四十一日目
あいつらって、どうしてあんなに馬鹿なんだろう。
海賊の話じゃない。
あの、ラジャラスから乗ってきた連中の話だ。
海賊は出た。待ち構えていた。
船長が読んだ通りだった。
傷ついた船は一種の囮だったのだ。
あの船に遭遇したらどんな船でも、一番近くの警備隊居留地に向かうだろう。そこを待ち伏せれば航路の特定は簡単だ。
元軍人だという船長は、海賊の考えをそう分析した。そしてそれは正しかった。
考えを読めばどこで出てくるかまでわかった。
警備隊居留地に向かう航路だけに、海賊行為ができそうな場所は限られていたからだ。
海賊も待ち構えていたけど、こっちも待ち構えていた。
油の樽を敵の船上に投げ込んで四散させ、ついでに火もつけたのは我ながらうまくいったと思う。いい感じに帆と帆柱を炎上させられたし。こっちに乗り移るための梯子も簡単に弾けた。火矢に関しては風ではらえば済んだ。
海賊というのは獲物の船に乗り移れないと、結局できることはほとんど無いらしい。
それでも海賊にも中級魔術師か何かがいたみたいで、でかいのが一人、直接踊りこんできた。跳躍に魔術で補助をかけたのだと思う。
で、ここで、あの三馬鹿大将が全員でその海賊に切りかかった。
「魔術師、援護しろ。」
なんて立派なセリフを叫びながら。
正直なところを言うと、連中のことは忘れていた。
だってそれどころじゃなかったし。
船室にでもこもってりゃいいのに、なんで甲板にいるのよ。
いくらなんでもまとめてやっちゃう訳にはいかないし、三人もいるから邪魔だし、だからってほっとくとさくっとやられてしまいそうだし。
で、もたついている内に他に二人、船に乗り込んでしまった。
海賊の魔術師は敵ながらいい腕だ。海賊なんかやらなくてもできる仕事はありそうだけど。
ほっとくと三対三で切り合いになって、あっという間に討ち死にだ。面倒はなくなる気もするけどそういうわけにも行かない。
「あーもうっっ」
かなりヤケっぽく叫んだと思う。イラッとしてはいたけれど、別にヤケにはなってなかった。だってあの連中が勝手に追い詰められているだけだし。
船長が船員何人かを出そうとするのを止めて、大きく腕を振った。船上に一瞬、青白い火花が走る。小さな稲妻みたいなものだ。稲妻ははそのへんでかざされていた金属製の武器に走り、例外なく取り落とさせた。
甲板のあちこちに仕込んだ魔法陣がうまく連動してくれてよかった。すぐに船員が何人か飛び出して三馬鹿を回収する。三馬鹿が回収されたところでさっきより強い稲妻を放った。
三人より多くの海賊が送り込まれなくてよかったと思う。海賊の魔術師は一人だけだったみたいだから、あれが限界だったんだろう。他人の跳躍力への補佐という魔力の使い方は面白かったし、巧みだった。
倒れた船上の海賊は船員たちが縛り上げてくれた。
炎上によって帆と帆柱を失った海賊船は、そのままにはしておけない。手負いの獣みたいなものだから、きっちりトドメをさす必要がある。帆柱だけじゃなくて本体も燃えてくれれば面倒がなかったのだけど、さすがに消火されつつある。
実はちょっと困った。
「浮いてるだけの船」って、どうとどめを刺せばいいのだろう。
結構遠隔なのでそもそもやりにくい。中身はみっしり海賊なんだから、気楽に乗り込むわけにもいかないし。
助け舟を求めて船長を見た。
「火矢をかけるぞ。」
船長が指示を出して、火矢が次々放たれる。
魔術を使わなくても、船は燃える。
ある程度船に火がついたところで、船長は出発の指示を出した。
警備隊居留地についた時にはもう日暮れ近かったけれど、警備隊の船はすぐに被害船の保護と海賊船の確保のために出ていった。
もうフラフラで、ヘトヘトだ。
書き終わったらとりあえず、寝る。