百九十九日目
夜明け前に襲撃があった。
こちらの損害は怪我人二人。
一人は結構重い傷だったけど、なんとか命はとりとめた。
相手は五人死亡。残りの連中もほとんどが手傷を負っているはずだ。
夜を裂く笛の音に飛び起きて外に出ると、見張りが合図の笛を吹き鳴らしていた。一人は矢を腹に受けて倒れ、笛を吹いていたもう一人も矢の突き立った左腕を庇っている。
走りでた護衛たちが傷を負った二人の前に展開し、襲撃を迎え撃とうとする。
李湧さんが怪我人に走り寄るのを確認して、私は敵との間に障壁を展開した。
放たれた二の矢がすべて燃え上がる。
「こちらも矢を。」
驚いている護衛を促す。すぐに我に返って弓を構えるのはさすがだ。ヒュウっという音をたてて矢が飛ぶ。
「これを矢に。」
手近の一人に遠隔魔術の符を押し付ける。すぐに意味がわかったようで、渡した符を矢尻に突き刺して、的に向かって射た。
すぐに術を発動して飛ばす。
どんっという音と閃光が落ちた。
雷の魔術が矢尻に刺さった魔法陣上で発動したのだ。
雷魔術というのは便利なもので、発動した場所の近くにある金属にうつる性質がある。ビリっとするだけでも大抵は武器を取り落とすことになるし、威力によっては持っている人間が黒焦げにもなる。難点はわりと魔力消費量が多いことだ。
案の定、武器を取り落とす金属音と、混乱した悲鳴が起きた。
護衛たちが息を揃えて突っ込んでゆく。
勝負はあっけなくついた。
白々と夜が明ける頃には賊は逃げ散り、死者と取り残された武器が落ちているだけだった。
五人の死者のうちの一人は私が殺した死者だ。
黒焦げになっていたのは、雷の魔術を至近距離からまともに食らったからに違いなかった。手加減出来なかったのだから、仕方がない。
後始末をしてから出発した。
もう襲って来ないだろうと思いたいけれど、仕返しに来ないとも限らない。警戒しながら道を急ぎ、夜の見張りの数も倍の四人にする。私も魔法陣をいくつか仕掛けておいた。
賊が懲りてくれているといいんだけど。