四十二日目
目が覚めたら、昼を過ぎていた。
一日潰さなかっただけ、良しとするべきかもしれないけれど。
被害船の乗組員はすでに助け出されてきていた。
海賊船は完全に燃え尽きてはいなかったけど、舵を失って漂流していたそうだ。近くの島に根城が発見されたとかで、今はそちらの捜索が主になっているらしい。
あの時真っ先に船に踊りこんできたでかいのが、首謀者と見られているそうだ。
目を覚まして猛烈な空腹感を覚えたので、とりあえず食堂で残してくれてあった、スープと炙った鶏肉を挟んだ薄焼きパンにを食べながら、その辺にいた船員や乗客から現状について聞いていると、船長が呼びに来た。警備隊が話したがっているらしい。
ちょっと考えて、着替えてから船長と一緒に警備隊の建物に向かった。
「お呼びと伺いましたので参りました。わたくしは何をお話すればよろしいのでしょうか。」
通された部屋に踏み込むと、中にいた人間が姿勢を正した。
着てきたのは「神威用の普段着」だ。流石に新しい正装を着るのはもったいない気がしたので。いつも簡単にくくっている髪も結い上げて髪飾りをつけている。それで言葉遣いと姿勢をただせば、リリカシアの使いの出来上がりだ。
「ええとその、わざわざお運びいただきまして。」
こういう場所では舐められてはいけないことぐらい、私も知ってる。ダラダラ引き止められたりすると困るし、なんといっても本当にリリカシアの使いなんだし。
自分の所属と身分を明かし、昨日と一昨日の件について証言して、更に苦情をのべた。
ここの警備隊がしっかりしてりゃ、やらなくていい苦労だったので。
船長が横から救助のために使用した物品と水や食料の補給についての確約をとりつけた。ちゃっかりしてるなあ。
立ち居振る舞いを学ばされているときは、なんでこんな魔術と関係ないことをさせられるのかとおもったけど、必要なことだったんだなあ。
とりあえず「お話」は必要最小限ですませられたし、明日出発の許可も出たからよかったと思う。
夕食は甘辛いタレを絡めた豚肉と薄焼きパンと豚モツのスープだった。やけにご馳走だなと思ったら、警備隊が豚をよこしてきたのだそうだ。とても美味しかった。
そういえば三馬鹿はどうしてるんだろう。
今日は見かけなかった。
それも含めてわりと良い日だった。
上級魔術師はかなり政治的な存在です。
所属する上級魔術師の数は、塔の実力を最もわかりやすく示しますし、国にとって参陣を見込める上級魔術師は重要な戦力です。
上級魔術師はたいていの国で国主への謁見を求める権利を持ち、王宮に上がることができます。
格式としては将軍や上流貴族に匹敵する扱いを受ける存在であるため、上級資格の試験を受けるものは礼儀作法や立ち居振る舞いを身につけることを求められます。