16話 神様!お菓子の艶出しはどうすればいいですか?
石焼き芋を沢山作った。
でも、これを死守しなくてはならない。つまみ食いの悪女、サラさんが居るからだ!
「ハオっち!何ですか?それは♪」
「はて?何でしょうね?ははは」
ミッキーマ⚪スばりのはははを口走ってしまった。僕はどうやら、声の素質がある様だ。因みにドナルドダ⚪クの物真似は得意である。はい。いらない情報ですよね。分かります。知ってました。もうそんな目で見ないで!
「ハオっちは、また何か作るの?」
「はい。お菓子を作ろうかと」
「へぇー。マチルダ様が厨房へ来るなんて珍しい。だから、なのね。」
何がだから、なのね。なのだろう?
女の子はお菓子が大好き!だから、興味が沸くのは無理もない事である。まぁ、僕もお菓子は大好きですけど。
「すいません。すり鉢と木の棒と、絹の布下さい」
「芋を潰すのは分かるけど、
絹の布は何に使うんだい?」
「裏ごしするんですよ。食感が滑らかになるんです。やらないとやるとでは、段違いですよ!」
「ハオっちは物知りだねぇ!」
「いや、その、今日初めて作るお菓子ですよ。手探りっていうか、その、不安ですよ。上手くいくかとかね………ははは」
「ハオの自信の無いのは、
初めて見るかもしれませんね。」
いや、僕は何時も自信ありませんよ?
とりあえず作ろう!そして、試行錯誤していくしかない!
「ハオっち!用意したよ」
「ありがとうございます!ミネアさんとフローラさんは、石焼き芋の皮を剥いて下さい。出来たら、すり鉢で潰してね」
「サラさんは、小麦粉、卵黄、牛乳、砂糖を用意して下さい。卵黄は、卵の白身と黄身を分けた黄身の方です」
この異世界にはバターが無い。
チーズはあるのだが、バターの製法は少し複雑なのだ。牛の種類や冷やしたり、振ったりと、加工手順が必要となる。それと、圧倒的に牛乳から取れる量が少ないのが原因かもしれない。使えるのが、4~6%なので、作れる量も更に減る。
バターはこの際、諦めて次回用意しよう。
生クリームも欲しい所だが、遠心分離機が必要となる。また牛の種類も限定される為、バターと同じく見送りだ。
バターがあれば、生クリームの代用品が作れ、生クリームがあれば、バターの代用品が作れる。何とももどかしい。
「卵の中身を分別する発想は凄いな!でも、これどうやって分けるんだ?ボールの中で黄身を掬うのは難しいぞ」
「あ、こうやるんです」
卵を割る。
白身はボールへ。半分に割った卵の殻を使い、そこに黄身を入れた。何度か殻を往復させれば、黄身だけとなる。
「簡単でしょ?」
「ハオ!お前何者だ!?」「見事な手捌きですぅ!」「私の嫁に来ないか?」「流石はわたくしの執事ですわ!」「畜生!畜生!畜生!」
もう何を言い出すか不明ですよ。この人達。
こんなの子供でも出来るでしょーが。そして、僕は男だ!嫁に等、行く訳ねーだろ!!
「あー、裏ごしした芋に先程の材料を入れます。手で捏ねて下さいね。そしたら、三日月の形に整えて下さい」
「「はーい!」」
いつの間にか料理教室になってるじゃないか!
マチルダ様も楽し気に捏ねておられる。まぁ、いいか。楽しければ。
そう、あの頃を思い出す。
2016年1月、嫁が料理を作らなくなった。だから、仕事帰ってから子供のご飯を作る日々。あの時は、そうカレーを作っていたな。
「お父さん!僕も手伝うよ!芋の皮剥き!」
「パパ!ナナコも!ナナコも!」
ピーラーを手渡すと、嬉しそうにジャガイモの皮を剥いてくれた。次は娘の番で、ニンジンの皮を剥く。お手伝いして貰ったので、お礼を言うと、嬉しそうにはにかむ。
「僕が作ったカレーだよ!美味しい!」
「パパ!嬉しい?」
「ああ!嬉しいよ!ありがとうね!」
楽しかったのは、そう長くは続かなかった。
次の日、カレーは死んだ。原因は、火を通して無かったからである。朝に加熱しておけば良かった。僕はショックで立ち直れなかったのである。子供達に、カレーは?カレーは?とせがまれるのが辛くて仕方無かった。
「ハオ!?どうした!?」
僕は泣いていた。
最近、子供の顔が思い出せなくなっているのだ。どんな顔をしていたかすら、解らない。イメージすると、そこには僕の幼い姿が写っている。ああ、何て酷い親なのだろう。
「ハオ?」
マチルダ様が僕に近付く。
そして、僕の顔を胸元に寄せる。
「悲しい時は泣いてもいいのですよ」
「う、うああああ!あああああ!!!」
僕は号泣した。
驚く程に泣いたのだ。男泣き。父親から、男は泣くな!と何度も怒られたのを思い出す。親戚の子供のイタズラで、右足にデカイ石を落とされ、爪が剥がれかけた時も怒られたのをなぁ。
「男なら泣くな!」
「大人でもこれは泣きますよ!」
医者の先生にお父さんが怒られてたなぁ。
少しだけ、もう少しだけ甘えさせて下さい。
マチルダ様。ありがとうございます。そして、本当にすいません。
「すいません。取り乱してしまいました」
「とうしたのですか?」
「嫌な事を思い出しました。それだけです」
「………そう」
マチルダ様はとても悲しそうな顔をしていた。
よし!ここは挽回しなくては!もう作り終えただろう。お菓子を焼きますか!
「えーと、艶出しは白身?黄身?どっちだ?」
「艶出し?」
「まぁ、いいか!残った白身を塗ろう!」
形付けられたのは、月の形だけでは無かった。
星やハート、何だか不明な形のも?これは誰が作ったんだ?まぁ、いいか。僕は筆でお菓子の表面を塗る。オーブンに入れて、焼き具合を見れば完成だ!
「お!出来たぞ!完成!」
「わぁ!いい匂い!」「美味しい!ナニコレ!?」「食べるな!」「サラを摘まみ出せ!」「こんな!こんな料理があったとは!?」「全部食べてはダメてますよぉ!!私怒ってますぅ!ぷんぷん!!」
騒がしい日常。
僕はここで生きている。だから、楽しまなくては損だろ?そう思えてならないのだ。




