八十九日目
今日は浮女の七姫が来る日だった。
艶やかな姿は、いつ見ても豪奢な花束を連想させられる。ただ、今日の七姫達はどこか沈んで、しかも憤っているようだった。
無理もないと思う。
だってあんな事件があってからたった五日しかたっていない。
「私どもは自分が道具であることを心得ております。」
七姫の筆頭らしい真朱という浮女が玉藻さまに訴える。
「殿方には愛でて力を得る道具。神には力を処理する道具。世界にとっては力をまわすための道具。それを厭うわけではありませぬ。むしろ誇りに思うところ。けれど、これは違いましょう。」
はらはらと花の散るように涙が落ちる。
「緋色は私の禿でした。花街で生き抜くには弱い子で、身請けと嫁入りの話が出てきたところでした。こんな形で死ぬような子ではなかったのに。」
あの時の、虚ろに立っていた浮女を思う。
緋色という名を知っても彼女は、私の中では一つの記号のようだった。目の前で泣く真朱どのを見、語られる言葉を聞いて初めて緋色という人間が生きていたのだということがわかった気がする。
「そうじゃな。あれは弔いなのじゃ。」
七姫の帰ったあと、玉藻さまが仰られた。
「花街で一人のただの浮女の弔い事などはできぬ。湯女や飯盛に比べれば格段の差じゃが、浮女も春を売るのに違いはない。」
湯女、飯盛というのが、普通の娼婦を指す言葉であるのは、私もいつの間にか聴き覚えていた。
「弔いは出来ずとも、せめて皆で思い出して泣くことで死者に手向けをおくるのじゃ。」
私も、緋色がただの記号でない生きた娘だったことを、覚えていたいと思う。様々な陰謀や事件に巻き込まれる人は、ただの被害者という記号ではなくて、それぞれに生きて暮らしてきた人間なのだ。
自分が無意識に緋色を記号のように受け止めていたと気づいたのは、ちょっとした衝撃だった。このことをしっかり覚えておかないと、いつかとんでもない間違いをしてしまいそうなきがする。




