七十九日目
今日はまた浮女が来た。
前と同じ七人。やっぱり花束のようだと思う。玉藻様の大輪の迫力はないけれど、とりどりに美しくて華やかだ。
なぜか浮女の一人から、櫛の代金を受け取った。
かっきり銀貨二十枚。それからジェムさんからの走り書き。
「儲けさせてもらいます。」
いくらで売る気なんだろう。
船頭さんに手間賃を払いそびれたのを気にしていると、代金を預かってきてくれた浮女(六花という名前だそうだ)が艶やかに笑った。
「わたしが手ずから受け取りましたもの。駄賃は十分でございましょう。」
神威の浮女七姫といえば、一目会うにも金貨がいると言われるのだそうだ。
「そしてわたしの駄賃はお顔を拝見したことで十分でございますわ。名高きリリカスのアズライアさま。」
そう言われ、正面から顔を覗き込まれてちょっとどぎまぎした。玉藻様を大輪の花に例えてしまえば小花に思えても、私に比べれば絢爛たる大輪の花だ。この場合、私は野の花と言うか、ぶっちゃけ雑草だと思う。玉藻様に比べた場合の私の事は考えない。なんかとても残念な植物にたどり着きそうだから。池の藻とか。
「お噂は聞いておりますわ。この前は御簾から出て下さらなくて残念でしたの。海賊を退治なさったのでしょう。お国でも盗賊を退治なさったとか聞いておりますわ。」
海賊は降りかかる火の粉を払っただけだし、盗賊は塔の人員の一人だっただけだ。女子は一人だったけど単なる適性の問題だし、当時はまだ上級編資格には受かってなかった。
そう答えて、自分はまだ新米なのだと説明したけれど、明らかに面白がられていることはわかった。なにより驚いたのは海賊の時の事だけでなく、塔にいたころの話まで出回っていることだ。
どこで聞いたのかと問うと客に聞いたと答える。七姫の客といえば富豪や有力者だろう。ひと目会うのに金貨のいる浮女なのだから。
玉藻様の仰る通りだ。
アズライアの名にはリリカス塔の名誉がかかる。
本当に心してかからなければ