九十九日目
今日、朝食の席で玉藻さまにいただきものをした。
一つは黒い漆に青貝で花びらを散らした硯箱。中にとろりとした質感の紫がかった石の硯と簡素だけどしっかりとした筆が二本、それから花と蝶の形の文鎮が入っていた。
それから墨と紙をそれぞれたくさん。
あとはいつだったか遊女の紫どののいらした折に身に着けた衣装の一重ね。
「魔術師の衣なぞ、妾はつかわぬもの。他のも何もこのままにしておかねばならんものでもない。神威の衣装は簡単に布に戻るでの、使えるように直すことじゃ。宮たちもきっと使うて貰える方が良いとおもうぞ。」
午後からまつりと訪ねた商館でも、パンだけでなく神威の普通の女性の衣装を一組貰った。
「何かでいらないとも限らないし、使わなければこちらの衣類は縫い直しも簡単だから持ってお行きなさい。」
なんだか玉藻さまと同じような事を言う。随分衣装持ちになってしまった。
夕食は商館長夫人と意気投合したまつりもいっしょに、商館でリカド風の料理をご馳走になった。
鶏と芋のミルク煮。ミルクは神威では手に入れ辛いし、リカドの芋はたぶん商館の裏庭で細々植えてる物のはずだ。どれも貴重なもので商館長ご夫妻の心やりが感じられた。
まつりにはミルクで煮る料理もリカドの芋も面白かったようで、美味しそうに食べていた。
神威には結構、外国人が住んでいるそうで、ミルクや肉の仕入先なんかの情報は共用しているそうだ。
それから魚の揚げ物と、青菜のサラダ。
神威では小麦は揚げるものと決まっているかのように、揚げたお菓子が多いのに、魚や肉を揚げたものはあまり見かけない。揚げ物や小麦といえばお菓子と決まっているらしい。だからこそパンがお茶菓子扱いされるのだろう。
まつりはなんでも面白がって、とても楽しそうだった。
私もこの先の旅をこんな風に楽しみたいと思う。