36話 神様!愛を囁くのは恥ずかしいです!
「ハオ、随分上達しました。しかし、夜会で失敗は許されません。なので、わたくしとダンスの練習は、引き続き行いましょう」
「そうですね!僕もその方がいいと思います。継続は力なり!と申しますからね」
「ハオ」(小声)
マチルダ様の言う通りだ。
付け焼き刃では、本番で失敗する。流石だなぁと思う。そういえば、ダンスの時って皆、何を話しているのだろう?
「マチルダ様、質問しても宜しいですか?」
「何ですか?わたくしに分かる事なら?」
「ダンスしている時は、その、皆、何を話しているのかなぁ?って、思いまして・・・」
マチルダ様は少し驚いた感じになる。
そして、暫く考えては、顔を赤く染めた。
「………愛を囁いております」(小声)
「え!?」
「えーとですね。相手を誉めちぎります」
「そ、そ、そうでさか。ぼ、僕にはちょっと無理てますねぇ・・・」
(ハオが噛んだ。こんなに動揺して・・・)
「では、練習しましょうか」
「え!?無理です!無理無理!」
「わたくしの誉める所が無いと言うのですね!しくしくしく」チラリ
「いやいやいや!マチルダ様の長所は沢山知っております!えーと、その、恥ずかしい・・・です」
(ハオ可愛い!イジメたくなるぅ)
「さぁ、ハオ。愛を囁くのです。わたくしに」
マチルダ様が手を伸ばす。
拒否は出来ない!くそ!ええい!どうにでもしてくれ!
マチルダ様の手を取る。
腰に手を添え、ダンスの始まりだ。
「マチルダ様はとても綺麗で可愛いです」
「あ、ありがとう」ズキューン
「初めてお会いした時、天使かと思いました」
「あっ」ズキューン
「背中に羽を隠されているのですか?」
「そ、そんなモノはありません」ズキューン
「それにしても、僕は幸せにです」
「どういう意味ですか?」
「マチルダ様に触れれるのですから」
「ひゃ!?」ズキューンズキューン
「こうして見ると、分かります」
「何が、ですか?」
(もしかして、わたくしが好きだとバレてます!?)
「このドレスも宝石も、マチルダ様には敵わない」
「ほ、本当です、か?」ズキューン
「世界一美しいと断言出来ます!」
「はぅ!!」ズキューンズキューンズキューン
「僕はマチルダ様にお仕えさせて貰って、幸せです。お側にいるだけで。ええ。僕は満たされるのです」
マチルダ様はダンスを中断する。
何故だ!?何か不手際があったのか?考えるが思い浮かばない。
「ハオ!本当に!本当にですか!」
「何がですか?」
「先程、………仰いました、事」
「僕は嘘は言いません。てか、間違いですね」
「え!?」
(やはり嘘なの?わたくしにおべっかを使ったの?それが本当ならばわたくしは傷付きました。乙女心をもて遊ぶ等と!!)
「嘘は付けないんです」
「・・・」
「僕は呪われてます。嘘を付くとそれに見合ったペナルティを受けるのです。小さな嘘ならば、小さな不幸が。大きな嘘ならば、大きな不幸が。それを回避する事は、今まで一度も出来ませんでした」
「・・・」
「過去に1回、取り返しの無い嘘を付きました。そして、そのペナルティは死よりも重かったのです。死ぬよりも辛い思いをしました」
「それで、嘘を付かないと。いえ、付けないと」
「そうです。今まで黙っていてすいません」
「ハオが謝る事はありません。その様な呪いかあるなんて・・・解除方法は見つかったのですか?」
「いえ、それはありません。絶対に」
「探したけど、無かったのですか?」
「いえ、それを僕が望んだからです。自分で自分に呪いをかけたんです。これはその代償なんですよ」
無言で暫く時間が過ぎる。
いたたまれない空気が流れるので、僕は何か仕事はないか探す。マチルダ様は手を離してくれないし、見つめあっているのはかなり恥ずかしい。僕は目を反らすしかないけどね。
「そうですか。分かりました」
マチルダ様がようやく手を離してくれた。
ふぅ、腰に添えた手をどかし、僕は緊張から解かれる。
「それでもですよ!ハオ!何故!あんなに流暢に囁けるのです!?おかしいじゃありませんか!女慣れしていませんか!!あんなに恥ずかしがるのに!わたくしは!わたくしは、その、心臓が、うう!」
韓国ドラマを見ていて、しかも、過去の口説き文句を知っていたからとは、口が避けても絶対に言えない。僕は過去に5人の女性と付き合った事がある。嫁含む。
だけど、一度もそんな事を言った覚えが無い。
思った事を口に出しただけ。
マチルダ様は本当に美しく、気高く、気品に溢れ、可愛く、幼く、それでいて、魅力的な女性なのだ。
「僕は一度と女性を口説いた事はありませんよ。それにさっきも口説いてませんし。思った事を口に出しただけです」
僕はナンパもした事が無い。
ただのヘタレである。過去に一度と、友達を誘いナンパへ出掛けた。しかし、声をかける勇気は出なくて、撃沈した事を思い出す。
「お前!ヘタレか!?くそ!お前が言い出したんだから、お前が声をかけに行けよ!」
あの屈辱が頭を過る。
しかし、それは僕が悪いのだ。友達が声をかけてくれる事に期待したのだから。女性に声をかける事も無く、その日は終了した。
「あぅ」ズキューンズキューンズキューン
「それでは失礼します!夜会のデザート作りに行きますので」
「期待、………してます、よ」
上目遣いでマチルダ様が言う。
これは頑張るしかないでしょ!僕は気合いを入れ直した!
「イエス!ユア、マジェスティス!」
さぁ!シュークリーム作り、開始しますか!




