九十六日目
朝食の前にまつりに文机を買ったことを報告した。
ついでに飯もたけないし米を買うか迷っている話をすると、なぜか教えてくれようとした。やたら熱心に。
今日は玉藻様のお供だったので、逃げられたけど、ちょっと明日が怖い。
庭に昇るにあたり、久しぶりにリカドの礼装を身に着けた。
面白かったのは車に乗る時に出衣をしたことだ。
これは車中の人を示すためにすることなのだそうで、玉藻さまは、帯をわざと長く垂れるように結んで、重ねた単と一緒に牛車御簾の下からのぞかせていた。帯が遊女のしるしになるそうだ。私は魔術師の衣をたれを腰に結んで裾を引くように着て、商館長夫人の力作と一緒に裾を押し出した。
四季の庭に昇るのはこれで四度目だ。
最初は塔主さまからの晶石を朝顔の宮さまにお届けした時。
次がその日の宴。
それから萩の御方のお招きを受けたとき。
そして、今日。
車を降りるときに私は魔術師の衣の着方を直すのにちょとバタバタしたけど、玉藻さまが優雅に帯を直すさまはさすがだった。
夏の王である朝顔の宮さまに暇ごいの挨拶を申し上げたあと、玉藻様と他の王方の話し合いの間、私は別室に控えることになったのだけど、そこに女宮がたが沢山おいでになって、お喋りをした。萩の御方もおいでで、弟御の再教育は苦戦しておいでのようだが、固い決意にゆらぎはないようなので、きっとなんとかなるのだろう。
途中でどう話が転がったのか、私の着換え会のようになってしまった。つまりは着せ替え人形にされたわけだ。
どこからこれほどというような色鮮やかな衣装が大量に持ち込まれ、次々着せ替えられるのでわけがわからなくなってしまった。
最終的にこれが似合うと決まったのは、淡い紅に萌黄を重ねた衣装だった。上に羽織った魔術師の衣はごく薄い透ける生地に所々白い鳥の羽を織り込んだ凝ったもの。下に重ねた萌黄の単には袖口に鳥の羽がびっしりと刺繍されている。
とても似合うのでこれを着て帰れと言われたときは、かなり慌てた。この衣装は高い。絶対にものすごく高い。ホイホイいただけるような代物では絶対にない。
御用を終えられた玉藻さまにもそう訴えたのだけど、玉藻さまはあっさりしたものだった。
「もろうておけ。やれんものならやるとは言うまい。」
それはそうなのだろうけど。
それで私は行きと帰りで違う衣装を車の御簾の下から押し出すことになった。これはもう、見てる人がいたらわけがわからなかったろう。だってやってる本人が一番わけがわからないんだから。しかも女宮の何人かが川辺に物見に行くというのと一緒に出たので、とても華やかだった。
この出衣という方法は、傍から見ると本当に綺麗だ。押し出された衣の重なりが車に優美さと華やかさを添える。わざわざ遊の王の楼まで一緒に来てくださったので、自分がそこに混ざっているのが嘘のような華やかな集団と一緒に街をゆく事になった。
道行く人がみんな立ち止まって眺めていたけど、私だってそうすると思う。ちょっとした見物だったと思うもの。なんかもうそんな中にこんなのが混ざっててすみませんみたいな感じだった。
自室に帰りついてから荷物の整頓をした。
明日は結局飯の炊き方を習うことになりそうだし、明々後日は商館にパンを貰いにゆく予定だ。いよいよ出発が近づいてきた感じがする。




