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リリカシア=アジャ-アズライアの日記  作者: 真夜中 緒
龍の島 街道編
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百二日目

 なんとか間に合って朝一番の渡し船に乗った。

 朝霧が朝焼けにほのぼのと照らし出される光景は、なんとも言えずきれいだった。

 船着き場で売っていたおむすびには、昨日買ったのと同じ貝を甘辛く炊いた物が混ぜてあった。小さめのおむすび二つと梅の実の漬物(梅干と言うそうだ)が竹の皮に包まれて銅貨五枚。舟で食べる朝食には丁度いい。

 船はろを漕ぐ形の細長い船だった。船頭が一人で客が六人。

 いつか神威のへ川を上ったときほどではないけれど、精霊の助けは受けているようだ。

 屋根はなく、雨が降ると困るだろうと思う。雨が降ったら動かないのかもしれないけれど。

 おむすびをつまみ、竹筒から水を飲みつつ景色を眺める。朝霧が晴れるにつれて鏡の湖面と湖畔の景色が広がった。

 湖の名は龍の鏡。

 その名にふさわしい静かで端正な湖だ。

 形はかなり綺麗な楕円を描いていて、取り巻く山々からせせらぎを集め、神威へと川を送り出している。

 龍の島の神々の恵みの濃さを象徴する場所の一つと言っていいと思う。

 満々たる清水を湛え、淡水の貝や魚が豊富に取れ、水面からすくうことのできる藻には解熱や鎮痛の効果がある。

 湖畔にも薬草が多く自生し、泥の中からは稀に香木が掘り出される。

 いつだったか玉藻様に頂いて、左手首にはまっている腕輪につないだ、花に彫られた香木は、この湖の畔で掘り出されたものだと聞いた。

 いくらか白っぽいだけでいかにも木の質感を残しているが、何とも言えない涼しげな香りがする。朽ちて倒れた木の根が、泥の中に残って変化するとこうなるのだそうだ。

 舟べりに左腕で頬杖をついていると、腕輪の香りがふわりと包んでくる心地がする。私は甘い香りに包まれながら舟からの景色を楽しんだ。

 十番宿まではすぐだった。

 十一番宿へはもう湖畔から離れた峠を登らなくてはいけない。

 私は峠の天辺で湖の見納めに休憩を取った。

 同じようなことを考える者は多いようで、峠に二軒ある茶屋はどちらも賑わっていた。

 面白かったのはここの名物が、水で溶いた小麦粉を薄く焼いたものに、味噌を塗って円筒形にまるめた菓子だった事だ。神威以来初めて揚げてない小麦を見たような気がする。

 十三番まではまた峠を幾つか突っ切って、そこからは山並みに沿って進む。

 十五番で宿を取った。

 結構山の上のせいか日が暮れると幾らか風がひやりとする。

 ちょっと足が痛かった。

 考えてみるとリカドでも馬で遠乗りすることはあっても、自分の足でこれほど歩くことはあまりなかった。3日続けるとちょっと足がつかれたみたいだ。

 手持の薬草を幾つか煮出して手拭いに染み込ませ、湿布を作った。足の裏や足首、ふくらはぎなんかに巻きつける。

 当然買い食いになんか行けないけど、とにかく疲れていたので、晶屋に入ってとりあえず寝てしまった。

 目が覚めたのはすっかり暗くなってからで、のそのそ晶屋から抜け出すと、まだ寝支度の終わった人は少ないようで、そこら中で話し声や食べ物にの匂いがしていた。

 多少、足の疲れも落ち着いていたので湿布をはがし、夕食を作りに炊事場に向かった。

 もう面倒くさかったので、適当に干物と米を入れた鍋に水を張って、ぐつぐつ煮立てて雑炊にした。

 ちょっと味噌でも入れると結構美味しく食べられる。

 作りすぎたので残りは朝食に取っとくことにした。

 寝る前に体の汚れを落とし新しく作り直した湿布を巻いた。

 朝までにもうちょっと楽になってるといいなあ。

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