六十九日目
今日は初めて浮女を見た。
服装としては遊女である玉藻様に近い。
袴は履かず、袖の小さな単(小袖というらしい。)を裾をひくかたちに着て幅の広い帯を大きく結び、袿を羽織る。足は素足で爪をほんのりと赤く染めていた。
一人ではなかった。とりどりに美しい浮女が七人。
玉藻様の午前の仕置に控えていると、連れ立ってやってきたのだ。
玉藻様が大輪の花なら、人数のいる分花束のようで、それはもう華やかだった。
「王におかれましてはごきげん麗しく。」
横一列に並んだ中央の浮女が口上を述べる。
「そなたらも息災でなにより。」
それから始まったやり取りは、ちょっとすごかった。
龍の背の辺りに流行病の兆候のある事。龍の顎で井戸が二つ枯れたこと。このまま行けば龍の腹は豊作であろうということ。
龍の頭から煌に嫁入るむすめのいること。
当たり前のお喋りの中に驚くほどに広い情報が入っている。聞いていると龍の島の現状がつかめてしまいそうだ。
娼館には情報があるとかうそぶいて、娼館通いが激しいので女子に嫌われている先輩がいたけど、言ってることはまちがってなかったのかも。あの先輩の言ったのは単なる言い訳だったとは思うけど。
「そうそう、南の島から西の国に使いが立ったようでございますよ。例の海賊の話に関わるようで。」
左端の浮女の言葉にちょっと固まった。
まさか、あの海賊の話じゃないよね。
「それに決まっておろう。わざわざ国使の立つほどの海賊はそうはおらん。」
あとで聞いてみると、玉藻様にあきれられた。
「でも、抗議したのは私個人ですよ。塔を通したわけでもないし。」
ちょっと文句言いたかっただけなのに。
「上級魔術師とは充分に政治的な存在ぞ。ましてリリカスの塔の、若い女性上級魔術師。抗議をうけた南の島の王宮もさぞや慌てた事じゃろう。」
若いって事は新米ってことだ。むしろ扱いは軽くなるべきなんじゃないだろうか。
「リリカス、というのが問題なのじゃ。リカドは代替わりも遠くあるまい。王が病がちになって王太子がかなりの職務を代行しておるのは周知の事実じゃ。次代のリリカシア候補の可能性もあると思えば、対応に気を使うのは道理じゃろ。」
「それはないですよ。」
反射的に力強く否定してしまった。
リリカシアの候補はもう決まっていて、すでに現在のリリカシアの補佐についておられる。お年は王太子様より幾つか上だけど、優しく聡明な方だ。最近は王宮で王太子様のお側に控えていることが多いけど、私だって親しくして頂いていた。もちろん上級魔術師だ。
「どう見えるか、ということじゃ。そなた第二王子とも親しかろう。皆色々と気をまわすのよ。魔術大国リカドを敵に回したい者はおらん。」
エドなんて話に出したこともないのになんで知っているんだろう。
「アジャ=アズライア、それはそなたの名。その名はしかしそなたの思うよりもはるかに力を持っておるのじゃ。その力はすなわちそなたの力じゃが、油断すると振り回されることになろう。心して使うことじゃ。」
午後からは久しぶりにリカドの商館を覗きに行った。
萩の御方様からのお招きがあったそうで、ちょうど使いを出そうとしているところだったそうだ。明日の午後に伺うことになった。
商館でパンを分けてもらったので、夕食の時にまつりに食べさせてみた。なんだかお菓子みたいだという。
感じ方って違うものなんだなあ
七人の浮女は神威を代表する七つ妓楼のそれぞれ一の序列の女たちです。富豪や王侯の相手をする事が多く、才色兼備を誇ります。
10日に一度、遊の王のご機嫌伺いに来ます。他に、文でも情報のやり取りをしています。