百一日目
しばらく寝床として使ったことはなかったけれど、さすがは狭いながらも素敵な我が家。晶屋ではゆっくりと眠ることができた。朝早いめに起きて衣類と荷物を整えて晶屋を出る。踊り行灯の灯りがちょうど、消えてゆこうとするところだった。
衝立にかけた魔術を解除して部屋をでる。食事は頼んでいないので買い食いするか自炊しなければいけない。じつは四番宿の名物が餅なので、軽いものですませてさっさと四番に向かい買いぐいする予定だった。
起き抜けに月光糖は摘んだけれど、あれはお腹の足しになるようなものではない。軽いと言ってももう少し実のあるものを食べたいところだ。
竹筒の水筒に井戸で組んだ水を詰め、新しい草鞋を履くと宿を出た。宿場の出口のところで、厚く切った山芋を焼いている、老女を見かけた。近在の百姓らしい。美味しそうだったので三切れほど買った。買った芋を大きな葉っぱのようなものに包んでくれる。何かと思って聞いてみると竹の皮だった。竹の皮とは言ってもあの節のある大きな竹から履いだわけではなくて、生え初めの竹を包んでいるものなのだそうだ。大きくなってくると自然に落ちてしまうという。
その竹の皮には独特の鄙びた香りがあって、それが包まれた山芋にもうつっていた。
焼いて塩を降っただけだったけど、山芋はおいしかった。独特のサクッとして香ばしい表面と、ホクっとした中身の仄かな甘みが塩で引き立っている。
次の峠から、前よりも少し見やすくなった湖を、眺めながら下ると四番宿まではすぐだった。
名物の餅は生地に胡桃と砂糖を混ぜ込んだ餅菓子だ。
柔らかい生地の中に、カリッとした歯ざわりと香ばしさを持つ胡桃が混ざって美味しかった。多分だけど玉藻さまが好きそうな気がする。
五番宿までもやっぱり峠だった。
何重にもなった山の、いくらか低くなっているところを突っ切って行く感じだ。
峠の上まで登れば次に続く峠越しに湖が見える。峠の天辺には簡素な作りの店があって軽食を売っている。
餅を薄く切って乾かしたものを炙ったのは美味しかった。
六番宿は上り坂の上にあって、ここから七番まではゆるゆると山並みに沿って下ってゆく。湖沿いの山並みなので眼下にはずっと湖が見えていて明るい。
宿は七番でとった。
ここから十番までの渡し舟が出ているのだ。
道も捗るし、景色もいいらしいので、明日の朝、渡し舟に乗ろうと思う。
部屋はやっぱり大部屋形式だったので、衝立に細工して晶屋で寝ることにした。手持ちの荷物だけおいて夕食を探しに町に出た。
湖のそばだけあって、貝や小魚を甘辛く炊いたものが名物らしい。明日舟でつまむのにも良さそうなので多めに買った。峠で食べた薄い餅を乾かしたものも少し。
宿の共用の炊事場で手持の干し茸と海藻を入れた鍋に水を入れて沸かし、買ってきた乾かした餅を炙った。部屋に戻って汁に味噌をとき、餅の上には甘辛い貝を乗せて夕食にした。
朝一番の渡し船は、日の出の頃に出るらしい。