチルダお嬢様はお風呂に入られる。
500リットル用意せねばな!」
「うひぇ!?」
聞かなければよかった!
城まで1キロはある。計算してみると25往復ですか!?これは1日は水汲みだけでかかるぞ!
「水汲みは1時間以内に終わらせろ」
「ふぁ!!??」
ミネアさんはバケツを4つ両手に持つ。そして、頭に1つ乗せた。
合計5つ!総重量は50キロになる。驚くのはそこでは無かった・・・ミネアさん走って運んでるんだよ!僕の全速力に匹敵するスピードで、あっという間に運んでしまった。水を1滴も溢さず、息も乱していない!この人には人間なのか!?
「ハオ!わかった?」
「僕には到底無理です!」
「まぁ、最初から5つは厳しい。少しずつ増やしていけばいい」
僕はとりあえずバケツを2つ持つ事にした。
重い!指の第二間接が悲鳴をあげた!100メートル程、進んだ所でバケツを降ろす。腕はパンパンで、指の感覚が無い。痺れで手が震えた。
額には大粒の汗が垂れ、肩で息をする。再び、僕はバケツを持ち進んだ。50回は休憩しただろう。何とか城まで運ぶ事が出来た。
「はぁ、はぁ、はぁ、
ど、どうですか!はぁ、はぁ、ミネア、さん!」
「お前、水汲み向いてないな」
ですよねぇー。
もやしっ子の僕に、そんな力仕事を任せても上手く行くハズ無いじゃないか!でも、運んでいる途中で罵倒されなかったのは嬉しい。
「それにしても、そんな力無くてよく運んだな」
「ミネアさんが、任せてくれたんで頑張れたんです」
「な!?」
ミネアさんは少し顔を赤く染めた。
そして、残酷な事を告げる。
「じゃあ、後430リットルな!」
「ぐはぁ!?」
僕はその場に倒れた。
余談だが、気力を振り絞り、あと1往復はしたのである。
その間、ミネアさんが残りの水汲みを行った。男としては情けないが、運び終えた所で僕は意識を手放す。
目を覚ますと、自室で寝ていた。
どうやらベッドに運んで貰った様だ。ふと、横を見ると、ミネアは椅子に座っている。窓から日の光が入り込み、昼寝にはもってこいだ。そのお陰か、ミネアさんは寝ている。
「・・・綺麗だ」
思わずそうぼやいてしまう。
ガサツで男っぽい。髪の手入れも適当で、口を開けば罵倒の嵐。でも、こうしていると本当に綺麗な人だ。
「口を閉じていれば、モテるだろうに」
「・・・」
(起きるタイミングを逃してしまった・・・。
綺麗だと言っていたが、外の光景の事だと思った。しかし、その後の言葉で僕の事を指していたのだ!疎い僕でも分かる。ここで起きたら気まずいじゃないか!)
「ミネアさんは凄いよね。あんなにスタイルが良いのに、筋肉で腕が太い訳じゃない。細いのに力持ちで、憧れるよ。もしかして、魔法とか使っているのか?」
「ま、ま、ま、魔法等、使っていないぞ!!」
「ぶはぁ!?ミネアさん起きてたの!?」
「い、いま!今起きたのだ!!魔法とか使っているのか?
・・・からだぞ!!そう!きっとそうだ!うん!」
「あはははは・・・全部聞いてました?」
「・・・うん」
僕とミネアさんは見つめ合う。
顔は朱色に染まり、硬直していた。自分もカッカと顔が熱いのが分かる。何か気の効いた事を言った方が良いのでは?こういう時は、何を言えば!?ああ!!思い浮かばない!!だから、僕はモテないんだろう。しかし、何か言わなくては・・・ここは何でもいいから、言うぞ!話ながら何か思い付くさ!行くぞ!
「あの」「なぁ」
「「・・・」」
被ったぁ!
どうするコレ!?ここは譲るべきだろう。
「・・・ミネアさん何ですか?」
「ふぇ!?・・・ハオこそ何だ?」
「いえいえ、ミネアさんからどうぞ」
「いやいや!ハオからどうぞ」
これはコントなのか!?
譲り合って、転けてオチをつける。でも、オチが無い!オチ無い・・・落ちない。とりあえずベッドから起きて元気な所を見せよう!
僕はベッドに立ち上がる!
が、疲れで筋肉痛になり、しかも勢い良く立ち上がったので、貧血でよろけた。
「あっ!?」
「危ない!!」
ミネアさんに僕は被さってしまった!
とても良い香りがする!女の子だけあって、とても肌は柔らかく感触も良い!ふと、顔を上げると顔が近い!もう3センチ近ければキスしていたかもしれない。目と目が合い、お互いに見つめ合う。
ガチャリ!!バーーーーン!!!
「ハオさん!体調はどうですかぁ!!!」
「はぅ!!??」
「ふぇ!?フローラ!?こ、こ、これは勘違いよ!」
僕は突然のフローラさんの訪問で、ビックリし過ぎて気絶した。
「おい!?ハオ!?ハオ!!フローラに間違いだと説明するんだ!!おい!?起きろ!!ハオ!!ハオ!!!!!!!!」
「あらぁ、ミネアも隅に置けませんねぇ。マチルダ様にはナイショにしておきますよぉ。安心して下さいねぇ♥」
「いや!いやああああ!!!!」
城中にミネアさんの悲鳴がコダマした、そうな。