58話 神様!揚げ物は如何ですか?後編
ドジュゥ!!
サツマイモを油に投入した。
小麦粉と卵、酢を少し入れ適量の水で溶いた衣を纏わせる。
「スミスさん!ジャガイモが茹で上がったら、磨り潰して下さい!
サラさん!細切れにした肉を、フライパンで炒めて!
ラミーさん!玉ねぎを刻んで!
ボブソンさん!肉を刻んでミンチにして!脂身も少し混ぜて下さい!塩コショウを少々振って下さい!」
皆に指示を飛ばす。
一人では作るのに時間がかかるからだ。
だが、それが目的では無い。
作り方を見せ、レシピが分かれば、この人達が勝手に作れる様になるからだ。次からは僕が作らなくてよくなる!楽して得取れ!いや、急がば回れだったか?まぁ、そんなのはどうでもいい。
食パンを乾燥させたのを、粉々にする。
「おい!?何でこんな上等な肉を刻むんだよ!馬鹿か?お前は!!しかも、捨てる脂身を混ぜろだと!ふざけるな!」
「あー、もういいです。僕がやりますから」
包丁を手に取り、肉をミンチにしていく。
適量の脂身を混ぜ、更に刻むのだ。そこに玉ねぎのみじん切りを加え、塩コショウで味付けした。
衣を纏わせ、パン粉を満遍なく付ける。
次々と油へダイブさせた!
ジュウウウ!!と良い音がする!油が跳ね、エプロンにかかるのだ。ああ、少し火が強いか。火力を調整する。
「ハオさんジャガイモを潰し終えました」
「ありがとう」
そこに炒めたミンチ肉を混ぜ、塩コショウで下味を付けた。平べったく形を整え衣を纏わせる。さぁ、パン粉をまぶしたら、揚げるだけだ。
大量のサツマイモの天ぷらと、コロッケと、メンチカツが山積みされていった。
「あぎゃ!!!あじぃ!!!!!」
どうやら、サラさんのつまみ食いが発動した様だ。僕が机の下を覗くと、サラさんは舌を出して、はうぅと涙目になっている。
「どうぞ」
コップを手渡すと、それを一気に飲み干した。
「いぎがえる!!」
「揚げ物は中が熱いので、気を付けて下さいよ?」
「ううう」
気持ちは分かる。
揚げ物は揚げ立てが一番旨いのだ!
油をよく切って、お皿に盛り付ける。
キャベツとニンジンを千切りにしてもらい、それで彩りを整えた。
余った揚げ物は、皆に振る舞う。
「手伝ってくれたお礼です!熱いのでお気を付けて!冷めると不味くなりますからね!」
「ハオっち!私は今直ぐ食べたいのに、どうすりゃいいんだ?」
「そんなの知りません!半分に割って確かめたらどうですか?」
僕はユフィ様の部屋に向かった。
トントン。
「ユフィ様!ハオです!準備が整いました!」
「入れ!」
大きなテーブルがある。
ここはユフィ様専用のご飯を食べる為だけの部屋だ。魔道具で作られたクリスタルが光る。これが輝いているお陰で、部屋が明るいのだ。
魔道具は便利である。
しかし、万能では無い。魔法を操るのに、コツがいるからだ。魔力は人により、多少の差がある。しかし、それが歴然として現れるのかというと、そんな事は無い。扱うのに上手か、下手か、だ。
体を動かすのが得意な人と、そうでない人の様に、魔力も同じなのだ。
魔力を扱うのが下手な人は剣を。
魔力を扱うのが上手な人は魔法を。
魔力を扱うのが普通な人は魔道具を。
この異世界ではそういう決まりとなっている。
「おい!大口叩いた割には、余裕だなぁ」
ユフィ様が僕を睨む!
「いえいえ。でも、渾身のデキです」
料理の蓋を開け、テーブルに並べた。
「………不味そうだな」
「そう仰らずに。先ずはこのサツマイモの天ぷらから」
お皿に盛り付け、手前に置いた。
「見ていても始まらん!では、戴くとしよう」
ユフィ様はフォークで持ち上げ、眉を潜めた。
観念したのか、一口、口に入れる。
サクッ!
「はぁ!!!な、な、何だこれは!?」
「あ、あ、あ、あ、あ、ああああ!!」
ユフィ様とアルフレッドさんはお互いを見つめた。
暫く固まっていたが、咳払いしてウイスキーを口にする。
「くっ!………だが、認めん。この程度ではな」
「私めはもう声が出ません」(震え声)
美味しくなかったのだろうか?
だが、次はそうはいかない!コロッケだからな!
「次の品はコロッケです」
ゴクリ!
二人は息を飲んだ!
(耐えられるのか?さっきのサツマイモもサクサクして旨かった!あんな食べ物、反則だろ!?気絶しかけたぞ!普通に考えて、これはさっきのよりも旨いのだろう。負けを認めてしまうではないか!)
フォークで刺す。
サクッ!ガリガリ!
(くあ!?まただ!このサクッ!は!?絶対!旨いではないか!しかも、中に何か入っているぞ!?これは耐えられるのだろうか?心配になってきた)
「サクッ!あがががが!!!」
ユフィ様がアルフレッドさんを見た!
(アルフレッドが震えているだと!?そんなに旨いのか!?今まで一度もあんな表情を見た事が無い!とうする?食べない………とは言えん)
「サクッ!ガリ!ムニュ!モグモグ!」
(くああ!旨い!旨過ぎる!何だ!この口の中に流れるメロディは!?幸せ過ぎて、声が出せない!!)
ユフィ様は眉間にシワを寄せて動かない。
あれ?不味かったのか?いや、コロッケは定番だから、嫌いな訳無い。サツマイモはあのモソモソ感が嫌な人もいる。
「お下げしますね」
ユフィ様は僕を睨んだ!
え?僕が何をしたの?手付かずだったから、次のを出そうと思ったのに。
(待て!それを持って行くとはどういうつもりだ!?くっ!私への当て付けか!?まだ食べたかったが、これはどうしようもない。不安になる。まだこれよりも上の品が残っている。不味いと言えるだろうか?マチルダから執事を奪う作戦が台無しである!どんな料理を出されても、不味いと言って言う事を1つ聞かせる予定だったのに!)
「メンチカツです。これは至高の一品てすよ」
ユフィ様の額から、大粒の汗が流れた。
驚いた様子で僕を眺める。あんまり見つめないで欲しい。
「では、……いただ─────」
「サクッ!ガリ!ジュワ!旨い!う・ま・い・ぞーー♪♪♪♪」
アルフレッドさんはあまりの旨さに歌った!
「アルフレッド!?裏切ったな!?」
「モグモグ!この肉汁!ジュワっと溢れ出て堪りませんな!肉の歯応えも、衣のサクサク感もマッチしてて!至高の一品!まさに!そのとーりー♪♪」
アルフレッドさんは異世界転移者なの!?
たけ⚪とピアノのCM知ってるんじゃないか?って、くらいのハーモニーだった。
僕も対抗して、そーなんっす!をやりたいが、それはまたの機会にしよう。これはポケ⚪ンのソーナンスの名台詞だ。結構得意なんだよ。
「くっ!はむ!サクッ!……………………………ダメ。無理………美味しい!」
「お褒めに預かり、光栄に存じます!」
僕は空になったグラスにブランデーを注いだ。
アルフレッドさんは泣いている。この人、まだお酒飲んでないよね?
「……………コロッケ」
「はい?」
「何故下げた!!私はまだ途中だったのに!!」
「あ、では、新しいのをどうぞ」
「これだ!この味!王宮でもこんな旨い料理、出て来ないぞ!これに比べたらゴミだ!それくらいの差がある!」
「同感です!姫様!!ハオくん!私めにもコロッケを1つ」
同感し催促するとは、流石、アルフレッドさん!隙が無い。
こうして、勝負は僕の勝ちだった。
勿論、言う事を聞いて貰おう。
「ユフィ様。僕の勝ちでいいですよね?」
「仕方あるまい」
「えーと、ですね───」
「あのだな………二度と会わないとか、だな………もう話しかけるなとかは無しだからな?」
「ええ。勿論!」
「………分かった。では言え」
「1週間お世話させて頂き、ありがとうございました!
不手際があったかと思いますが、また仲良くして下さい!」
「あ、………ああ!そうだな!で、願いは何だ?」
「えーと、また仲良くして下さい。ですが?」
「………お前はアホなのか?」
「はい。そうですけど?よく変態とか言われます。後、興味の無い事には全く反応を示さないとかも言われますね………あはははは」
「あははは!あー!おかしい!ハオは変な奴だ!全く!あはははは」
「笑い過ぎです!」
「ぷ!ぷはははは!」
「あ、アルフレッドさんまて!?」
「ひー!もうそのくらいにしてくれないか?ハオくん!ぷひひ」
「アルフレッド!笑い過ぎだぞ!あはははは」
「姫様も!ぷふ!」
「はぁ、まぁいいか」
僕達は酔い潰れるまで飲んだ。
この場は無礼講と、僕まで飲まされた。あんなにあったサツマイモの天ぷらも、コロッケも、メンチカツも無くなったのだ。お酒のアテ。最高のツマミになったと思う。
天井を見上げ、僕は考えた。
どんなに嫌な事をされても、プッと笑えたのならば許そう。
20年の月日が過ぎた。僕はサクラにされた事を全て許す。だって、こんなにも今日が笑えたのだから。
嫁との生活もそう思って許していた。
しかし、2016年から家事、育児を殆どしなくなったのだ。それまでも、ズボラな専業主婦の半分程度。僕と合わせて半人前。その程度しか出来ない人だった。
自分の洗濯と娘の洗濯を1週間に1回洗うのみ。
ご飯の用意も、それ以外の洗濯も、食器も洗わない、用意しない、片付けない。
僕は段々と嫁の発言に笑えなくなっていった。
ついに、何を言われても何も感じなくなっていく。
2017年1月6日。
「ちょっといい?話がある」
「………何?」
「離婚して欲しい」
「分かった。子供は二人とも引き取る」
「分かった………………………でも、やっぱり娘は引き取る。男の子はあれで無理やけど。娘を生き甲斐にして私は生きる」
「いや、二人とも僕が引き取る」
「いや、娘は私が引き取る」
こうして、僕は約9年間の結婚生活にピリオドを打った。




