七十三日目
午後から街をウロウロしていて、面白いものを見つけた。ストンとした筒型と、途中がぎゅっとくびれたのと二種類の水筒だ。この水筒の何が面白いかというと、どちらもそれぞれに別々の種類の植物を、ほとんど原型のまま使っているところだ。
くびれた方は瓢箪というらしい。
水筒はすぼんだ口のところに栓をつけ、くびれに持ち歩きのための紐がかけてある。中から種を出したり、乾かしたり、磨いたりはする必要があるそうだけど、そのままの形で成るらしい。
筒型の竹という方はもっとすごい。
所々節で区切られた円筒形の木のような形で生えているそうだ。水を汲むだけなら節を底に残して切るだけで良いらしい。店主は青竹で米を炊くと、香りが移って美味しいと力説していた。酒を飲んでも美味しいそうだ。
青竹と言うのは切ったままの、乾かさない竹の事を言うらしい。
店で売っていた水筒は、上下の節を残して切った竹を、黄色くなるまで乾かして、口になる部分に穴をあけて栓をつけてあった。
どちらの水筒も酒を入れてもいいらしい。両方を五つづつ買った。女子向けのお土産が多いようで気になっていたんだけど、これなら男連中にうってつけだ。
それから文房具を売る店を覗いた。
リカドでもそうだけど文具を売る店はちょっと敷居が高い。屋台ってことはまずないし、店構えもどっしりしている。
買いたかったのはインクだ。
神威のインクは墨というが、固形になっているのを水に溶かして使う。硯という一部に水を張った分厚い皿のような石でできた道具に固形の墨をこすりつけるようにしながら溶かす。この作業を墨をする、と言って時々玉藻様に言いつけられてやってみることがあるが、墨を飛ばして汚したり、きれいに濃くすれなかったり、中々に難しい。一度髪が一本、硯に入っているのに気づかずにすってしまったのはとても悲劇的な結果をもたらした。
その厄介な墨をなぜ買いたいかといえば、とても持ちのいいインクだからだ。墨で書いた文字はほとんど退色しない。固まりやすいのでペンで使うには注意がいるが、とても優れたインクなのだ。
文具店に並ぶ墨はとてもきれいだ。
どれもきちんと形が整っていて、表面に凝った彫刻を施したものも多い。しかも独特の爽やかな香りもする。
じっくりと検討しながら三十本を選んだ。
墨は高い。一本で銀貨三枚は下らない。三十本の代金は金貨でおつりが出なかった。それでも数が多いので、ちょっとまけてもらったのだ。
それなりに痛い出費だけど、このお土産はきっと喜んでもらえると思う。リカドで買えば三倍程度にはなってしまうものなのだし。それから硯もいくつか。墨が高かったのであまり高いものは買えなかった。驚くほど美しいものもあったのだけど、とてもだけど手が出ない。
全部持って帰って箱に詰めると瓢箪と竹が嵩張って入らないのがわかった。この2つに関しては籠か何かを買ってきて入れようかと思う。