三十三日目
新しい乗客は船酔いだそうだ。
気の毒だったのはエルさんが昨日、連中に酒を強要されたとかで、やっぱり寝込んでしまったことだ。慌てて解呪の術をかけた水を差し入れて謝った。
術自体は簡単なものなんだけど、塔でかけあいっこしているうちに、わかりにくいようにいじっちゃったから、確かに初級者だと知らないと解除できないかも。
エルさんも事情は察していたみたいで、快く許してくれた。
午後になって物売りの船が寄ってきた。
船に上がって店開きをしていたので見に行くと、細かく編んだ小さな籠にきらきらひかるものがはいっているのをみつけた。小さくて薄くて、貝殻かとも思ったけれど違った。なんとかって魚の鱗なのだそうだ。何に使うものなのか聞いてみると、一枚飲むとだいたい半日くらい眠らずにすむのだそうだ。なんだか面白そうだったので買ってみた。銅貨十枚。
残念ながら木綿の布はなかった。
夕食は海老のピリ辛炒めを挟んだ薄焼きパンだった。
船酔いの乗客は出てきていなかったけど、船員が親切に持参の酒やら食べ物やら運んでいたみたい。
まだ酒を飲もうというくらいなんだから、大したことではないのだろう。