五十六日目 (龍の島)
龍の尾の付け根は随分と賑やかな街だ。
男女とも幅の広いズボンを履いていて、男性はその裾をぎゅっと窄めて縛っている。身分によってズボンの長さが違うようで、人夫なんかはふくらはぎが見えている者が多い。女性はさすがに足首が見えるより短いものは見なかった。
女性は基本的に前合わせの上着をズボンの上から着て、縦ひだのある布をスカートのように巻いて留めている。男性は肩留めの上着で、裾をズボンに入れてしまっているものも多い。
米の茎で編んだわらじというサンダルを履いている者が殆どで、まれにかんたんな作りの浅靴を履いている者がいるようだ。
男性は大抵黒い帽子を被っていて、女性は髪を背中でくくっている。
布で包んだ荷物を持っているものが多いのはラジャラスを思い出さされて面白かった。
この街は異国との窓口になっているので、私達のような異国人も多い。薄布のズボンとぴったりした胴着の舞姫が踊っているのも見かけけど、やっぱり異国人の殆どは男性だった。どこの国でも女の長旅は珍しいらしい。
食べ物でまず面白いのはおむすびだと思う。
米を固めに水が残らないように茹でて握り固めたもので、薄い塩味がついている。大きな葉で一つづつ包んで売っていて、葉を開けるとふわりと爽やかな香りがするのもいい。食べてみると粥よりもかなり食べ応えがある。
船の調理師がいうにはあの硬めに米を炊く(と言うのだそうだ)のは難しいそうで、船では出しにくいらしい。
あとは真っ黒に発酵させた豆。しょっぱくてちょっと酸味もあっておにぎりによくあう。これは納豆と言うのだそうだ。大きなアワビとか言う貝を細く切って干した物は高級品で、贈答品に使われることが多いらしい。確かにちょっと手が出ない値段だった。
布はむしろ大陸の東にある隣国のものが目立った。
驚くほどに豪華な織り模様を施した絹地はどっしりとしてとても美しい。金糸や銀糸もふんだんに使って、豪華絢爛の一言だ。この布でドレスを作ったら目も眩むことだろう。
ラジャラスの木綿もあったが、私が買った三倍の値がついてた。
香の種類も多い。木滴は勿論、白い木、黒い塊、赤茶けた木の皮、干しても緑を残した針のような葉、と数え切れないほどある。花などから取り出した香水も売っていた。
とりあえず今日はざっと市場を歩いて終わってしまった。
手続きには明日いっぱいはかかるそうだし、明日はもっと歩き回ってみよう。
ここに出た納豆は糸引き納豆ではなく、もっと味噌に近いものです。