六十五日目
今日は遊の王のお招きに預かった。
実は今も王の楼にいる。
王とは言っても四季の庭の宮様ではない。この方は神威の遊女の長なのだそうだ。遊女というのは娼婦の一種だけど、人間を相手にしない神聖娼婦なのだということは塔で習った。人間を相手にする方は浮女といって、これも神聖娼婦の性質があるのだそうだけど、詳しくは知らない。浮女も遊の王の管轄になるので、神威のすべての娼婦は王に治められている。
娼婦の長と言ってもその重々しさは四季の庭の王方にもおとらないし、決して裏社会の存在でもない。
塔ではそう習っていたけれど、実は今ひとつピンときてはいなかった。
娼婦といえば夜に裏街の辻に立っていたり、娼館にいたりする派手な女性がまず浮かぶ。リリカスではそういう女性は港に近い、表通りではない場所にいることが多く、尊敬すべき職業とは考えられていない。
実際にお会いしてみると、王はそういう女性とはまるで違う存在だった。むしろ高位の巫女の感じに近い。
「噂の星の娘じゃな。妾は遊の王を務めておる。賜る名は玉藻じゃ。この街には王が五人もおるで、ややこしかろう。玉藻と呼ぶことを許す。」
遊女や浮女は袴(神威の幅広のズボン)をはかず、素足でいるものなのでそうで、玉藻様もどこかしどけない形に着付けた着物の裾から白い足首が覗いている。髪は襟足の見えるように結い上げて、幅の広い櫛や長い簪が幾つもさしてあった。幅の広い帯を大きく結んでいるのも宮様方とはまるで違う。
「朝顔のが一度会うて見よと申すで招かせて頂いたが、なるほどのう。面白きむすめごよ。」
玉藻様はとても美しい方だ。冴え渡る美貌とでもいうか、美しさに迫力がある。見た感じ全く年齢はわからない。熟女と言うには華やかすぎるし、娘と言うには艶やかすぎる。
お話をするうちになぜだかしばらく泊めて頂く事になっていた。
神威式の寝室は初めてなのでちょっと面白い。
部屋は板敷きで、木の枠に布をかけた衝立の陰に、筵を厚くして布の縁をつけたような敷物が敷いてある。敷物のそばには衝立の他にも木の枠にのようなものがあって、神威風の長い上着が掛けられていた。
衝立の外には植物を編んだ丸いマットと低い机、机と揃えた脇息もおいてある。
夕食は侍女が部屋まで運んでくれた。昨日の宴でもみた足の付いた台が二つに様々な料理が少しすつ盛られている。なんだか机ごと運んでいるみたいで面白い。聞いてみるとこの台は膳と言うのだそうだ。
夜は主は客人にお会い出来ないとも説明してもらった。
食事が終わると御簾とその外の戸を閉められた。戸の名前は蔀だそうだ。
やはり昨日の宴でも見た、中で影が踊っているように見える明かりの下で今は日記を書いている。灯りはそのままにしておいていいそうだ。衝立の向こうの敷物がやはり寝具で、かけてある上着を被って寝ればいいらしい。




