七十五日目
今日は午後からリカドの商館に行ってきた。船長にお土産の包みと塔主様への手紙を託すためだ。
萩の宮様からのお手紙と返礼の贈り物は、商館に預けてあるので、これは私の私信だ。お土産の宛先はあえてエドにしておいた。友人たちへの荷物を塔主様に預けるのはどうかという気もするし、逆にエドに塔主様へのお土産を託すのには特に問題ないだろうと思えるからだ。なんといっても塔主様はエドの実のお母様なのだし。
大抵のお土産は適当に分けてもらうようにしてあるけど、少しだけ、宛先のあるお土産もある。エリシアの糸とか、塔主様と王太子様とエドとに、それぞれあてた大きな羽とちょっといい墨だとか。
手紙は、結局塔主様以外には覚書みたいなものだけになってしまった。
近況って言っても、だらだらしてしまいそうだし、向こうの近況を尋ねようにも返事の貰いようがない。それにやっぱり、いきなり「誰か結婚決まった?」とか、「塔を離れる人はいない?」とか聞いたら唐突過ぎだろう。私こそ塔を離れてウロウロしてる最中なのに。
だから、本当に覚書だけ。
糸の染料は貝だとか、竹や瓢箪の説明とか、そんなことばかり書いた。
夕方まで待っていると船長たちだけでなくシージェイさんたちにも会えた。狙っていた薬のほとんどは手に入れることができたらしい。
「ただねえ、浄香と呼ばれる薬だけは手に入らなかったんだよ。」
神威にしかない、神威でも秘薬と呼ばれる薬なのだそうだ。
「王のもとに滞在しているなら、ちょっと聞いてみてはもらえないか? できれば手に入れたいんだ。」
夕食の席でそう言われたので、承知した。王太子様の事は他人事ではない。なんといってもエドの敬愛する兄上だ。
夕食は、パンと鶏の煮込みと豆の炊いたのだった。実は肉を食べるのは久しぶりだ。楼で出るのは魚と玉子が多いので。
久しぶりのリカド風の食事は本当に美味しかった。